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第4話

「はい! 第一回目から伝説を駆け上がっております俺たち! 懲りずに二回目に挑みます!」


:|◉〻◉)僕だったら萎びちゃうので素直に尊敬です

:|◎〻◎)然り

:|>〻<)然り

:この配信、半分魚類に乗っ取られかけてるやんけ

:安定のお前ら

:|◉〻◉)あ、アイドル活動の時間なので、僕はこれで!

:お仕事頑張って

:ここまで配信に関係ない話題で草

:だって燃えてるだけでなんも進行してないし

:放送事故だろ、こんなん

:気概は買うぞ


 コメントはついてるが、横道に逸れている。

 が、今はそれでもいい。人さえ集まってくれたらなんとかなる。

 唸れ、俺の水魔法!

 空中に固定化した水の塊が見る間に茹って沸騰し始める。

 蒸発し切るのは時間の問題。


「パスカル!」

「おうよ! 氷作製!」


 ぬるま湯くらいの温度に落ち着いた水溜りにハーフビースト達を放り込み、俺とオメガキャノンが入り込む。

 陸ルートには周囲を警戒してもらい、頭だけ出した俺とパスカルがSP回復ドリンクをがぶ飲みした。

 そこへ村正が頭だけ出して叫ぶ。


「超えた!!!!!!」


 その音によって氷が破損。

 パスカルの善意によって形成された氷が見るも無惨に砕け散った。

 俺たちは仲良く燃えた。


「少しは静かにできねぇのか、このバカ兎」


 頭頂部に優しく手刀を叩き込む。

 蹲る村正。その姿にほんの少し罪悪感が上乗せされる。

 これ、俺が悪いのか?


「しかしようやく兆しが見えてきたではないか。居ても立っても居られないのは某だけではござらぬぞ?」

「あーはいはい。理屈はわかるがせっかくのパスカルの善意を無駄にしたのは頂けないな」

「パスカル殿、なんとお詫びすれば良いのか……」

「あぁ、そう気落ちしなくても大丈夫だ。この程度の苦難、空で何度も味わったさ」

「その時はどうしたんだ?」

「重力で熱から遠ざかった」

「それだ! 重力で天井まで上がれば少しは熱気も抑えられるんじゃないか?」

「簡単に言ってくれるな。アキカゼさんなら俺たち全員を無重力にして飛ばす事ができるが、俺の扱える風操作じゃ俺までしか天井に導けん。お前らはアイテムを消費して無重力を手に入れる他ないぞ?」


 まぁそんな上手い話はないわな。

 だがパスカルが燃えなければ俺たちは助かるわけで……

 俺はパスカルにいい笑みで歩み寄って肩ポンする。


「なんだ、なにを考えている?」

「まぁまぁ。そんなに難しい話じゃないぜ。空を飛びながら俺たちを強力サポートしてくれればいいだけさ。な、みんな?」

「そのような事ができるのであるか?」


 村正がキラキラした瞳をパスカルに向ける。

 こいつの純真さは逃げ道を塞ぐ効果でもあるのか、時たま俺も出来もしないことを押し付けられる事がしょっちゅうある。


 パスカルもそうだったのだろう、逡巡した後やってみようといい格好をした。

 バカめ、この兎はそれが通じる相手には何度だってして見せる極悪非道だぞ?


「モーバ殿? 今某をとてもひどい言葉で罵ったりしておらぬか?」


 その上でこの野生の勘が厄介だ。

 俺は老けもしない口笛を吹いて必死に誤魔化した。

 そしてパスカルの地獄の時間がやってきた。


 天井付近は案の定、耐えられなくもない空間が形成されているらしく、安全地帯。

 しかしダブルスキルで重力操作と風操作を操りつつ、俺たちを氷操作で包む精密動作は早すぎたようだ。


「パスカル殿~? すぐに溶けてしまうでござる。あっついでござるよ~?」

「>×※◇⬜︎〆☆#%*‘<\<$€!!」


 パスカルは声にならない悲鳴を上げた。

 きっと安請け合いした事を後悔しているのだろう。

 わかるよ。こいつはすぐに調子に乗るからな。


「そうやって煽ってやるな。あいつだってやれる事を頑張って示してる。文句を言うだけなら誰だってできるぞ。お前はここに至るまで何かやってるのか? やってないよなあ? 大声で叫ぶ以外のことで貢献できて初めて俺やパスカルに文句を言う権利が生まれる。ハーフビーストが熱に弱いからと言うのはなしだぜ? この中で耐性持ってるのなんて陸ルートくらいだ。俺も、オメガキャノンだって火には弱い。都度3回燃えてる現状を見たってお前らとそう変わらないんだ」


 村正は力強く頷いた。

 パスカルに向けて応援を開始したようだ。

 とても大きな声で。


 俺の水魔法が振動で震え、パスカルの氷作製がが回する威力を誇る大声での応援。

 嬉しさ半分、可愛さ余って憎さ百倍。

 両サイドから攻めてくる感情に葛藤しながらなんとか均衡を保ったパスカルの援護で俺たちは第一の関門を抜けた。


 灼熱のフロアを抜けた先には最初の火の精霊の巣がある。

 ここで契りを一つ手に入れる事で俺たちはようやく一歩進めるのだ。


 が、そううまくはいかない。

 わかってた事だ。

 なんせ相手は精霊。

 その姿は目視できず、センサーにさえ引っかからない。

 攻撃手段が広範囲かつ面なので、一網打尽にされたのだ。


 肝心のナビゲートフェアリー係も茹って使い物にもならない。

 マグマの滾るフィールドで火の精霊相手に喧嘩を売る事が如何に過酷か俺たちは思い知らされることになった。


 そこで俺たちはまず目視の強化を図るために大地の精霊を探した。

 道中物理的に何度も燃えたが、驚異的なリカバーを発揮したパスカルによって窮地を脱出。

 しかし俺達はその大地の精霊が住むとされる場所でおかしな風景を目撃することになった。


「みんな! 今日は暑い中来てくれてありがと〜!ru☆ru☆i☆eの地下ライブ初めての企画だったのにこんなにたくさんの人たちに囲まれて僕たちはとても幸せです。あ、水分補給はお忘れなく! 僕とのお約束だよ!」


 そこには氷結仕切った大地と、マグマが凝固した土地。

 暑いと言っても道中に比べれば天国みたいな涼しさで、特に目を見張るのがコメントしてくれた例の魚類のコンサートが開かれていたことくらいか。

 もちろん観客も魚類が多く、サイリウムを振ってのオタ芸も磨きがかかっていた。

 その中の一人に見知った顔があったので、思わず悪態をつく。


「アキカゼさん、なんでまたこんなところでアイドル活動を?」


 正直場所としては最悪だろう? そう尋ねたのだが。


「いやなに、アイドル活動のメインは地下からスタートすると探偵さんから聞いてね。ぱっと思い浮かぶ地下がここしかなくてとても悩んだんだ。深海種族って火に弱いじゃない? それをなんとかする目的もあったんだけど、いやぁやってきて正解だったね。そうだ、君たちも丁度いいから火の契り受けていきなよ。ここに来たってことは何か目的があってきたのだろう?」


 とんでもない答えが返ってきた。

 俺たちはメンバー全員の顔を見合わせ、もののついでとばかりに火の契り一回分の契約を世話してもらった。


 それよりも気になるのが魚類がマグマの海に飛び込んで泳いでる姿か。


 今はまだ人類の味方でいてくれてるけど、これ率いているのがアキカゼさんだからだよな?

 それ以外が率いるようになったら地獄じゃね? と思いつつ、マグマを乗り越えた魚類に対するコメントが俺たちのチャンネルの実に8割を占めたのは言うまでもなかった。

 相変わらずとんでもないネタの宝庫のお人だ。


 これに勝てだなんて村正がどれだけ頭のおかしい提案をしてるかお分かりいただけるだろう。

 ほぼ勝率が0%に限りなく近い勝負。


 これを俺は安請け合いしてしまったのだ。

 パスカルの事を笑えやしない。

 握る拳に力がこもった。

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