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7.-③


 ジオだけでない。皆それなりの特性を持った者が、それなりの展望を持っているらしい。特に、ドクトルKやジオ、ロウヤーと言った、何らかの「役割」を呼び名にしている者はそうだった。

 もっとも彼の相棒、「文学者」リタリットはそうでもなかった様だ。

 リタリットが「文学者」なのは、存在そのものが「文学」めいていたからなので、決して何かしら書いていたからではない。

 時々口に出す戯れ言の様な言葉の集まりや、警句の集合などは、書き留めておけばかなり面白いものになるだろう、とBPなどは思うのだが、本人は至ってそういうことには興味が無いらしい。

 そして彼はその相棒にも、疑問を投げかけてみた。


「オレ?」


 リタリットは何でそんなことを、言いたげに目をむいた。


「俺ねー…… うーん」

「前言ってた、あの悪い夢は?」

「やめやめ」


 リタリットはひらひらと左手を振った。


「嫌なことなんて、いちいち探す?」

「だけど、理由が判れば、嫌な記憶では無くなるかもしれないだろ?」

「アレの何処が嫌な記憶以外の何だって言うのよ」


 リタリットは露骨に唇を歪める。顔は笑っている様に見えたが、決して笑っていないことは、彼は知っていた。知っていたから、彼はしばらく黙って相棒の次の言葉を待っていた。そうすれば、相棒は根負けして次の言葉を出してくることは、彼もここでのつき合いのうちに知る様になっていた。

 案の定、くしゃ、と表情を苦笑いに変えると、負けたよ、と言いたげに眉を寄せた。


「でも、知りたいことはあるんだ」

「うん」

「アレが、誰だったのか、それは、オレだって知りたいよ」


 それが誰だったか、というのはあえでBPは訊ねなかった。判っている。地下鉄のホームの上で、手足がちぎれて、血塗れで転がっていた、「誰か」。それがずっと、この相棒の中で引っかかっているのだ。


「そりゃ聞こえるワケじゃないさ。オレのせいだ、と言う声。けど聞こえる様な気もする。実際あの夢の中では、ざわめきは聞こえても、それ以上のものじゃない。けどオレを糾弾する声が、聞こえてきそうなんだ」

「妄想だよ」

「そぉだよ。もーそー。だからオレ、放っておけるもんなら、放っておきたい。オレは今がいい。今が楽で、気持ちがイイ。それじゃいけないのかって思う」


 鍵が掛からなくなり、気温が上がった房の床に胡座を組んだり、壁にもたれたりして、彼らはよく話す様になっていた。

 不条理に耐えるのは、厳しいが、気持ち自体は単純だ。敵が居る状況は、気持ちが楽だ。そういう意味では、戻った自分達が反乱軍になるというのは、一つの方法かもしれない、と彼は思う。自分達には、当座、敵が必要なのだ。


「お前は、リタ、どうする? 戻ったら、反乱軍に留まる?」


 そう言ったら、リタリットは何を当然な、と言った顔で彼を見た。


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