澄み渡る青空。
照りつける太陽。
煌めく白い砂浜。
そして、浜辺に打ち上げられたでかいカエル。
「……カエル?」
私は思わずそのでかいカエルを二度見、三度見してしまった。
なんで浜辺にカエル? カエルって海に住んでないよね?
いや、そもそもでかいカエルにしたって手足をでろーんと伸ばしてるソイツのサイズは人間並み。あまりにもデカすぎる。
「ええー……? なにそれ、どゆこと?」
さて、ココで私の頭に浮かんだものは、でかいカエルの正体は、
①暑さのあまり蜃気楼 ← ココは砂漠じゃない
②どっかのアート作品 ← 身じろいでるのでNO
③中身がいる被り物 ← イエス!!
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ってでかいカエルに声をかける。
すると、かすかに反応があった。やっぱり被り物だコレ!
急いで胸の辺りを両手でどすんどすんと押しまくる。
「げふぅ!?」
なんか変に柔らかい? けど、どうやら息を吹き返したみたい。
「こきゅーかくにん!」
「み、みず……を」
「水ね!」
息も絶え絶えな感じで水を求めるカエルさん(仮称)に、私は急いで最も近くにあった海の水をじゃばじゃばぶっかけた。
当然のように頭めがけて。
「ぶふっ!? ちょ、しょっぱ!? やめっ――なにすんねん!?」
「よかった、生き返ったー」
がばちょと勢いよく立ち上がるカエルさん。
これで一安心だ。
立ち上がるとほんとにでっかいなこのカエル。
そして、お腹の丸みや手足辺りが本物みたいによく出来てる。
カエルは二足歩行しないけど。
「じぶん、なんで海水かけたん?」
「え? なんでもいいから水かけて頭冷やして欲しかったんでしょ?」
私が思ったことを口にすると「そうキタかー」と言いたげに天を仰ぐカエルさん。
「ちゃうねん、そうじゃないねん……」
「違うの?」
「おお、こういう時はな? 水が飲みたい―っちゅうこっちゃ。じぶん、喉渇いて死にかけてる漂流者の顔面に塩水ぶっかけたらトドメ刺しとるで?」
「あー……ごめんなさい」
「わかればええんや」
「お詫びにこのおーえすわんをどうぞ」
「なんで経口補水液持ちあるいて……いやでも、おおきにな」
ペットボトルを受け取ったカエルさんは、何故か被り物のままゴクゴクと飲み始めた。
……最近の被り物はそのまま飲食できちゃうのか、すごいな。
「ぷっはー、生き返ったわー!」
カエルさんはおっさんくさかった。
きっと中身がそうなんだろう。
「大丈夫? 病院まで連れてこうか?」
「お嬢ちゃん、なんでそこまでしてくれるんや」
「当たり前でしょ。そんな恰好で浜辺に打ち上げられてたらさ」
打ち上げられてなかったら、不審者発見でケーサツに連絡してたかもしれないことは黙っておこう。
「……おおきに。でも大丈夫や、知り合いに迎えにきてもらう」
「そう? じゃあコレあげる」
渡したのはポケットに入っていた梅味のすっぱい飴だった。なんかヤケに生っぽいカエルのおててにコロンと飴が転がる。
しげしげと眺めてから、カエルさんが飴をパクリ。
そののーてんきそうな顔のお口が急激にすぼまる。
「すっぱッ」
「すっぱいの嫌いだった?」
「いや……美味いわ」
「でしょ~。あとは日陰で涼んでればいいから。それじゃ私行くね、早く迎えにきてもらえるといいね」
「あんがとな。お嬢ちゃん、命の恩人や」
「どういたしまして~」
手を振りながら私はカエルさんとお別れをした。
大事にならなかったのは良かったけど、あの人ずっと被り物をしたままだった。
変なの。
「いやー、海に落っこちるなんて先輩もドジですねー」
「自分が回収に失敗して落としたんやろが!? 死ぬかと思ったでほんま!」
地球人には感知できない船の中で、カエルさんはアホんだらな後輩に文句を言う。
「まあまあ、こうして迎えにきたんですから。調査の方はどうでした?」
「……ギリギリやな」
「ギリギリアウトですか。本部にはなんて報告します?」
「地球の小さな女の子は、見知らぬ宇宙人にも優しくしてくれたんで大目に見てくれと言っとけ」
「え! それって……」
「友好的な相手は、攻め滅ぼすには惜しいっちゅーこっちゃ」
口の中で飴をコロコロさせながら、カエルさんはにんまりした。