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第19話 思い出を残そう!

「そろそろ1回目のログイン権が切れる頃だね」


「え、もうそんな時間?」



 日がだんだんと落ちていく。

 このゲームは非常にわかりやすく、ゲーム内時間で1日を、リアルで4時間としている。

 朝の8時に集合すれば、終わるのはちょうどお昼時になるのだ。

 リアルがある彼女たちは、ちょうどお腹が空く頃か。



「楽しくて時間が過ぎるのあっという間だった!」


「ねー」


「うん」



 それは本当にそう。

 一人でいる時よりもイベントがいっぱい巻き起こった気がした。

 私一人では起きない出来事に直面して。

 解決するのもなかなか面白いことに気づかされてくれた。


 そして畑の悩みも解決してくれた。

 思い起こせばいい方向への理解が多かったように思う。


 シズラさんを介さず、命のかけらを入手することもできたし。



「じゃあ次のログインは?」


「可能ならお昼食べた後にしたい!」


「賛成!」



 元気一杯の姉に、ミルちゃんが続く。

 しかしそこへ一人、不参加の合図を恐る恐る出す手が。



「私、お昼からお勉強だ」


「リノちゃんは脱落かー」



 一人脱落、となるとやることはとことん限られてくる。


 が、このゲームはレベルも経験値システムもないので、一方的に置いていくということもない。

 そもそも戦闘の基軸になるリノちゃんがいなければ雑魚モブ一匹にえらく苦労する私たちである。



「あ、じゃあその日は何をしたかっていうのをブログに残しておくのはどうかな?」


「ブログ?」


「そう、フレンド限定のやつ!」



 プレイヤーが1日にゲームに干渉できる権利は3回。

 全員が全員、それを全部消費し切ることはできないし、それを強制することもできない。

 だから遊ぶ約束をしたらログインする時間を合わせる必要があった。


 だったら遊んだ記録をブログに残しておくのはどうか? という提案である。



「確か掲示板とかより前時代的なやつだっけ?」


「閲覧項目をフレンドにすれば、その日ログインできなかった子も、その後どんなことをしたか一目瞭然でしょ? 確かブログにはコメントをつけられる機能もあったから、そこでお話もできるし、ログはずっと残り続けるよ、どう?」


「掲示板でもできるくない? 鍵をかけてさ」


「それだと鍵を突破したら誰だって見れちゃう。あとは、みんなずっとその番号を覚えてられる?」



 私の疑問に、みんながスッと顔を横にそらした。

 一番最初に逸らしたのはミルちゃんだ。

 非常にわかりやすい。

 次にお姉ちゃん。

 一番最後まで抵抗していたリノちゃんも「今日みたいな日が続いたら自信ないかも」と恐る恐る手を挙げた。

 素直でよろしい!



「と、いうわけで、私たちはこれからブログをここでの遊びの基軸とします。言い出しっぺの私が用意しておくので、みんなはそれをログインした時にでも確認しておいてね。次遊ぶときの目標も記しておくので、久しぶりのログインの子がいても、それを見れば大丈夫なようにしておくし」


「おー、ハヤっちが輝いて見える」


「ハヤちゃん、頼りになる」


「さすが妹! お姉ちゃんは鼻が高いよ!」



 なぜか3人からお褒めの言葉をもらう。

 何だろう、この謎の信頼。

 昔取った杵柄でしかないのに。


 そもそも、電子生命体でしかない今の私に取って、取れる唯一の手段がこれしかないからという提案だった。

 が、逆にそれがみんなの不安を解決する道しるべとなったのだ。


 今日一緒に歩いただけで、特に目標を決めて何かをするってタイプでもなかったし、やっぱり目標があった方がやる気は出るもんね。



「それじゃあ、私はブログの準備をしておくから、みんなは先にお昼ご飯食べてきちゃって」


「ハヤテちゃんも早くね? 一応お母さんに話しておくけど」


「ごめんね、お姉ちゃん。わがまま言って」


「いいよ。むしろ私はブログに関してよくわかってないから」


「あたしもー! ハヤっち頼りなところがある」


「ブログ、どんなものか楽しみ。AWOってこういう楽しみ方もあるんだね。今回みたいにずっとは遊べないけど、こうやって共有もできるのは新しいかも」



 新しいどころか相当古い概念だけどね、ブログは。

 そんなこんなでブログを準備することとなった。


 姉たちがログアウトするのを見送り、ファストリアのギルドまで赴く。

 そこでブログ解説窓口を開き、早速文章を記した。



「ああ、いくつか撮り損ねた写真もあるな」



 みんなと一緒に撮った記念写真はいくつかあるが、一体何を撮ったかなどの写真は一枚もない。

 トラブルばかりが目立って、そういう細かいところは全く考慮してなかった。



「若いとき特有の勢いもまた、嫌いじゃないけどね」



 ブログに載せるとなったら、もっと慎重に行動したいところだった。



「さて、タイトルはなんとするか。もうお爺ちゃんでもでもないしな」



 だからと言って若さをアピールしたりもない。

 そうだな、ここは一つ、姉のやりたい肩書きをお借りするか。


 ここをこうして、こう!

 ふふ、私の才能も捨てたもんじゃないな。

 閲覧権はフレンドのみにして……ああこれだとお母さんやお爺ちゃん達も覗けちゃうか。


 いや、絶対何かしらのトラブルに巻き込まれるから、そこは保険としておこう。

 閲覧許可だけ出して、書き込み許可は今回のメンバーだけとして、よし!

 あとはみんなの反応が楽しみだ。




 <ログアウト>




「|⌒〻⌒)ただいまー」


「おかえり、ハヤテ」


「ハヤテちゃん、おかえりなさい。ブログ、始めたんだって?」


「お母さん、ブログってどうやって観れるの?」


「ステータス画面の新着メッセージのところにあるわよ。プレイヤー開設型だから、閲覧許可をもらってれば見ることができるわよ」


「へー、楽しみ」



 帰る頃にはすっかり食事は終わっていて、リビングでゴロゴロしてる姉の姿があった。

 お母さんはキッチンで夕食の仕込みをしている。

 前世ではすっかり冷凍食品のお世話になっているが、今世ではそれを解凍した上で手を加える料理過程が流行っているみたいだ。


 通りで私にも料理を教えられるわけである。

 おばあちゃんの仕込みかな?

 ひいおばあちゃんはそこらへんスパルタだっただろうしね。



「お母さんも楽しみだわ」


「なんでお母さんも楽しみなの?」


「だって、あなた達って非常に目立ってるのよ? 一体どんなことをしでかしたか心配で仕方ないもの」


「あたし達、目立ってるんだって?」



 嘘でしょう?

 あんなに騒ぎを起こしておいて、自分が目立ってないって思い込んでた?

 私ですら何か検討しなきゃって思うほどの場面はいくつもあったよ?

 主にミルモちゃん関連で。



「|◎〻◎)お姉ちゃん、自覚0なの怖いよ、自覚持とう?」


「えーん、ハヤテちゃんが流暢に喋ってあたしをいじめるー」


「あら、しっかり意思疎通できていいことじゃない」


「|◉〻◉)そういえば、どうしてこんなにはっきりと?」



 無自覚に喋っていた。

 ログインしてる間に、このスズキさんボディが勝手にパワーアップしてた件。

 怖すぎない?



「今日業者さんが新しい遠隔操作ボディを宅配してくれたの。前のも良かったけど、お母さん新しいもの大好きだから。ダメだった?」


「|◉〻◉)全然、そんなことないと思いまーす」


「良かったわー。思考認識型の文字起こし機能を使ってるから、多少乱暴に扱っても大丈夫よ。それときっちりログも残るから」


「|◎〻◎)ログが残る?」


「発言には気をつけましょうねー? ログはここで観れるから」



 お母さんが今のモニターの電源を入れる。

 そこでは今回私が発言した会話履歴がしっかりと残されていた。

 いや、モニタリングしてたの間違いか。


 なんでそこまで……いや、私が非常に危うい存在だからか。

 お母さん的にはいつ消えていなくなるか私との思い出をここに残しているんだろうね。



「|◉〻◉)ありがとうございます」


「そんな畏まらなくていいのよ。いつもトキの面倒を見てくれてありがとうね。これが直接言いたかっただけなの」



 お母さんはそうやってはにかみ、キッチンに戻って行った。

 私はそのあとお姉ちゃんと一緒にテレビを見たり、攻略情報を見られてはログに「|◎〻◎)苦しい、助けて」という怪奇なるメッセージを残した。


 それ、ゲームの中ではちょうどいいバランスだけど、ぬいぐるみにやったら虐待だからね?

 次からは気をつけるように。

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