目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

55 術理技テスト申し込み



 術理技を覚えたい。

 そのためには学校の先生を説得しないといけないようだ。

 なので、ダンジョン休憩で学園に行くと、朝の連絡事項を終えて出ていくアニマ先生を捕まえて訴えた。


「術理技を学びたいです」

「術理技?」


 適性者ではないアニマ先生はしばし首を傾げた後、思い出したのか「ああ」と呟いた。


「それを学ぶのは早くて二年生からでしょう? あなたたちは優秀かもしれないけれど、カリキュラムを無視する理由にはならないわ」

「そこをなんとか」

「だから……」

「先生、私も習いたいです」

「スラーナさん、あなたまで」

「ダンジョンでの戦いに生還するために必要な技術なんです」


 スラーナに真面目に訴えられると、アニマ先生の鉄壁の表情も揺らいだ。


「……考えておきます」


 だけど、答えは短いし、曖昧だ。

 腕の時計をちらりと見たアニマ先生はそう言うと、職員室へと戻っていく。


「あれは、考えるだけね」


 スラーナがポツリと呟く。

 俺も手応えを感じなかったので、そうなるかもしれないと思った。


「どうする?」

「アニマ先生でダメなら、他の人に頼んでみるしかないわね」


 放課後まで待って、返事が変わっていなかったら、まずはジョン教授に相談しようと思っていると、意外にも進展があった。


 昼休憩に放送で呼ばれて体育教員室という場所に向かうと、適性者授業の時の先生が待っていた。

 名前は山洞さんどう先生だ。


「術理技を習いたいんだって?」

「はい」

「そうです」

「アニマ先生が職員室で言っていてな。教頭先生とも話したが、お前らは適性者・・・の、成績はいいからな」

「待ってください! タケルの成績と並べないでください!」

「そうだな。スラーナは教養の強化も優等生か」

「当然です!」


 スラーナに必死に否定されて、ちょっと悲しい。


「心配するな。適性者は適性者としての成績を気をつけていればなんとかなる!」


 目に見えて落ち込んだ俺に、山洞先生が慰めてくれる。


「まぁ、頭が良くないと実社会で色々と損をするがな!」

「つまり、勉強を頑張れと?」

「そうだ。まぁ、俺も頭がいい方ではないがな。学校での勉強ってのは、知識を溜め込むことではなく、必要な時に必要なことをするための下準備をするものなんだそうだ。まっ、実際にはそれだけではないんだが、タケルは適性者なんだ、学校教育の本音の方だけでも習得しないとな」

「はーい」


 なんだかよくわからないが、勉強からは逃れられない。

 そういうことらしい。


「それで先生、術理技の件ですが」

「ああ、それだな。教頭先生とも話したが、適性者としては成績優秀だから、テスト次第では授業に参加させてもいいだろうということになった」

「テスト?」


 テストという言葉に嫌な予感が襲ってくる。


「筆記じゃない」


 青くなった俺に、山洞先生が笑う。


「……まじめに、もう少し勉強しろ?」

「そんなことより、話を先に!」


 顔色の変化に先生が笑いを引っ込めて真剣に話をしそうになったので、俺は慌てて先を促した。


「ああ。術理技の授業を受けるには、二年になってから定期的に行うテストに合格しないといけないんだが、次のテストにお前たちも参加していいことになった」

「やった!」

「それで、そのテストはいつですか?」

「今日だ」

「「今日⁉︎」」

「ああ」

「あの……それはいくらなんでも、急では?」

「自信がないなら、今日のテストは様子見ということでいいだろう」


 スラーナがいきなりのことに驚いている。


「いいじゃないか。合格すれば術理技を教えてもらえるんだから」

「……まぁそうね。どうせなら合格を目指します」

「よし。それなら……」


 山洞先生に時間と集合場所を教えてもらい、俺たちは体育教員室を出た。


「意外にすんなりと話が進んでよかった」

「そうね。でも、テストに受かるかどうかだけど」

「大丈夫だよ」

「もう術理技が使えるタケルはそうでしょうけど……事前知識のないことをするのは苦手なのよ」

「そうなんだ?」

「そうよ。ダンジョンでも知らないモンスターを相手にするのは、できればやめたいわ」

「なるほどね」


 真面目なスラーナの意外な弱点?

 でも、だからこそ勉強が得意ってことなのかな?


「でも、俺たちがこのままダンジョンの深度を進めていったら、そのうち誰も入っていない場所やモンスターに出会うことになるんじゃないの?」

「それ、どれくらい先のことだと思ってるの?」

「ん〜俺は、そんなにかかるとは思ってないけど?」

「え?」

「俺たちなら、きっとすぐに深度Aを超えて深度S、さらに未踏域の深さにまでだって行けると思ってるよ?」

「そうやって、簡単に言う」

「大丈夫大丈夫」


 別に簡単にいくと思っているわけじゃないけどね。

 でも、スラーナとなら辿り着ける自信がある。

 だから、術理技だって問題なく覚えられるし、そのテストだってきっと合格する。


「コケたからって、もう歩いたらダメってわけでもないからね」

「ああもう、わかったわよ」


 ようやく説得が通った。


「こうなったら一発合格してみせるわ」

「その意気だ」

「……だから、タケルもその意気で授業を受けましょうね」

「それは聞こえない」

「聞きなさい!」

「……はい」


 そんなわけで午後の授業を頑張ってからテストを受けるために指定の場所に向かった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?