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124 救助活動とそれから



 ハグスマド同盟の救助活動をした。

 まずはすでに活動している人たちを探す。

 組織だって消化活動や救助活動を行っている人たちがいたので、その人たちの活動が届かない場所から行っていくことにする。

 キヨアキの魔力残滓が残っている炎は、【王気】で吸収することで消えてしまう。

 延焼で発生しているものは、スラーナが空気の流れを限定的にすることで自然と鎮火するように仕向けていった。

 見える場所での火が消えたら、次は生存者の捜索と救助だ。


 気配を探して、瓦礫や建物の中に取り残されている人を見つけて助けていく。

 瓦礫の除去は【念動】で行い、建物に取り残された人たちは中に入って誘導した。

 その一方で【念動】を使って壊れた店舗からかき集めた食料や医療品を一か所にまとめておき、そこに助けた人たちを誘導していく。

 少しでも元気な人に世話をしてもらい、俺たちは要救助者を捜索するために動く。

 そのうち、別の場所で救助活動を行っていた人たちがこちらの様子を見に来た。


 その中に適性者が何人もいたけれど、戦いになることはなかった。

 こちらが特に言い訳をすることもなく、やることをやり続けた結果、彼らは戦うよりも救助活動を優先したようだ。


 救助作業は数日間に及んだけれど、終わった。

 探せる限り探したけれど、もう瓦礫や建物の中に生きている気配はなかった。

 それは、まだ見つかっていない人たちの運命を物語ってもいる。

 元気になるにつれて俺たちの能力を恐れたり崇めたりする人が出て来ていたのだけど、その中で崇めていた人たちの一部が怒り出した。

 見つかっていない中に大事な人がいたようだ。

 泣き喚き、捜索を続けるように懇願する人もいる。

 だけど、俺たちはなにも言わずにここで終わりを告げ、立ち去ることにした。

 最初から、言い訳はしないとスラーナと決めている。


 最後に上がってしまった魔力濃度を減らすために、この場の魔力を吸い取り、スラーナが空気を清浄化させた。

 空気の汚れた部分は以前のように【念動】で一点に集めておく。


「これ、どうしようか?」


 前の分もある。

 迂闊にその辺りに捨てるというわけにもいかない。


「ダンジョンに捨てる?」

「いいね」


 スラーナの何気ない一言に、俺は大きく頷いた。

 あの場所なら状態を維持する機能が働いて、こんな汚れは消し去ってしまうだろう。

 それに……。

 また、ダンジョンに行く。

 その言葉が嬉しかった。


 カル教授はダンジョンに消えていったという。


「今度からは、順番関係なく、難しいのにも挑戦できるわね」


 スラーナの弾んだ声に、それもそうだと納得した。

 だってもう、俺たちはダンジョンの人たちとは一緒に暮らせないのだから。

 それなら、内緒で挑戦すればいい。


「まずは、ダンジョンポータルに潜入する方法を考えないと」


 そんなことを話し合いながら、俺たちはハグスマド同盟から人類統一連合へと移動した。


 もちろん、そこでも歓迎されていないので地上に戻ることになる。

 見送ったジョン教授が、この地上への調査施設は閉鎖されることになったと告げた。

 破壊されているし、しばらくは地上調査に割く余力はなくなるだろうと。


 だから、もうここには誰もいなくなると、やや意味深な言葉を残してジョン教授は去っていった。


 俺たちは顔を見合わせた。


「あれってそういうことよね?」

「そういうことだろうね」

「いいのかしら?」

「わかんないけど……いや、よくないから見て見ぬ振りなんだろうね」


 俺たちなら、誰にも気付かれずにここからダンジョンポータルに行くことができる。

 俺たちがダンジョンに行こうとしているのを察しているかどうかはわからないけど、この地に未練があるなら……と思ったのかもしれない。

 あの人もそれなりに考えて、俺たちとこの場所との接点を残そうとしてくれたのだ。


 それなら、ありがたく利用させてもらおう。


 だけどとりあえず、いまは地上に戻る。


「行こうか」

「うん」


 ディアナを使い、俺たちは地上に戻った。


 地上に戻ると、すぐに村に移動してからミコトと大爺に報告する。


「そうか、よくやった」


 と、ミコト様は気楽に笑って俺たちの頭を撫でた。


「結局、ダンジョンってなんなんだろう?」


 報告の最後に俺はそんなことを呟いた。

 カル教授は行きたくても行けなかったダンジョンへ向かうために変化し、そして消えていった。

 あの人の好奇心が向かうのもわかる。


 ダンジョンは謎だらけだ。

 どうして現れた?

 どうしてこんなに人間を変化させる?

 どうして、人間を誘い込む?

 まるでわからない。

 わからないのに、俺のようにそこに潜ることが面白くてたまらない者もいる。


 それはただの好奇心の発露でしかないのか。


 あるいは、ダンジョンがなにかをしているのか?


「そんなことは知らん」


 ミコト様はざっくりと言い切った。


「我らが畑のために土を変え、川を変えるようなものだ。我らにとってはそれが必要だが、元より土の中にいた虫たち、川で暮らす魚たちには余計なお世話なことだ。我らは虫や魚にそこのところを説明するか? せいぜい、食える魚が減らないように気をつけようというぐらいだろう」

「ううん、そうだね」

「我らよりも力ある存在が同じことをしたのだとしたら、その連中の考えなど我らにわかるわけがない。連中も説明などせんよ。問題にするとしたら、魔力に順応した我らをどうする気なのか、というところだろうな」

「ううん」

「気になるのなら、そこのところを聞きにいってみればいいではないか」

「え?」

「ダンジョンにな」

「いいの?」


 俺がまたダンジョンに向かうことにいい顔をしないのではないか?

 なんとなく、そう思っていたのだけど。


「一人前になった者のやることに、文句など言わんよ。村に迷惑がかからん限りはな」


 そう言って、ミコト様は饅頭をパクリと齧った。

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