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第32話 ドリームランド探訪_ⅩⅩⅢ

「形あるものはいつか朽ちるものと言いますが」


 目の前で崩壊していく塔を見つめながら、ふとそんな事を呟いた。


:ツルハシ担いでる人がなんか言ってるで

:みんな一仕事終えたみたいな顔で塔ぶっ壊してたもんな

:どざえもんさんの巨大化+ハンマーの一撃がいまだに衝撃

:あれは凄かった。水中が苦手とか関係ないもんな

:ムー陣営ズルくね?


「ずるいと思うならみんなムー陣営に来ればいいだろう? 今手にしているジョブを捨てられるものならな」


:あ、はい

:正論で殴ってくるのはやめてもろて

:実際ずるいずるい言ってもじゃあお前もやれで論破だし


「陣営はいつでも乗り換えをお待ちしていますよ。前の陣営の記憶を失いますけど」


:ちょっと父さん! さっきの何? グラーキが解放されたってアナウンス!


 おっと、身内からの密告で有耶無耶にしていた事実が白日の元に。

 探偵さんも苦笑いだ。どざえもんに至っては半ば諦めていて、もりもりハンバーグ君も首を横に振って肩をすくめていた。


 どのみちバレていたことを今明かされただけ。

 そう思う事にした。

 そしてシェリルの登場で我に帰ったコメント欄が荒れに荒れる。


:詳しく

:まーたなんかやったんですか?

:シェリルさん、どういう事です?

:詳しくはわからないわ。でもさっきワールドアナウンスでグラーキの封印が完全に解けて、通常エリアに徘徊してるそうよ

:コンブwww

:おまっ、普段封印されてるから対処出来てたグラーキを通常モンスターにしたんかwww

:え、じゃあグラーキの襲撃はアキカゼさん特有のイベントじゃなく?

:普通にエンカウントする様になったわ。全く、あれが居るだけでうちの拠点が幾つ食い物にされるかわかったものじゃない。後で補填をして貰いますからね!

:シェリルさんめっちゃ怒ってるやん

:聖典さんは怒っていい

:これは封印まっしぐらですわ

:封印方法ってやっぱり?


「聖典側で手を組んで倒す必要があるね。まぁ倒せるのはいつでもできる。さて、さっき聖典側でアナウンスが走った。まだ何かあるね?」


 ふむ? こちらでは聞こえなかったアナウンスに探偵さんやどざえもんさんが気がついた。

 ポップアップしたシステムメニューを視界から弾いてわざわざ聞いているのは、リスナーに配慮してのことだろう。


:そっちに通知が入ったのならあなたが言えばいいじゃない


「タイミング的に君かなと」


:そうね、多分私よ。かいつまんで話すけど、拠点を8つ持った時点で解放されたシステムがあるの。それが陣営内で取引ができる市場ね。基本は物々交換だけど、素材を出して情報をもらうなどのやりとりができるみたいよ。魔道書側のことまでは知らないけど


:重要情報で草

:親が親なら子も子の良い例


「へぇ、じゃあこっちも拠点解放してけば解放されるかな?」


:多分ね


「早速素材出したよ。そっちで買える?」


 探偵さんがメニューを開いて何やら弄っていた。

 さっき集めた素材を市場に出したのかもしれないね。

 それをシェリルが距離を無視して買えるかどうかの検証らしい。

 もしそれが可能なら、わざわざダンジョン組が現地に素材を取りに来なくてもいい様になるね。

 ぜひ解放しときたいシステムだ。


:OKありがたい素材を受け取ったわ。どこにあったの?


「さっきのアナウンスの元凶になった塔の素材だよ。詳しくはこの配信のアーカイブ化を乞うご期待という事で」


:そうね。どうせ話せば長くなるのでしょうからまた後で聞くわ


「これはそれぞれの分野で動くことができるいいアップデートだな」


 ホクホク顔で語るどざえもんさん。

 基本探索一辺倒の彼は素材を手に入れても活かしようがないのだ。ドワーフなのに山登りに特化した変わり者。


「そのアップデート、魔道書陣営はまだ来てないんですけどね」

「それは失礼した。しかしアキカゼさんならすぐだろう?」


 どざえもんさんは私をなんだと思っているのやら。

 まだ拠点は3つ目だと言うのに、もう終わったつもりで話を振ってくる。


 それよりも聖典側はすでに拠点化を優先して動き出していたか。

 前々回の失敗を前回で挽回した結果のクリアだったか。


 これは先駆者だのと余裕ぶっていたらいつの間にか置いていかれるな。

 いや、競ってるつもりはないんだけど。


「お義父さん、少しづつがんばりましょう。グラーキが聖典陣営の拠点を潰してる間に増やす方向で」

「ははは、僕が居る限りアレに勝手はさせないさ」

「ですが実際問題、ログイン権を使い切ったら実際手は出せませんよね? グラーキは時間が来たら復活しますし、シェリルさんかあなたが不在の時に襲ってきたらどうしようもないのでは?」

「あっ」


 探偵さんがうっかりしてたって顔をする。

 一抜け組は、ログイン権に縛られる、

 対戦参加プレイヤーと歩む時間軸の違いを完全に忘れてたでしょう?


 私も人のこと言えませんが。


「この人ログイン権のことすっかり忘れてますね」

「それと、これは僕の憶測ですが、こっちの世界、向こうと時間の流れ30倍くらい違いますよ?」

「そう言えばこっちでの一ヶ月、ログイン権一回分で済んだものね」


:草www

:これは聖典陣営の拠点壊滅待ったなしですわ

:全員がアレを圧倒する必要があるのか

:最低限の強さがそのレベルは難易度おかしいやろ


「正直な話、グラーキ素材はダンジョン運営において初歩の初歩ですからね?」


:グラーキ君涙拭けよ

:お前の勇姿は見せてもらったぜ

:もう死んだ事になってて可哀想

:やめて! グラーキのライフはもう0よ!

:次回、グラーキ死す!


「バグ=シャースですらお使いクエストの雑魚扱いだからね。素材がランダムドロップとは言え、10個集める系のアイテムが出てきた時は乾いた笑いが出たよ。この強さでこれか、と」


「あれが雑魚はきついな。グラーキも大概だが、それクラスがゴロゴロ居るのがこっちの世界ということだ」


「そもそもソロでクリアさせて貰える難易度ではないと思いますよ。お義父さんがいないと僕単独じゃどうしようもないですし」

「うむ、俺も今回戦ってみたが探偵の人がいてようやく勝負になる感じだったな。邪魔にはならない様にサポートはしたが、俺はいてもいなくても同じ様な気がした」

「それを言ったら私だってサポートでしたよ。ね、もりもりハンバーグ君?」

「こんな感じで花を持たせてくれるので、僕は頭が上がらなくなるんですよ」

「分かる。俺もハードル上げられまくったな」

「僕は逆に彼を風除けにして好き勝手したけどね」


「みんなはこの人くらいに図太くなっちゃダメですよ? 人のこと言えないくらい無茶やりますから」

「|◉〻◉)ハヤテさん、ブーメランです」

「スズちゃん辛辣!」

「はっはっは、言われてるねぇ少年」

「私のブレーキ役が彼女ですからね。どうしても探索に前のめりになるきらいがある私を引き止めてくれるんだ。さて、雑談はここぐらいにして次に行こうか?」


「次とは?」

「無論リベンジさ。塔にバグ=シャース関連のイベントあったでしょ?」

「ああ、あれね。“闇と共に来るもの”の撃退法だったかな?」

「そう、それ。検証も兼ねて何回かやろうよ」

「そう言って、君はただアイテムが欲しいだけでしょ?」

「確かにそれもあります。ただバグ=シャースに至ってはまだ謎が多いんですよ。あの重量のものがどうやって海中であれほど動き回れるのか? 不思議に思ったことないです?」


「それは確かにそうだね。闇の眷属とは言え、触腕を振るえば海をかき分ける必要がある。しかし闘ってる限りではそれは感じなかった」

「だから実態はそこにはなく、何かを介してこちら側に攻撃を送ってきてるのではないかと予測しています」

「ふむ」


「後相手が闇ならば、多分私の影ふみが通用するのではと思うんですよ」

「けど近づいたら食べられるよ?」

「あいにくと今日は残機が残ってましてね。虎穴にいらずんばと言うでしょう?」

「そこで僕に何をさせるつもり?」

「なーに、九の試練の時と同じ様にしてもらうだけですって」


 担いでたツルハシを手渡し、にっこりと笑う。


 塔の最上階で手に入れた情報(グラーキの封印解放後)では、バグ=シャースに関する情報が壁画仕立てで記されていた。

 グラーキとの戦闘に入る前までは記載されてなかったものが、封印が解かれた後に浮かび上がった。


 多分だけど塔とその周辺に配置された神格に何か関わりがあるんじゃないかと思うんだ。

 その検証も含めて私達はバグ=シャースの海域へと進路をとる。


「ここですね。ただ、あれからまだ時間がそれほど経ってません」


 前回の配信中、バグ=シャースは復活するのに五時間ものリポップ時間を要した。

 問題は海底に闇が蓄積するのにそれくらいの時間がかかるのだ。

 じゃあ故意に闇を作り出せばリポップは早められるのではと思案する。


「探偵さん、少し試したいことがあるんだけど、協力して貰える?」

「まーたテクニカルなお願い?」

「よく分かったね。ここにさっき祠部分から掠め取ってきた闇の箱があるんだけど」


:草www

:この人なんでもありだな

:この人に一番持たせちゃいけない能力なのでは?


「後で元の場所に返すよ。でも塔の復活にも関係していたこの闇の箱、他のことにも使えそうじゃない?」

「OK、把握した。僕の役割は妖精誘引かな?」

「やってくれる?」

「今度ランダさんに地下世界専用の料理作ってもらう様頼み込んでみるかな? こうも頼られるんじゃ自然回復も億劫だ」

「本当は他に水の契りを高めてくれる人がいればいいんだけど」

「でしたら僕の方で検討しておきます。どうせ地下にも素材を受け取りに行くのでその時にでも」

「お、本当? 助かるよ」


「なら牽引は俺が引き受けよう。あそこは庭みたいなもんだ」

「助かります。お義姉さんに頼もうにも忙しそうにしてますし、途方に暮れてたんですよ」


:どざえもんさんいい人でよかったね

:流石地下の開拓者様だぜ

:いや、種族によっちゃ空よりきついぞあそこ

:初歩:マグマの上を歩こう

:は?

:天空は雲の上を歩こうだからどっこいだぞ

:普通に生活してたらどっちも詰むんだよなぁ

:あそこは一般人が行く場所じゃないから

:特にハーフマリナーにとっては近寄り難い


「|ー〻ー)僕は仮死状態でならいけますよ。干物モードです」


:そこまでしていきたくねーわ

:リリーちゃん体張りすぎなんだよなぁ

:流石空陸海を制覇した魚類だ。面構えが違う

:そう言えばそうやん


「スズちゃん凄い!」

「流石にあたし空までは飛べねーわ」

「アンラ、そんな珍妙な生き物に張り合う必要ないわ。私たちに必要なものはその都度見極めるから」

「流石スプンタちゃん、ブレねーっす」


 ひゅーひゅーとはしゃぐ幻影達を下がらせ、ほんのりと闇の漂う空間に、闇の箱を置いてそこに妖精誘引を発動させる。

 どざえもんさん曰く、ここは水の精霊が多く屯しているのもあり、妖精も多く存在する様だ。

 ちなみにナビゲートフェアリーをオンにすると頭痛がするレベルでいるらしい。

 切っておいて良かった。


 そして、闇の箱に妖精が引き寄せられると、急激に中心の闇が濃くなった。

 そこで一斉に光源操作で太陽光を浴びせかけると、案の定バグ=シャースが現れた。

 いいな、これ。

 今度からこれを使わせてもらおう。


「さて、行くよ」


 私はショートワープを使ってバグ=シャースに飛びかかった。

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