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第29話 ドリームランド探訪_ⅩⅩ

 グラーキとの戦闘中、探偵さんが違和感を覚えたのだろう。

 以前戦った個体よりもだいぶ手強いと言いたげだ。

 目配せでどざえもんさんに促し、どざえもんさんも格上を見て心構えを置き直す。


 しかしシェリルはまるでその戦闘力を知っていたかのように動き出し、相手の攻撃パターンは読めていると言わんばかりの少ない動作で回避運動。

 グラーキの吸い込み攻撃+棘の鞭攻撃は不発に終わった。


「ちょっと、ボサッとしているのなら傍に退いててちょうだい」

「失礼、随分と研究されてるなと思って」

「父さんに隠してても仕方ないわね。うちのクランに魔道書のライダーが出たの。当初は私と同じ陣営に与することができないからと落ち込んでたようだけど生き方まで変わるわけじゃないと説得し、父さんの配信の研究をさせたのよ。その成果は今私の行動記録通りね」

「ちょ、自分だけ狡いよ!?」

「だったら貴方もそういう情報源を得ることね」

「俺は十分に情報をもらってるから平気だ。アキカゼさんがブログに必要以上のことを書かないのは、俺たちの探究心を奪わない事だって知ってるからな」

「僕はノーコメントで」

「なんかこの流れ、僕だけ悪者じゃない?」


 すっかり聖典側の纏め役として様になってきているシェリル。

 ただ喚き散らすだけの探偵さんに、呆れたとばかりにどざえもんさんが肩をすくめる。


 そして物乞いに厳しいのが世間一般の見解だ。

 今回は自分から情報を出さないくせしてクレクレと意地汚い姿勢を見せた探偵さんが悪いよ。


 もりもりハンバーグ君は黙して語らず。

 私もシェリルが理解者ならどのように動けば攻略できるか思案していたが、それもまとまった。


 しばらくして、決着。

 いやはや流作業で乱獲した経験上シェリルの殲滅力も侮れないものに成長している。

 どざえもんさんの精霊魔法もまた受けに攻めに一部の隙も見当たらない。

 もりもりハンバーグ君も私以外の囮役の登場に攻撃しやすそうだった。

 そして一番役に立ってないのがこの人。

 戦力である巨大ロボを失い、幻影からも幻滅されたと嘆いてる探偵さんである。


「|◉〻◉)ノ どんまい?」

「べ、別に悔しくなんてないんだからな!」

「マスター、カッコ悪いっす」

「アンラまで!?」


 そこで棒立ちが似合わないシェリルが目の前にポップされたであろうシステムを見ながらこちらへと向き直る。


「父さん」

「なんだい?」

「グラーキの祠のリポップ時間、聖典側の勝利次第で引き伸ばすことができるみたいだけどしても良いかしら?」

「あ、うーん。それをされると困るのは君たちも一緒だと思うけど、良いの?」

「そうね、今は止めておくわ。今回は検証だからそこまで急務でもないし」

「そうしてもらえると助かるよ。しかし聖典側で戦闘を受け持つとそんなギミックがね」

「そうよー。父さんが燃やした霊樹のお陰でこっちの生産施設の産出時間が大幅に増えたのだから」


 シェリルから強めに釘を刺される。

 しかしやられてみないとわからないことも多いわけで。

 彼女なりにこちらに情報を渡そうと言う意思が見られた。

 少し棘があるが、それは今更だろう。


「なるほどね、そちらは霊樹の数だけ生産施設の算出時間カットか。じゃあこっちのダンジョンはどうなんだろう? ナイアルラトホテプは増やした方がいいみたいなこと言ってたけど」

「きっとこちら側にとってはよくない事でしょうね。霊樹をこれ以上燃やされたら困るもの」

「実は今まで黙ってましたが、ダンジョンのグレードアップに霊樹の木片というアイテムが必要だったりします」

「あー、それはつまり魔道書と聖典は自ずと戦う定め?」

「その可能性は高そうだな。が、それは人が増えてきてからの話だ。俺たちが今から仲違いするのは得策ではなかろうよ」


 どざえもんさんが上手いことまとめてくれる。

 断片的な情報で仲違いするのが一番良くない。

 それにこの世界をどう遊ぶかなんてプレイヤー次第だ。

 まだ情報も出揃ってないうちに思想だけぶつけても意味がない。

 先駆者だからこそ、情報は重要だ。


「どちらにせよ、今は戦うべきではないわね。ハンバーグ君も無理してまで欲しいモノでもないのでしょう?」

「ええ、可能であるなら欲しいですが、今すぐではないですね。そっちでもっと増やしてからでも良いですし」

「残念ながらこちらで霊樹育成についてのシステムの解放はされてないわ。状況が動き次第そちらにも伝えるわ」

「助かるよ。それで探偵さん」

「なに?」

「グラーキの祠が復活するまで暇だよね?」

「ええと、なんか嫌な予感がするんだけど。そうだね」

「それにさっき全然役に立ってなかったよね? 幻影のスプンタ君に良いところを見せたいと思わないかい?」


 グググ、と圧をかけながら肩に手を置く。

 視界の端ではシェリルが「用は済んだから私は帰るわね」と言い残して退散。

 どざえもんさんに「こうなったらアキカゼさんは引かないぞ、諦めろ」と言われながら探偵さんを無理矢理バグ=シャース討伐隊に加える事に成功した。


 今回はタイミングが悪かったからね。

 それに肉盾は多い方がいい。

 どざえもんさんの絶対防御がアレにどれくらい通用するかも検証できるし、陽光操作持ちが増えるのはありがたかった。


「で、なにと闘わされる感じ?」

「|◉〻◉)バグ=シャースって神格なんですが、多分僕がソロで立ち向かっても1秒も時間稼ぎができないやつです」

「リリーちゃんでも? じゃああたしは?」

「|ー〻ー)秒で飲み込まれるんじゃないですかね? あいつ、咀嚼しないんで。それに口がたくさんありますから」

「うぇー、絶対あたしたちと相性悪いよ、そいつ」

「|◉〻◉)数多の僕を生贄にして討伐は成功してるし、アンラちゃんもたくさん分身すれば平気だよ。一緒に頑張ろ?」

「ちょっ、あたしは分身できないから! 助けてマスター!」


 視界の端ではスズキさんが小粋なトークで肉壁担当をゲットしていた。自分一人は寂しいので新しい生贄を求めたのだろうか?

 うーん、邪悪。今更か。


「君も静観してないで止めなさいよ」

「いや、彼女の言ってることは正論なんで。でも攻略はできてますので期待してくださいよ。何はともあれ、そいつを探すのが先ですが。ヤディス君、お願いね?」

「あいあいキャプテン!」


 なにやら威勢のいい掛け声でどこからか取り出した海賊帽をかぶって泳ぎ出した。

 スズキさんは分身して円陣を組みながら中心にいるアンラ君を説得している。アレじゃあ脅しだよ。

 その少し先で探偵さんはスプンタ君のご機嫌伺い。


 こんな凸凹チームで果たして攻略などできるのか。


「ここの海域ですね、見てください例の魚群が居ます」

「確かに」


 もりもりハンバーグ君からの指摘に、だいたいここら辺だよとメンバーに呼びかけていく。

 どざえもんさんはハーフマーメイドになった涅槃君を羨ましそうに見つめ、しかしその姿が視界から突然掻き消えた。


 ──バクン!


 奴が現れたのだ。

 何かに食いつく音とともに空間に、景色に、ぽっかり穴が開く。その海域には涅槃君の外套の一部が残され、それ以外は何もない。虚無。意味がわからずどざえもんさんが呆ける。


「涅槃!?」

「大丈夫です。私の領域内、掌握領域中の彼女は不死身。ただ少しここからは忙しくなるのでお手伝い頂ければ」

「分かった。アキカゼさんの言うことだ、信じるさ。だから俺にも涅槃の仇を取らせてくれ!」


 必死にこちらの襟を揺さぶってくるどざえもんさん。

 彼がここまで感情をむき出しにしたのは初めて見る。

 それほどまで幻影に絆されたか、それとも……

 なんにしろ奴を特定する方が先か。

 放っておけば被害は増えていく一方だ。


「奴が現れた! 各自光源操作の準備を!」

「もう出来てます!」

「心得た」

「|◉〻◉)バッチリです!」


 そして照らされる漆黒。

 あらわにされる正体。


<バグ=シャースが現れた>


 それぞれの想いを胸に、私達は決戦に挑む!

 私ともりもりハンバーグ君は素材集めに。

 どざえもんさんは敵討ち。

 そして探偵さんは失墜した信用を取り戻すために。


 武器を構えて敵を睨みつける。

 最初に狙われたのは、探偵さんを振り切って距離を置いたスプンタ君だった。


 ハーフマーメイドの彼女は人間のままの探偵さんより推進速度が早く、そんな気もなしにトップスピードを出し、バグ=シャースの餌食になった。


 如何に聖典側の幻影であってもこのザマだ。

 うちのスズキさんでさえ飲み込まれる。

 こんなのがリポップするモンスターである理不尽。

 そこにとうとう満を辞して熱血ヒーローが現れる。


「少年、奴には何が効く?」

「生憎と私の攻撃手段は全部通用しない。攻撃は全てもりもりハンバーグ君次第さ」

「なら聖典側の僕の武器が通用しない道理はない」

「だが、あいつはこっちの攻撃すら食うぞ?」

「だからなんだ。だからと言って諦めるのか!」


 厳密には死んでないし、生きてる。

 そしてどのタイミングで表に出ようか見計らってるけど今は言わないでおこう。

 こんな風に熱血な彼を見るのは久しぶりだ。


 こっちにきた時は歳をとって少し丸くなったと思っていた。

 そして聖典側のライダーに選ばれた時はその姿は見る影もなかった。

 しかし、その炎は燻っていただけで消えてはいなかったのだ。


「見える、君たちのマスターの姿が」

「うん、マスター私なんかの為にあんなに怒ってくれてる」

「ふん、馬鹿じゃない。正義は絶対に勝つのよ、冷静に、それでいて感情を乱さない。それが正義の正しい姿。それなのに……」


 スプンタ君は戸惑いの声を上げつつ、それでも自分のために感情をむき出しにしてくれた探偵さんの姿に少し本心を漏らし始めた。

 神の下僕として生む出された幻影。

 勝者の象徴。それが彼女、スプンタ=マンユ。

 勝つことが当たり前で、やがていつしか如何にしてスマートに勝つかだけを施行して、それをマスターである探偵さんに押し付けていたのであろう。


 だが正義の力とはそれだけではない。

 義憤。大切なものを失ったことで呼び覚まされる力もある。

 それはきっと美しくない光景で、しかし胸が締め付けられる想いだったのだろう。

 スプンタ君はそんな探偵さんの姿を目に焼き付けてモジモジしだす。


「何よ、そんな姿もカッコイイじゃない」


 少しは見直されたんじゃない?

 前に出れないスプンタ君と涅槃君を触腕の内側に隠しつつ、私は山田家と組み合わせたスズキさんをバグ=シャースに送り出し続けた。

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