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第2話

 突然舞い込んだ企画に、俺は顔面を両手で覆った。

 一人ドヤ顔のうさ耳少女を横に、俺はどうやり過ごそうかと真剣に考えた。


「ま、引き受けちまったもんはしょうがないか。で、実績っつったって何するのか決めてるのかよ?」

「無論。こういう企画を考えてきた」


 そうやって兎耳少女こと、村正が目の前で広げた企画書には『AWOアイドルコンサート』なるものが書いてあった。

 俺はその企画書を奪い取るなり丸めて棒状にすると村正の脳天へと強かに打ちつける。


「何をするであるかモーバ殿!」

「痛くもないのに痛そうなフリをするな。と言うかアイドル? 俺にアイドルをやれってか!?」

「そう憤らなくても平気でござるよ。モーバ殿にやってもらいたいのは企画を練ることの方であるからな」

「ふむ? 詳しく聞かせろ」


 話を促し、村正から聞き出した全容は……とんでもない無茶振りだった。


「なんで引き合いにアキカゼさんが出てくるんだよ。え、何? 俺が第二のアキカゼさんになるだって? ムリムリムリだって。あの人が無自覚でどれだけの実績を残したと思ってるんだよ!」


 アキカゼ・ハヤテ。

 AWOで知らない者はいないほどの有名人。


 本人は大したことのないように言うが、巻き込まれた方はその実力を知って噂とは当てにならないものだと知るのだ。


 そんな大物を引き合いに出されて、この計画書がどれだけ荒唐無稽で現実味のないものか知ることになる。

 やばい案件に乗っちまった。今からログアウトできないものか?

 頭に思い浮かぶのは後ろ向きな提案だけだ。


「モーバ殿ならできると踏んでおるのだが?」

「お前のその俺に対する絶対の信頼はなんなのよ。ま、請け負っちまった以上はやりますよ。でも失敗したって文句は言うなよ? 俺はアキカゼさんとは違うんだ。モブ代表のモーバ様だぜ?」

「今から失敗した時のことを考えてどうするのでござるか? モーバ殿は心配性でござるな!」

「まあどこかの誰かのおかげでな、すっかり心配性になっちまったよ」


 こんな受け答えも今では生活の一部になっちまってるほどにな。


「で、お前は俺の考えた企画でアイドルとして売り出すと?」

「完璧な提案であろう?」

「穴の開きまくった泥舟に乗ってる気分だよ」


 本心である。

 しかし心外そうに兎の少女は抗議の声を上げた。


「何故であるか!?」

「自分の胸に聞いてみろ。そもそもお前、アイドルデビューしてから一度たりともランキングに乗ったことねーじゃねぇか。それでどうやってアキカゼさんプロデュースの化け物連中と張り合うつもりだよ。あの子ら上位の常連連中だぞ?」

「むっ……あれは父上の厳しい審査をパスするファンが居らぬ故。ファンさえ増やせれば拙者の魅力でイチコロであると母上殿がおっしゃっておられた」


 魅力、ねぇ。

 残念ながら今の俺にはお前の魅力が一ミクロンも分からないよ。


「お前はまず親父さんを説得することから始めろ、な? 別にアイドル活動が無謀とは言わないが、お前の親父さんがいる限りはこの企画に将来性はねぇ。そんなの話を聞かされただけの俺でだってわかるぞ?」

「むぅ……モーバ殿の企画でもでござるか?」

「お前、俺がどんな企画立てるかどれほどの信頼を寄せてんの? 新卒社会人舐めんなよ? こちとら覚える仕事ばっかでまともに営業すらかけてないんだぞ? あとアキカゼさんは現場で揉まれまくった百戦錬磨だ。培ってきた年季が違げーんだよ」

「では、どうすればいいでござるか? 父上を認めさせるにはアキカゼ殿越えをするくらいでなければ首を縦に振ってくれぬと思うが」

「なーに、変にトップと張り合う必要はないのさ。俺たちは俺たちにできる範囲でやりゃいい。上ばっか見てると足を掬われんぞ。特にお前は前しか見てない前方不注意兎だからな」

「ひどいでござる。断固抗議するでござる」

「へいへい。どうせ俺が悪いですよー。それよかカメラを回しとけ。今日早速配信行うぞ」

「さすがモーバ殿! もう企画を考えたでござるか?」

「こう言うのは変に頭の中で考え込むより、閃きに頼るくらいでいいんだ。以前アキカゼさんが言ってたろ? 俺は当時の連中に声かけてみる」

「おお、掲示板有志隊の復活でござるな!?」

「今はどこで何をやってんのかわからんが、多分あのメンツなら面白い絵が撮れると思うんだわ。いっそ巻き込もうぜ。アキカゼさんみたいにさ」

「ふむふむ、モーバ殿も悪でござるな?」

「なんだよ、今更気が付いたのか? 俺は悪いって言うよりズルいんだ。楽をして旨味だけ得たいのさ。苦労なんてまっぴらごめんだね」

「なんだかそう聞くと全然すごく聴こえないでござるな」

「凄い必要ってあるか? そもそも企画なんて10回やって8回はダメになるようなもんだろう? アキカゼさんはその全部が成功してる。それがどれだけすごいかお前にわかるか? そしてその相手に挑むことがどれだけ無謀かも知れるいい機会だ」

「なんだか拙者、自信をなくしそうである」

「お前、これくらいの企画倒れぐらいでへばってちゃアイドルなんてやれねーぞ? 華々しくデビューしてるアイドルの裏では長い下積み時代で根を上げて帰郷する奴らだっているんだ。それに比べたらお前はまだ恵まれてる方だって」

「それは褒めてくれてるのでござろうか?」

「褒めてる、褒めてる」

「ふふふ、そう言うことにしておいてやろう」


 なんだかんだ、こいつってちょろいんだよな。

 親御さんが心配するのもわかるっつーか。

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