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第30話 コントロールルーム

「これが——」


 雫は、そのロボットを見て最初に抱いた感想は、サイズ感だった。

 恐らく——頭部だけを見て概算しているので何とも言えないだろうが——そのサイズはオーディールと大差ないように感じられる。


「オーディールとは異なる技術を用いている、ということなの?」


 雫の疑問を聞いたコンタクターは首を傾げ、


「何故そう思ったのでしょうか?」

「……オーディールもこれも、あなた達円卓が齎したものではなくて?」


 それを聞いて、コンタクターは眉を顰める。

 続けて、


「やはり、やはり面白いですね、あなたは。そこに直ぐに辿り着くとはね」

「……正解、ってこと」

「ええ、そうですよ」


 コンタクターはあっさりと正解であることを認めた。


「オーディールを提供したのは、我々円卓です。それは認めましょう。そして、このスタンダロンを作るための手助けをしたのも我々です。……あとは、人類が如何それを使うか。それにかかっていますし、我々はそれ以上手助けをするつもりはありません。円卓の基本役割のうちのひとつ——それこそが傍観ですから」



 ◇◇◇



 コントロールルーム。

 スタンダロンが保管されているビルの最上階に位置する、大きな部屋である。中には量子コンピュータをはじめとした様々な設備が設置されており、スタンダロンをシステムパッケージに組み込んだ時の遠隔管理をする働きを担っている。


「——というのが説明になるのだけれど」


 コンタクターから説明を聞いてもなお、雫は理解が出来ず、頭の上にクエスチョンマークが幾つか浮かび上がってしまう程であった。


「いや、全く理解出来ないし……。そもそも量子コンピュータって実用化されていたの?」

「それもこのイキマ島だけの技術ね、今のところは」

「ですよねー……」

「将来的にはこのスタンダロンを大量生産していきたい、というのがこの国の狙いよ。同盟国には未だ公開していない、とは聞いているけれど。人間の世界は大変ね?」

「まあ、そりゃあそうですね……」


 雫はそう呟きながら、コントロールルームの全景を見る。


「モニタがあんまりないように見えますけれど?」

「集中管理をしているから、各自のパソコンモニタで十分らしいわよ。大きいモニタを使えば見やすい気がするけれど、分からないわね。予算がないのかしら? 国の威信をかけたビッグプロジェクトだって息巻いていたような気がするけれど」

「まあ、ケチるのは仕方ないですよね……」


 お金が湯水の如く溢れ出る訳でもないのだから。


「お待たせしました、不知火さん。……こちらが?」


 コントロールルームの中から歩いてきたのは、茶髪をポニーテールにまとめた若い女性だった。


「伊吹さん、よろしくね。彼女が天代雫さん。オーディールを管理する……何でしたっけ?」

「グノーシスのことを言っています?」

「ああ、それそれ。その——グノーシスの司令官です」


 そっちから呼んでおいて忘れているのか——などと雫はツッコミを入れたくなったが、ここでああだこうだ言うのも何か違うと思ったのか、口を噤んだ。


「よろしくお願いします、わたしは伊吹恵と言います。このコントロールルームではまだまだ下っ端ですが……、本日は不明点がなるべくなくなるように説明していければと! 思いますので!」

「まあまあ……。そんな気張らなくったって……」

「いえいえ、頑張らせていただきます! ……で、これから何をしましょう?」


 急にブレーキをかけてきたので思わずずっこけそうになってしまった雫だった。

 しかしコンタクターはそんな彼女の扱いに慣れているのか、


「いやいや……。これからスタンダロンの作動実験を開始するのでしょう? コントロールルームから遠隔で実行してイキマ島の外に出してあげて、それから搭載されている人工知能を用いて全自動で敵を捕捉し破壊するって。……まあ、後半は訓練だからそもそもその存在が居ないのだけれど」

「そうでした!」

「大丈夫なの? 彼女」

「仮にそう思っていても、目の前では言わないのが普通なんじゃないの?」


 雫の質問にコンタクターは目を丸くしながらそう答える。

 さりとて、疑問に抱いているのだから致し方ないのもまた事実だ。


「……まあ、とにかくこれから始めるのは世紀の大実験だからね。これがもし成功すれば、この世界の兵器技術が一つ上の段階に進むことでしょう。もしかしたら数十年後にはロボット同士の代理戦争になっていることだって、十二分に有り得るかもしれないし」

「そんなことをしたら、この惑星が持たないのでは? ……でもまあ、有り得なくはない未来ね」


 雫は一人で結論付けながら、話を続ける。


「でも、あんな巨大ロボットを全自動で動かすことが出来るの? しかも、聞いていると完全に人の手から離れて……みたいな話らしいけれど」

「よくぞ聞いてくれました!」


 雫の質問を待ってました、と言わんばかりに声を張り上げる伊吹。

 急に声のトーンを大きくしてきたので、雫は吃驚して肩を震わせてしまうぐらいだった。


「あっ、すいません! ……驚かせてしまいましたか?」

「いや、まあ、別に良いのだけれど……。続けてもらえる?」

「はい。では、スタンダロンに搭載されている技術をざっくばらんに説明しますね! あんまり説明してしまうと守秘義務の念書とか書かないといけないのと、この島から出るのにも許可を得ないといけなくなってしまうので、あんまり内面のことは言えずに、表面だけとなりますけれど、それはご了承下さい!」


 何か怖い説明を聞いたような気がする雫だったが、あんまりそこで言及しても良いことはないし時間の無駄だと思ったのか、さらに話を続けるよう伊吹へ促した。

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