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第56話 聖魔大戦_ⅩⅣ_グラーキの黙示録

 その地域に入った途端、急激に足取りが重くなる。

 あれ? このパターンは前にもあったぞ?

 確かあれはアーカムシティに入った時の事だ。

 そうそう、探偵さんに良いようにやられていた時を思い出す。

 つまりそれは聖典側の領域を指す。

 問題は何人陣取ってるかにもよるが。


「ところでぽかーん氏」

「( ゚д゚)あんだよ」

「君、目的地はきちんと拠点化してきたの?」

「してねぇよ? ムーンビーストをとっちめただけだ」

[!? なんと、彼らがたかが低俗な種族に討伐される筈が]

「いやいや、我々魔導書陣営は神格と深く繋がってる存在だからね? 君達シャッガイの民から言わせて貰えば、いつでも気軽にナイアルラトホテプさんをディナーにご招待できる関係だから」

[………本当か?]


 シャッガイの民は疑わしげに聞いてくる。

 こんなところで嘘をつくメリットが私たちにはないのだけど?


「ちなみに君を食べようとしたスズキさんは私が気軽にディナーにご招待できる神様であるクトゥルフさんの相棒的存在だったりする。他のみんなが連れてる子達もそうだよ。君はこれからそんな人たちに無礼を働こうとしてるのだけど、何か言い分はある?」

[意味がわからないな。我々はナイアルラトホテプ様以外の神格を認めておらぬ]

「別にわからなくても良いよ。けど、多分この先にムーンビーストはもういなさそうだって事は素直に認めたほうがいいよ」

[どういう事だ]

「( ゚д゚)爺さん、俺にも詳しく」

「君達、アンブロシウス氏にも言える事だけど、あるポイントを抜けてからやけに行動の補正がかけられたなんて記憶はないかい?」

「( ゚д゚)ないぜ。ま、バイクで突っ走った方が速そうな道なのに何故かバイクのエンジンが掛からなかった、ぐらいは過去にあったが」


 それってつまり、既に誰かの支配域だったとか?

 まさか魔導書でも聖典でもないこの地域独自の支配種族がいるのだろうか?


「つまりどういう事だろうか?」

「これは体験談なのだけどね、我々魔導書陣営は聖典側の拠点では著しく行動を抑制されるようなんだ。最近仕入れたアーカムシティでは既に聖典側の手に落ちていて、そこで私は単独でありながら聖典陣営に苦戦した」

「( ゚д゚)相手に身内でもいて遠慮した結果じゃねぇの?」


 鋭いところを指摘された。

 手心を加えたというのは確かにある。だからと言って民衆を巻き込む事は私は自らしたくない。

 なるべくなら自分で選んで欲しい派だからね。


「そう言えば聖典陣営にはアキカゼ氏のクラメンが多数存在したな。中には娘さんもいるとか」

「( ゚д゚)揃いも揃って奇妙な血縁だぜ。その上ウチら側にも親戚がいるだろ?」

「なんと、魔に魅入られし血族か、いやはや納得させられる」

「|◉〻◉)b」


 やめて、煽らないで。私は悪くない。

 探究心が強いのは誰にだってある事だから!

 あとスズキさん、顔文字でジェスチャーしないで。

 これ誰も褒めてない奴だから。


 それはともかくとして、何かが襲いかかってくる気配は特にない。ないのだけど、何かに見られてる気配だけがあった。


「何かに見られてるような気がするな。ドーター?」

「プロフェッサー、周辺にそのような気配は無い」


 幻影の感知すら抜けてくる、違和感。

 この場合はこの地に来ているプレイヤーのみが肌で感じることのできる物だろうか?

 私は例のカメラで周辺の風景を写し込む。

 すると山ほどもある何かの影が映り込んだ。

 すかさずシャッターを切り、映り込んだシルエットについて3人で考察し合う。


「こんなのが映った、みんなはこれについて心当たりは?」

「( ゚д゚)また船の時と同じパターンか?」

「あの爆発事故にはアキカゼ氏が関わっていたのか?」

「違いますよ、ここにくる前にこんな写真が撮れたのです」


 捏造された事実を覆す為に、船の奥底に映り込んだ影を映しとったフレーバーをアンブロシウス氏にも見せようとした時だ、


 地響きが私達の周辺で立て続けに起こった。

 思わずしゃがみ込む者、重力操作で空に浮く者などいろんな対応を見せる。

 もちろん空に浮いたのは私だよ。

 即座に対応できずに1、2回行動に失敗したけどね。


「スズキさんは平気そうだね」

「|◉〻◉)別に揺れてませんからね」

「えっ?」

「プロフェッサー、突然しゃがみ込んでどうしました?」

「マスター、らしくないぞ?」


 スズキさんだけではない、セラエ君も、サイクラノーシュ君も地響きどころか地揺れなどないとその場に立つ。

 これでは過剰にリアクションした私たちが恥ずかしいではないか。

 ちなみに船の爆発については彼女達にも見えていた。


「( ゚д゚)これはなんらかの攻撃か? プレイヤーにのみ通用するタイプの」

「まず間違いなく」

「というより、アキカゼ氏がカメラを写すたびに起こっているのではないか? 今もそれの映像を見ようとした瞬間に起きた。というより見た側にのみ影響を及ぼすのでは?」


「なるほど、見た人数に対して現実に影響を起こすタイプか。でも船に乗る前は私とぽかーん氏、スズキさんが見たよ? 人数的に考えるならば今も変わりはないはずだ」

「( ゚д゚)いや、ひとつだけ例外があるぜ。それは幻影は人数に含まないってパターンだ。多分その影に関わる何かを発見する度に俺たちに影響が出るタイプの奴じゃないか?」


 ぽかーん氏がいつになく冴えた考えを出してくれる。

 いや、見た目に騙されてはならない。

 彼は見た目も言動も行動さえも武闘派だけど、既婚者の一般人。ロールプレイが様になりすぎてたまにどっちが本当の彼か判別がつかない時があるが、それはさておき。


「|◉〻◉)じゃあ今回僕らが被害に遭わなかった理由ってその影の映った画像を見てなかったからなんですか?」

「そうと考えるのがわかりやすいというだけだよ。だから、はい」

「プロフェッサー。こいつ、私達も巻き込もうとしてくる」

「マスター、どうする?」


「( ゚д゚)悪いがサイ、俺達の検証に付き合ってくれ。そしてこの画像拡散で現実にどれだけ影響するかの実験もしないとな」

「|◉〻◉)ハヤテさーん、僕たちを実験台にするんですか?」

「人聞きが悪いこと言わないの。それに君達、分裂できるでしょ? 一匹くらい失ったって無傷じゃない」


 しかしこの言動が良くなかったのか、スズキさん以外の幻影から顰蹙を買った。


「プロフェッサー、こいつは何を言ってるんだ?」

「スズちゃん、スズちゃんのマスターは頭平気か?」


 アレ?


「スズキさんはできるけど、君たちは出来ないんだ」

「|◉〻◉)ハヤテさん、僕の場合は過去の改竄によって精神の分裂に成功したからで、普通に分身は無理ですよ?」


 いや、え?

 でも改竄前から分裂してなかったっけ。

 あれー?


「スズちゃんはできるのか、すごい!」

「スズキ、変な技ばかり覚えてるのは知ってた。けど極めればそんなこともできるのか、ふむ」


 つまり過去の改竄でもしない限り幻影と言えど能力の幅に差があるのか。それは知らなかった。

 何せ過去の改竄をする前から彼女は歌ってるバックでスズキさんボディを複数遠隔操作するくらいは当たり前だったし。

 でも本人は過去の改竄でようやくできるみたいなこと言ってるし、これは私の認識が間違ってるのかな?


「( ゚д゚)爺さん、あんたの幻影とウチのサイを比べられても困るぜ。そいつはプレイヤーの中に混ざってなおNPC、どころか幻影として知覚されてねぇ多芸な奴だ」

「|◉〻◉)褒めても何も出ませんよ?」


 それ、褒められてない奴だよスズキさん。

 多分に呆れが混ざった表情で後頭部を掻くぽかーん氏。

 そして幻影からハイスペックな私達に慄くアンブロシウス氏。


「よもやそこまで差をつけられていたとは」

「いや、私は何もしてないんだけどね?」

「|◉〻◉)などと容疑者は罪を否認しており……」

「そうやってすぐ人の揚げ足取りをする。君はたまに私の味方か敵かわからなくなる時があるよね。どっちなの?」

「|◉〻◉)僕ほどマスター想いの幻影も居ませんよ?」

「うんうん、君はそういう奴だ。けどそうだね、抜き出した写真を見てもらったところ、特に何も起きないね」

「( ゚д゚)やっぱり幻影は頭数に入らないか。で、爺さん。これからどうする?」

「正直に言って良いです?」

「私はアキカゼ氏を支持するよ。彼のいるところ、何かのイベントが絶えず発生するからね。単独で動く私にとってこれ以上のチャンスはそうそう無いと、あの時を機によく思うものだ」

「( ゚д゚)そうかな? だがぜってえ碌なこと考えてないぜ、この爺さん」


 三者三様、それぞれの思惑が表情に出しながら私の続く言葉を待つ。


「いっそ、この怪異。表に出してみませんか? 絶対これ何かのメッセージだと思うんですよ。それにこう見えても私、ヨグ=ソトースさんと友好を結んだ実績があります。そして私が思うにこのイベント、ただ魔導書側と聖典側が競い合うだけだとはどうも思えないんですよね」

「( ゚д゚)だと思ったぜ。だが実績で言えば俺は賛成だぜ。どっちにしたってムーンビーストを制圧するのも、その怪異を呼び出すのも手間は一緒だ」

「私は途中参加組だから話についていけないが、アキカゼ氏のやりたいようにやらせた方がいいと判断するよ。シャッガイの民の目論見からは外れてしまうが」

[待て、誰に断って同胞との接触を後回しにするというのだ]

「|◉〻◉)プークスクス。残念だったね、君の仲間がいなくて」

[むがーーー!!!]


 すぐ横で煽り芸が炸裂する中、私達は目的をムーンビーストの制圧から怪異の元凶を表に出す方へ指針を向ける。

 だが、みられてる感覚はプレイヤーにしかわからず、どうしたものかと道なりに平原を歩く。

 そこへ、


「やはりここを通ると思ってたわ、父さん」

「おやシェリル、奇遇だね」

「気軽に挨拶しているところ悪いけど、囲んでるよ?」

「悪いなぁ、アキカゼさん。この土地は俺達の拠点になった」


 シェリルに続いて探偵さんとどざえもんさんも現れる。

 エセ忍者のとろサーモン氏と、>>0001氏も居た。

 聖典陣営勢揃いだ。

 こちらも3人居るとはいえ、多勢に無勢。

 なんにせよ、向こうの言い分を飲めばデバフが人数分かかることになる。

 今私達にかかってるデバフが聖典陣営によるものかどうか、確かめる必要があるな。


 私は無言で例の画像をシェリルや探偵さん、どざえもんさんに送り付けた。

 一体何事かと覗き込む彼ら。

 情報を共有するのが基本プレイな為、全員で回しみて、一体なんだと尋ねてきたその時、

 私たちを中心に地響きがなる。


「ちょっと父さん、これは一体何事!?」

「ちょっとした実験だよ。これが何かを呼び出すキーになるとそう踏んでいる」

「少年、一体何を呼び出す気だい? 私の妖精の鈴が終始なりっぱなしなんだけど!?」

「ぬ、面妖な」

「ちょw 聞いてないんですけどーwww」

「落ち着きなさい、これも全て父さんのブラフかもしれないわ。拠点化した今、こちらの攻撃は通したい放題なのは変わらないわ」

「( ゚д゚)奴さん、やる気だぜ?」

「さて、どうするアキカゼ氏」

「大丈夫、丁度現れたようだ」


 士気が下がった聖典陣営が体勢を整えてこちらに攻め入ってくると同時、私たちを見下ろすようにその影が起き上がる。


■■■■■■■■■■我を起こしたのは誰か


 開幕不機嫌そうな声。

 十分翻訳できる。できるが、寝起きで機嫌が悪そうだ。

 これは会話でいい感じに丸めこむことは難しそうだ。


[ワールドアナウンス:神格グラーキが目醒めました。各陣営で協力して和解、もしくは討伐してください]


[DANGER:グラーキの支配効果で住民がゾンビ化しました。それによって拠点化していた地域が略奪され、効果を失います]


 よもや現地の神格によって略奪されることもあるとは思いもしない。だがそれは私達にも言えること。向こうにとっても私達はイレギュラーなのだ。


 しかし聖典陣営への強制略奪はこちらにとってはラッキーだ。

 私達にかかっていた負荷が消えた。

 しかし私たちへのヘイトは増大する一方だ。

 これは仕方ないといえば仕方ない。

 運が悪かったと諦めてくれることもなさそうだ。


 新たな神格の登場に場はより混乱を極める。

 動き出したのはシェリル達。

 ようやく二つ目の拠点を取ったのにアクシデントでそれをなくして仕舞えばその元凶を駆除するのに動き出すだろう。


 その横に躍り出て構えをとる。


「手伝うよ」

「どの口がそんな事を言うのよ。先に言っておくけど、これ倒したら次は父さんがターゲットだからね?」

「それでも手助けはいるでしょ?」

「そうね、助かるわ。こいつは放置して置けないもの。聖典側にとっても、そちら側にとっても」

「そうだねぇ、拠点を上書きするにも邪魔な存在だよ、彼は」


 ただでさえ神格。

 私達のように神格を降ろすことで多様な能力を支えるプレイヤーとは違い、向こうは十全にその能力を生かすことができるのだ。寝起きといえど、その能力行使の凄まじさは肌で感じ取れるものだ。


「( ゚д゚)で、爺さんはどうするんだ? 勧誘は無理そうだが」

「そうだねぇ、まずは少し話を聞いてくれるように場を整える必要があるよね?」

「話し合いが通じる相手には見えぬが」

「それはヨグ=ソトースにも言えることだよ。なに、そこは任せておきなさい。けど同様にこちらも力を示す必要があるだろうね」

「なるほどな、道理だ。行くぞドーター、御方を身に宿す時間だ」

「イエス、プロフェッサー」

「マスター!」

「ああ、いっちょ暴れてやりますか」

「さてスズキさん、用意はいいかな?」

「|◉〻◉)いつでもどうぞ」


 それぞれの準備はバッチリだ。

 聖典と魔導書を開き、それぞれのベルトに神格が宿り、呼応する。


 「「「「「「「「──変身!」」」」」」」」


 グラーキを中心に、八つの声が木霊する。

 そして囲うように神格が現れる。

 さぁ大怪獣決戦の始まりだ。

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