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第46話 ドリームランド探訪_ⅩⅩⅩⅤ

「お義父さん、称号の方は確認しましたか?」

「えっ、そんなの貰ったっけ?」


 そういえばそんなアナウンスもあったよね。ハンバーグ君に言われるまで全く気づかなかったよ。

 ステータス欄から称号をスクロールしていくと、随分と後ろの方にたしかにそれはあった。


:忘れてて草

:多分称号貰い過ぎてどれがどれだかわからなくなってる可能性

:ありそう

:は? 称号ってそんなにぽんぽん貰えるっけ?

:なんだったらスキル派生数よりありそうだよアキカゼさん

:流石にそんなわけ……ないよね?


「どうかな? 私のスキルは60になったよ」


:ほら、流石に称号がそこまであるわけ……


「称号は43個目だね。流石にスキルほど多くは」


:wwwwwwwww

:43!?!?!?

:多くたって10個やそこらだろう!? なんだその数


「いえ、空や地下の試練を終えるたびにもらえるので僕でも20個はありますし」


:試練称号かー。それでも倍くらいあるアキカゼさんおかし過ぎるやろ

:なんだかんだナビゲートフェアリーの発見者だったり、陣営の発見者、空の島開拓者に影の大陸発見者だ。ベルトも発見したし、そこらへんの発見で他の追随を許さないのは仕方ない

:これで一般プレイヤーは無理があり過ぎますよ

:なんでいまだに派生スキルが60なんだ?


「そんなの私に聞かれたって一番私が理解してないよ。っと、称号の効果は消えない炎の除去?」

「ええ、これってもしかしてクトゥグアの対の効果かなと」

「ああ、どっちか倒すことでもう一方の対抗手段が得られる的な?」

「いえ、陣営チャットの方で興味深い情報が流れてきています」

「どんな?」

「クトゥグアに拠点が乗っ取られた後の火が消えないそうです。その為に再拠点化ができずに立ち往生、二次被害に頭を悩ませている、と」

「へぇ。なんか嫌な予感」

「父さん! やっと見つけたわよ」

「少年! さっきのアナウンスは何?」


 言ってる側から聖典側のお偉いさんがやってきた。

 クトゥグアの後始末をつける為にやってきたみたいだね。

 なんでか知らないけどこっちが悪者扱いで困るよ。

 同じ被害者だと言うのに。


「やぁ、探偵さんにシェリルじゃない。藪から棒に何さ」

「さっきのアナウンスよ。また召喚したんですってね?」

「けど倒した。一回目は逃したのに、二回目はどういう風の吹き回し?」

「どういう風の吹き回しも何も、ねえ?」

「ええ、こちらも被害者ですよ。事の経緯は詳しく話せませんが、突然現れたクトゥグアがこの海域一帯を燃やし尽くしてすぐにどこかへと行きました」

「何か直前に兆候とか何かなかったの?」


 私はそっとスズキさんを見やる。

 口の中でクッチャクッチャと今もクトゥルフさんの触腕の端っこを甘噛みしていた。


「|◉〻◉)? 僕に何か用です?」

「父さんがあなたが原因だと言いたげなようなのよね。知ってることを話して貰えるかしら」

「|ー〻ー)あれは今から10年前じゃったか。いや、8年……5年? 何年前だか忘れましたけど、ひどく蒸し暑い日じゃった」

「この前振りいるの?」


 私と同じ感想を持つシェリル。

 しかし疑問をぶつけるだけでは話が進まない。

 仕方なく聞いて、その結果スズキさんの手前の砂が払われた。

 シェリルが蹴っ飛ばしたのである。

 最後まで聞いて損したと言わんばかりだ。


 ほんと、うちの幻影がごめんね?


「大体わかったわ、初回のクトゥグアは本当に不幸な事故だった。でも二回目は?」

「実はね、以前討伐した時グラーキの魂片とか手に入れたじゃない?」

「なぜその話が今出てくるのかわからないけど、そうね」

「その利用法が判明した。それがそこにある召喚の門。そこに魂片を特定数捧げるとランダムで神格が召喚される」

「でも召喚はゲーム内時間で7日に一度なんですよ」

「それはうちのノーデンスさんと一緒か」

「そっちがこっちのカウンター的存在だと思うんだよね」

「それで、二匹目がどこかに行かなかった理由は? まだ話してないよね」


 娘との話を遮るように、探偵さんが被せてくる。


「うん、それなんだけど。多分この門から神格を召喚すると、召喚者は莫大なヘイトを取ることになる」

「うん? 神格は召喚者の希望を聞くとかじゃないの?」

「普通はそう考えられるけど、実際は違うみたいだ。一回目はスズキさんが消し炭になって、召喚者が消滅したとしてどこかに旅立った。しかし二回目に召喚したのはハンバーグ君だ。彼は氷結攻撃を耐え切り、それもあってイタクァは居残り続けた」

「クトゥグアの次はイタクァか。これで伏線は繋がったな」

「ええ、もし野放しにしていたら今頃拠点も再度拠点化できていたと思うのよ」

「じゃあ、私達は余計なことをしたと?」

「いいや、実際はこちらの机上の空論でしかないからね。ただ、もしその氷結能力で厄介な炎を消してくれたら助かるなと思っただけさ」

「成る程。じゃあもう一回呼ぶ?」

「7日後に? 七日間足踏みしてるのもきついわね」

「しかし実際どうする事もないんでしょ?」

「父さん、もしかして今回の称号が使えたりしませんか?」

「称号? イタクァを討伐して称号がもらえた?」


 ハンバーグ君の言わんとする事がようやく繋がる。

 対クトゥグア決戦兵器のように思われた能力は、二次災害の火消しにも可能では無いかと言う点だ。

 実際に対消滅が起こるかは本当に机上の空論の所が多いものね。実際はクトゥグア同様永久凍土化してたっておかしくない。


 ただ拠点化はプレイヤーにとっての得。

 その得を勝ち取るのもプレイヤーの仕事になるのだ。

 これは神格を解き放つ度に何か言われかねないぞ?


「ええ、氷結の意思LV1です」

「アイテムにもあるけど、称号の方はレベル制みたいだ」

「ここに来て他のゲーム要素が出てくるか。もしや討伐回数を重ねる毎に効果が上昇していくタイプだろうか?」

「あれとは何回も当たりたくないですけどね」

「おや、君ともあろうものが珍しい」


 探偵さんは、放っておいても首を突っ込むくせにと言いたげだ。

 本当、君は私のことを理解しているよ。

 しかし今回私はあれと出会って対抗手段を持ち得なかった。

 クタアトを囮にして、ハンバーグ君の肉の芽でゴリ押しした結果の勝利である。

 相性の悪さが最後まで出ていた。


 領域展開しても、その領域毎、後出しで氷漬けにしてくる。

 クトゥグアもそうだ。関係なく空間そのものを焦土と化すレベルの違いを見せてくる。


 まるで今のままでは手も足も出ないような力量差すら感じた程だ。


「本当に強敵だったみたいだね?」

「ええ、私の領域ごと燃やされたし、氷漬けにしてきましたから。多分ソロで会いたくない一番の相手です」

「父さんですら手を焼く相手なのね?」

「僕は増やし過ぎた拠点のリセット機能ではないかと勘繰っています」

「リセット機能……たしかにそう考えると合点がいくわ。確かアレが出てきた時、私は15個目の拠点化を果たしていた。何かの実績が解除されないかしらと思ってのことだけど、もしや増やし過ぎた結果、それを招いてしまったのかもしれないのね」


:つまりどう言うことだってばよ

:拠点の増やしすぎによって召喚門のロックが解除された?

:そこにリリーちゃんが供物を捧げて召喚、と


「待って、この子は何か供物を捧げたの?」

「スルメと聞いていたけどそれって?」

「クトゥルフさんの触腕の切れ端だそうですよ」

「!」

「|◉〻◉)クッチャクッチャ。……?」

「この子は、神格の肉を口に入れて咀嚼する癖があるの?」


 あ、ドン引きしてる。

 まあわからないでもないけど。


「それで? ダメ元でこの称号使ってみる?」

「そうね、どうせこっちも拠点を燃やされ損でログアウトするのも気が引けると思ってたし」

「お義父さんが行かれるのなら僕は引き止めません。けど、僕の手をお借しするのならそれなりの対価をお求めしますね」

「ふむ、詳しく聞かせてちょうだい」

「では霊樹の木片を一つの拠点につき一つ渡していただきたい」

「それを手渡すことによるデメリットが痛そうだけど、背に腹は変えられないか。わかったわ、こちらにもその素材はあるけど拠点の数ほど持ってないの」


 あ、ハンバーグ君だけ一人交渉上手!

 私は引け目から同行を許可してしまったが、被害者で通すのならそうやれば良かった。

 くそぅ、失敗したな。

 そこで私はハンバーグ君と別れ、娘たちと共に絶賛炎上中の拠点の鎮火をしに回った。


 いくつの拠点が炎上したかまでは把握してないが、神格の召喚をしていた以外の拠点以外が壊滅したことを見るに被害は甚大だろう。

 ただでさえ拠点化数がポイントに繋がるのでここの減点は痛いだろう。

 そう言った意味合いも含めて私はやり過ぎた分を補填したいと思う。


「やっぱりその称号便利だねぇ」

「回数制限があるとは思わなかったけどね」

「ハンバーグ君は懸命だったわけだ?」

「うん、そのようだ」


 効果はLV1で10回。

 回復はゲーム内時間で一日経過か、それとも一日で1回分しか回復しないかログアウトしてみないことにはわからない。


 その日はそれ以上の配信はやめ、再ログイン後も火消しに回ろうとするが、回復はしていなかった。

 クトゥグアの残した爪痕の大きさを考えさせられつつ、私はこれ以上配信を理由にドリームランドを掻き回して良いものか考えさせられる。


 誰かの役に立とうと足掻いても、それが回り回って誰かの悲劇につながるかもしれない。

 そう思うと足が動かなくなった。


 その晩、妻から久しぶりに電話がかかってくる。

 娘が気を利かせたのか、はたまたドリームランドにかかりきりで放置してたからか、妻の声は少し沈み込んでいるようだった。


「どうかしたの?」

「実は相談があって。どうしたらいいのかわからないの」

「シェリルには相談したの?」

「言ったわ、けどあなたに聞いた方が早いとの一点張りで」

「そうなんだ」


 その相談内容とは……妻、アキエのアバターに巻かれたベルトの処遇だった。

 夫婦揃ってドリームランドに誘われたことを喜ぶべきか悲しむべきか、妻はどこか遠くで私の帰りを待っているものだと勝手に思い込んでいたが、ここがゲームである以上その選択肢はいつか必ず訪れる。


「分かった、じゃあ明日対処法を考えよう」

「よかったの? 配信頑張ってたじゃない」

「年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてね。このままでは若者たちの成長のチャンスを奪いかねないと身をひいたんだ。私一人がいなくたって彼らはあそこで生きていけるさ。十分に道筋はつけた。後は若いものたちの仕事だよ。私は老人らしく彼らの成長を見守ろう」

「そうなのね、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら」

「久しぶりに夫婦水入らずで」

「そう言いつつ、あなたはどこかの誰かを誘うのでしょう?」


 本当にこの人は私のことをよく理解している。

 幼馴染で同級生の妻は、友人よりも私の理解者であるようだ。

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