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第12話

 幼女モードとは攻撃スタイルがまるで違う少女モード。

 地の契り3程度ではその攻撃そのものが不可視である。


 つーかやっぱ通常の風精霊から順当に倒した方が良かったんじゃねぇの? そんなふうに弱気になるのも仕方がないと思う。


:ぐえー、死んだンゴー


 コメント欄が変なコメントで溢れる。

 なんだ?

 何が起こってる。一体何があった?


「パスカル、リスナー達は何を騒いでる?」

「気にするな、と言うのも無理な相談か。アキカゼさんがどうも厄介な奴を連れてこっちに来たようだ」

「リリーを連れ戻しにか?」

「いいや、いつものお節介だろう。と言うか今それを気にしてる場合じゃないだろう?」

「確かにな!」


 目視不可の攻撃を勘で回避する。

 もしここに来る前に音の精霊と契ってたらきちんと聞こえてたのだろうか?


 連戦に次ぐ連戦。

 こんな事ならナビゲートフェアリーを更新しとけばよかったぜ。


 感知できない攻撃もあろうが、風の精霊が動けば、時間差で何か飛んでくるのはわかるのだ。


 なのでEPを無駄撃ちしながら妖精誘引で風にまとわりつく妖精を剥がし、威力を落とすのに努めるのが精一杯だ。


「リリー、なんかいいアイディアないか?」

「|◉〻◉)私にいい考えがある!」

「やっぱ聞かなかったことにして」

「|◎〻◎)じゃあなんで僕に聞くんですかー。アバーッ!」


 リリーが爆発四散。

 パスカルはミラージュだろうと言ってたが、怪しい。

 アキカゼさん曰く自爆芸もあると言ってたし。


[⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!]


 必殺の構え。

 精霊少女は前傾姿勢で刀を抜刀した。

 が、それが目の前から現れた闇に飲まれた。


 現れたのはアキカゼさんとそっくりの2Pカラーのアキカゼさん。それが一瞥しただけで精霊少女が震え出す。

 ほんと何連れてきてんの?

 まぁチャンスはチャンスだ。


「畳みかけろ!」

「|◉〻◉)いやっほー!」


 いつの間にか復活したリリーが召喚した波に乗って滑るようにエリア内を縦横無尽に駆け回る。


 ちょいさー、と回し蹴りまでし始めたが今までと攻撃手段を変え始めたのはギャラリーが増えたからか?


「邪魔するよ。何、私達は特等席で見てるだけさ。さて、ナイアルラトホテプ氏、議論を始めよう」

[この場所は好かん]

「たまにはこんな暗がりも乙なものでしょ?」


 今何か聞こえた気がする。

 日本語とは全く違う言語なのに、嫌そうな顔も相まってハッキリとクリアに聞こえていた。


「モーバ!」

「モーバ殿!」

[敵を眼前にしながら余所見とは随分と余裕だな!]


 突然、ヒステリックな女の言葉がハッキリと脳内に刻まれる。

 今まで理解不能だった言語がクリアになった。

 これ、精霊少女の声なのか?


 と、同時に突然眼前に迫り来る風の刃がハッキリと見えた。

 今何をどうすればいいのかがハッキリとわかる。

 やけに冷えた思考。

 そしてどう動けばベストなのかが手に取るようにわかった。


 妖精誘引はトリガーだ。

 全部を崩さなくても、手に触れるだけ、肉体に触れる分を解くだけでいい。そんな答えが俺の脳内に導かれた。


[何!? 不可視の我が一撃を受け止めただと!]

「受け止めちゃいないさ。ただ力のベクトルを逸らした。それだけだよ」

[貴様、我が声を聞くことが出来るのか?]


 俺は答えない。

 ただ、いつのまにか腰に巻かれていた漆黒のベルトが答えなのだろう、俺はいつの間にか深淵に片足を突っ込んで居たみたいだ。

 その相棒は? やたら俺につっかかってきた魚類に他ならない。


 そしてアキカゼさんはその見届け役として俺の開花を見にきただけか。

 だったらこのお膳立ては仕組まれたものになるのか?


「リリー!」

「|◉〻◉)?」

「来い! 俺に力を貸しやがれ! ルルイエ異本!!」

「|◉〻◉)!」


 まだ遭遇した断片は一枚たりともありゃしねぇ。

 だが、今の俺なら出来る気がした。


「変身!」


 俺の肉体が爆ぜる! 気がした。


 同時にいろんな情報が入り込んでは書き換えられていく。

 魔法陣の中で、そしてライダースーツに包まれた俺は、人をやめる一歩手前でブレーキが掛けられた。


 腰のベルトに添えられたエルダーサイン。

 これが俺を人であったことを思い出させてくれる。


「モーバ殿?」

「俺は俺だ、村正。この格好じゃ嫌か?」

「正気であるならば良いが」

「不思議と視界もクリアだ。畳みかけるぜ」


 軽く地を蹴った。

 それだけで景色が真後ろに流れていく。

 すげぇ、俺のスキル骨子はスタミナ軽減はそこまで重視してないのに。けど、一切の疲れなく精霊少女の背後を取った。


 その触れられない肉体を、俺の腕は確かに掴んでいた。

 掌握領域? よく分からないがアキカゼさんがいる事で、このエリアは俺に都合のいいエリアに書き換えられた気がする。


「今だ、村正叩っ切れ!」

「斬舞! 椿一閃」


 突き、からのレーザーブレードがその肉体を何度も往復する。

 ビームソードじゃ切った感覚がイマイチなのか、再び物理刀を構えて袈裟斬りにした。

 もうそれだけで消滅したのだろう。

 不思議な感覚だ。なぜかそれがわかった。


「止まれ、村正。もう死んでる」

「何が何やら分からぬが、終わったのでござるか?」

「この力については俺の方が聞きてーよ。アキカゼさん、説明してくれるんだよな?」


 端っこの方で茶をしばいてる観客席へとヤジを飛ばすと、いいだろうと一人立ち上がり寄って来る。


 こうやって顔を突き合わせるのは何度目か?

 変身をといた俺は、疑いの眼差しをアキカゼさんへと送っていた。


「まずは覚醒おめでとうと言ったところかな?」

「俺が適正者だと見抜いてたのか?」

「見抜いていたと言うのは違う。これは勘なのだけどね、彼女が気にいる相手って高確率でマスターになるんだよ。だから君もそうなのかなって」


 アキカゼさんがリリーをチラ見しながら衝撃発言をした。


「でもこのリリーはアキカゼさんとこのだろ?」

「え、違うよ」

「違うのか?」

「|ー〻ー)僕が何か?」

「|◉〻◉)あ、お姉ちゃん」


 リリーと全く同じ魚類がアキカゼさんの影からヌッと現れた。

 え、え? 一体何がどうなってんの。


 リリーが目の前で分裂したことに驚けばいいのか、姉妹発言に突っ込めばいいのかわかりゃしない。


「彼女からの発言で分かるように、彼女たちルルイエ異本の幻影はマスターごとに全く性格が異なる」

「いや、それはねーだろ。コイツアキカゼさんとこのリリーと同じ性格だぞ? 使いパシリっぽいことしてたし」

「|◉〻◉)なんの話かわかりませんが愚妹がご迷惑をかけてるようですね」

「|◎〻◎)お姉ちゃんがいじめるよー」


 愚姉妹の間違いじゃねぇのか?

 と、話をはぐらかされるとこだった。


「それよりもだ。さっきから俺に都合の良すぎる状況が多すぎた。これはアンタが一枚噛んでるなと思うが実際はどうだ?」

「失礼な。領域は展開したけど、それに適応したのは君で、力を行使することができたのも君さ。断片を一枚も獲得してない状態とは思えないほどのチートだよ。実に羨ましいね」

「え、それマジ? アキカゼさん程でも初見の能力酷使は大変だった?」

「いや、特には」

「変に期待させんじゃねー!」


 って、今この時になって気がつく。

 今俺の立ってる空間がどこにあるのか分からないことを。


 どこだここ? 目の前にはアキカゼさんが居るだけという事実を置いてもさっきまでいた場所ではない。


 いつの間にかもう一人も帰っていて、仲間もいなかった。


「どこだここ? カメラは? 今配信中なんだけど?」

「放送事故なら気にしなくていいよ。今君の精神に直接話しかけてるだけだから。直ぐに元の世界に帰れるさ」


 全く安心できない答えをどうも。

 俺は精神世界でアキカゼさんから力の行使方法をいくつか教えてもらった。


 変身は日に3回までにしておけ。

 これを越えても別に構わないが、正気度はぐんと減るかもしれないとお叱りを受けた。


 さらに掌握領域による不可視存在の捕縛も、本来正気度を捧げて可能になる術式だ。今後なんのリスクもなく使えると思ってはならないと厳重注意される。


 アキカゼさんも呼吸をするように使ってね? と突っ込んだらにこりと笑われた。

 ずりーぜ爺さん。アンタだけ特別ってわけか。


「ではモーバ君。私の介入はここまでだ。リリーのことは頼んだよ」

「まぁ、あいつ単体で普通に強いからな。せいぜい頼りにさせてもらうさ」

「おっと、忘れてた。正式に契約を結んだからにはリリーのスペックは君と出会ってから成長した分しか考慮されない。最強無敵モードは私と共に行動させた結果だから、今後君のとこに残るのは弱体化された状態のリリーだからよろしくね?」


 おい! そんな話聞いてないぞ!

 しれっと最後に爆弾置いていきやがって!

 おい! 勝手に話し終えるな。

 おーい!


 俺は間も無く目が覚めた。

 中途半端な力の代償があまりにも大きすぎる。

 俺はこれからどうすっかなと頭を悩ませつつ、取り敢えず音の精霊のとこにも行っておこうとみんなに促した。

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