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階段から落とされた俺を介助しにきたのは、学校で一番可愛いと噂される美少女だった
階段から落とされた俺を介助しにきたのは、学校で一番可愛いと噂される美少女だった
赤アカ クロ
恋愛現代恋愛
2024年09月25日
公開日
8,160字
完結済
 ある日学校の階段から落とされた俺は、病院の先生から約1ヶ月、松葉杖での生活を命じられた。  しかし運悪く、両親の仕事が多忙で忙しくなってしまい、介助してくれる人がいない状況になってしまった。  どうしようかと悩んでいた俺の元に、一人の少女が訪ねてきて──。

階段から落とされた俺を介助しにきた美少女

 「ふぁ〜…眠いな……」


 眠気に襲われながら机に座り、鞄を横に置いた俺は、一人の少女に視線を向けた。


 「おはよう河本こうもとさん」

 「おはよう、昨日どうだった?」


 彼女は今、友達と話をしている。

 そんな姿を遠目で見ながら、幸せな気分を味わっていた。


 (河本こうもとさん、相変わらず可愛いなぁ〜)


 彼女の名は河本こうもと雪菜ゆきな、彼女の事を一言で語るなら、"学校で一番可愛い美少女"だ。

 彼女に笑顔を向けられた男子は一瞬で恋に落ち、その場に倒れると言われ、ある男子は落とし物を拾われたその後、それを家宝にしたり、ある男子は教科書を見せてもらっただけで、一生分の運を使い果たしたと言われる。

 そんな噂が流れるほど、彼女はこのクラスのアイドル的存在なのだ。

 その証拠に、廊下には彼女目当てで教室に集まってくる男子が大量にいた。


 「河本こうもとさん、今日も美しい…」

 「一度で良いから、彼女に踏まれたい…」

 「俺は彼女に蔑まれたい…」


 まぁ……ヤバい性癖の人間から好かれるのはどうかと思うけど、とにかくそれほど彼女は美しいのだ。


 (でも、彼女と付き合いたい・・・・・・男子はいない)


 その理由はただ一つ、仮に彼女と仲良くなっても……"自分には惚れない"とわかっているからだ。

 もちろんそれは周りも同じで、「既に彼氏がいる」、「御曹司の婚約者がいる」、などの噂があり、その噂が原因なのかわからないが、これまで彼女に告白した男子は一人もいない・・・・・・、もちろん……俺も彼女に告白する気はなかった。


 (どうせ振られるなら……このまま見ていた方が幸せだから)


 そう思っていると、彼女の近くにあった机から、一枚の紙が床に落ちた。


 「あっ…」


 彼女とその友達は話をしてて気づいていない、しかも落ちた紙は足のすぐ近くにあるため、一歩足を動かせば踏まれる位置にあった。


 「……」


 俺は席から立ち上がり、ゆっくりと彼女達の方へ向かい、落ちた紙をそっと手に取った後、それを机の上に戻し、気づかれないよう自分の席に戻った。

 席に座り、彼女達の方を見ると、楽しそうに話をしていた。

 どうやら俺の存在に気づいていなかったようだ。


 (ふぅ〜、話の邪魔にならなくて良かった)


 昼休み──。

 食事を終えグラウンドへ向かう。


 (何して遊ぶかな…)


 そんなことを考えながら階段に向かっていると、階段のすぐ近く、それも端の方で話をしている生徒が二人がいた。


 「でさ〜あの時のやつが」

 「マジかそれはウケるな」


 楽しそうに話をしているが、どう見ても通行するのに邪魔な位置にいた。


 (少し邪魔だな…)


 そう思い、彼らを避けながら階段を降りようとした。

 次の瞬間──。


 「おいそれはダメだろ〜」


 生徒の一人が片方の背中を思いっきり押したため、すぐ近くを通っていた俺に思いっきりぶつかった。


 「えっ」


 まさかぶつかると思っておらず、バランスを崩した俺は上から思いっきり押される形で、ドサドサと階段から転げ落ちていく。

 そして下まで落ちた俺を、上にいた二人が手を差し伸べた。


 「悪い、大丈夫か?」


 その手を取り、起きあがろうとしたその時だ。


 「いっ…!!」


 左足に痛みを感じた。

 どうやら足を挫いたらしい、その後は先生に言われ学校を早退、念の為病院で見てもらうことになった。

 病院に着くと両親が先に来ており、俺は親に同行されながら診察をした。

 診察が終わり、病院の先生から言われた言葉は……。


 「完全に治るまで1ヶ月かかりますね。しばらく松葉杖を使って生活した方が良いでしょう」

 「そうですか…」


 治療用のテープを貼り、包帯を巻いてもらった後、俺は松葉杖を使いながら、病院から家に帰った。

 家に帰る途中、両親が俺に言った。


 「実は仕事が忙しくなりそうで、家に帰るのが遅くなるんだけど、一人で大丈夫?」

 「…大丈夫」


 なんて言葉を両親に伝えのは良いものの、明日から1ヶ月、どうしようか悩んだ。

 なんせ松葉杖を使った生活は初めてで、正直不安もある。


 「本当どうしようかな…」


 家に着いて自分の部屋に入る。

 両親は仕事があるため会社に戻って行き、家には俺一人になった。


 「松葉杖歩きにくいな……」


 そんな時だった。

 鞄に入れていたスマホから電話が鳴った。

 電話に出てみると、両親の声が聞こえた。


 『いきなりなんだけど、明日から同級生の子が家に来てくれるんだって』

 「えっ、なにそれ聞いてないんだけど」


 突然のことで少し驚いた。

 話を聞いてみると、どうやら介助かいじょしたいと名乗り出た人がいたらしく、その人が明日家に来るとのことだった。


 「でも、一体誰が?」


 正直に言うと、俺に友達はいない、親しい人もいないため、誰が来るのか全く予想できなかった。


 『とにかくそう言うことだから、頑張ってね』

 「ちょっ!」


 電話を切られた。

 しかし本当に誰が来るのだろうか、とりあえず明日に向けて部屋を空けておくことにした。


 「何で怪我人の俺が部屋を用意しているんだ?」


 次の日──。

 学校が休みのためベットでゴロゴロしていると、玄関のチャイムが鳴った。


 「はーい!!」


 松葉杖を使って玄関まで歩く、そして玄関に着いてドアを開けると──。


 「おはよう、足は大丈夫?」

 「……」


 俺は一度ドアを閉めた。

 見間違いかと思い一度深呼吸をし、再度ドアを開けて確認した。


 「もしかして、迷惑だった…?」

 「……」


 俺は再びドアを閉め──。


 「待って待って、何で閉めるの!?」


 咄嗟にドアノブに手をかけられたので、ドアは閉まらなかった。


 「……」


 唖然としながらも、俺は彼女・・に質問をした。


 「えっと…河本こうもとさん、何でいるの…?」


 俺の質問に対し、彼女は不思議そうな顔をしていた。


 「何でって、介助かいじょしにきたからだけど」

 「……」


 とりあえず俺は彼女を家に上げた。


 (嘘だろ…)


 同級生が来ることは知っていた。

 しかしまさかその相手が、学校で・・・一番可愛い・・・・・と噂されている少女、河本こうもと雪菜ゆきなだったなんて──。

 一先ずリビングに通し、椅子に座ってもらった。


 「あの、どうして河本こうもとさんが俺の介助かいじょを?」

 「え?」

 「だって……」


 河本こうもとさんが俺を介助かいじょしにきた理由がまったくわからない、そもそも……俺は河本こうもとさんと話をしたことが一度もない、だから彼女が俺を助ける理由もわからなかった。


 「……」


 しばらくすると、彼女が口を開いた。


 「…私が君の・・・・助けになりたい・・・・・・・と思ったからきたの、変かな?」

 「……」


 俺には彼女の言ってることが、よくわからなかった。


 「…変だよ」


 その日の夜、足の痛みに耐えながら、俺は風呂に入っていた。


 「やっぱり痛いな…」


 なんとか体を石鹸で洗う。

 そんな時、脱衣所の扉が開いた。


 「どう?体ちゃんと洗えてる?」

 「…河本こうもとさん?」


 どうやら心配で見に来たようだ。


 「うん、なんとか体洗えてるよ」

 「……」


 少し静まり返り、沈黙の時間が流れた。

 すると脱衣所から、バサッと何かが落ちる音が聞こえた。


 「河本こうもとさん、何してるの?」


 声を掛けるが返事が帰ってこない、しばらくして風呂場の扉が開き、彼女が中に入ってきた。


 「ちょっ、何してるの⁉」


 驚きながらも彼女から目をそらす、一瞬ではあったが……水着姿の彼女・・・・・・が目に入った。

 彼女は気にすることなく、俺の後ろに腰を下ろした。


 「体代わりに洗おうと思ったんだけど、ダメだった?」

 「いやダメとかではなく…」


 彼女の水着が気になって、会話に集中できなかった。


 「お…俺一回上がる!」


 恥ずかしさのあまり、俺は風呂場から出ようと立ち上がる。


 「あっ、急に動いたら──」


 しかし急に立ち上がったせいで、足に激痛が走った。


 「いっ──」


 あまりの痛さに思わず倒れる。

 とっさに彼女に体を支えられて、なんとか倒れずにすんだ。


 「ご...ごめん」

 「……」


 とっさに謝るが、彼女からの返事はない……。

 しばらくすると、彼女は自分の頭を俺の背中に当て、口を開いた。


 「ねえ……私のこと嫌い?」

 「…えっ」


 嫌い?

 彼女は何を言ってるのだろうか……少しして、彼女が衝撃的な言葉を口にした。


 「私は好きだよ・・・・・・、君のこと」

 「え!?」


 彼女の口からはっきりと、「好き」の言葉を聞いた。


 「ちょっ……え!?」

 「……」


 未だ驚いている俺の体を支えながら、彼女は話を進めた。


 「私もね、君のこと──ずっと見ていたよ・・・・・・・・

 「えっ、ずっと見ていたって……」

 「……」


 初めて気になったのは、同じクラスになって数日たった時だった。


 (あっ、あの子……)


 廊下を歩いている途中、背中に虫が張り付いている女子生徒を見かけた。

 その子はまだ気づいておらず、廊下を静かに歩いていた。


 (どうしよう、私虫触れない)


 周りには自分以外誰もいないため、どうしようか悩んでいると──。


 (あっ…) 


 その子は廊下を曲がってしまった。

 急いでその子を追いかけると、一人の男子生徒・・・・とすれ違がった。


 (あれ…?)


 その子の背中には、さっきまでいた虫がいなくなっていた。


 (飛んでったのかな?)


 そう思い周りを確認すると、さっきすれ違った男子生徒が目に入ってきた。

 何やら両手を挟んで、"何か"を入れているような感じだった。


 (もしかして…さっきの虫が入ってるのかな?)


 何となくだけど、そんな気がした。

 顔を見てみると、どこかで見たような気がした。


 (そう言えばあの人、同じクラスだったような…)


 そう思い、その日は教室に戻った。

 放課後になり、家に帰るため道を歩いていた。


 「明日は体育か、私運動苦手なんだよなぁ…」


 そう独り言を呟いていると、一人の老人に話しかけられた。


 「そこのお嬢さん、ワシの財布を知らないかの?」

 「財布…?ごめんなさい知らないです」

 「そうか…」


 私が知らないと聞くと、その老人はしょんぼりとしてしまった。


 「あの、私も探しましょうか?」


 何だか可哀想だと感じて、一緒に探そうと思った。

 でも老人は首を横に振った。


 「ええよ、若いお嬢さんの時間を無駄にはできんからな」

 「そう…ですか」


 そう言い残し、老人は歩いていった。


 「……」


 その姿を見ていた私は、このまま帰るのは良くないと感じた。


 (帰る前に、財布を見つけて届けよ)


 そう思った私は早速、財布を探すためいろんな場所を通った。

 小道や駐車場、公園や公民館、とにかくあの老人が行きそうな場所を手当たり次第探した。

しばらく探して一時間が経過、流石に見つからないと感じ、少し諦めそうになっていた。


 (どうしよう、全然見つからない…)


 そう思い、老人と会った道に戻る。

 偶然にも戻る途中で、さっきの老人を見つけた。


 「あっ、あの──」


 咄嗟に声をかけようと思ったが、老人が誰かと話をしていたため、しばらく待つことにした。


 (あれ、あの顔は……)


 話している相手に見覚えがある。


 (確か同じクラスの……)


 同じクラスの男子が、老人と話をしていた。


 「いや〜財布を見つけてくれてありがとう」

 「い、いえ……見つかって良かったです」

 「お礼に一万円上げる」


 老人は財布から一万円を取り出して、相手の男子に渡そうとした。


 「あっ、自分予定あるのでそれでは!!」


 しかし男子は走って行ってしまった。


 「あらら、行ってしまったか…」

 「あの〜…」


 話が終わってので、私は老人に話しかけた。


 「おや、君はさっきの……」

 「財布、見つかったんですね」

 「ああ、財布を見つけてくれた子がいてね。お礼をしたかったのだが行ってしまったよ」

 「……そうですか」


 私は男子が走って行った方向に視線を向けた。


 (そういえばあの人、名前何て言うんだろう)


 私はその日から、彼のことが気になり始めた。

 そして見かけるたび、ふと気づいたことがある。


 (〇〇くん、またやってる…)


 彼はいつも、何かしら気づいて・・・・・・・・行動していた・・・・・・

 誰かが汚した廊下のシミをこっそり消したり、クラスの女子が無くしたストラップを、バレないよう机の上に置いておいたり、床に落ちたプリントを拾って机に置いたりしていた。


 (……)


 しかし私には、一つだけ疑問があった・・・・・

 それはある休み時間、彼がお礼を言われている場面に出くわした時だった。


 「このキーホルダー、見つけてくれたの〇〇くんだよね。さっき友達から聞いたよ」

 (あっ、これは……)


 お礼を言われた彼がどういう反応をするのか、少し興味があった。


 「ありがとう、大事なものだったからずっと探してたんだ」

 「……」


 彼はお礼を言われ慣れてないのか、しばらく無言だった。

 そしてようやく喋ったかと思ったら──。


 「えっとごめん、人違いじゃない?」


 彼はキョトンとした顔をしていた。


 「えっ、でも…」

 「俺ずっと図書室で本読んでたから……」


 彼があまりにも普通に言ってくるので、流石の相手も混乱していた。

 すると丁度授業開始のチャイムがなり、相手の子は席に戻って行った。

 しかし私は知っている。

 だって実際キーホルダーを見つけたのは、”彼”なのだから……。


 (…わかんない)


 感謝の言葉がいらないなら、なぜ他人のために動くの?

 貴方が自分の時間を使ってまで、行動する理由はなに?


 (何で……何でそんな・・・・・顔をしているの・・・・・・・?)


 さっき話しかけてきた子を見ながら、彼の顔は少し安心したような表情をしていた。


 (知りたい…)


 いつしか私の中で、彼に対する気持ちがどんどん大きくなっていった。


 (なんだろう、この気持ち…)


 自分でもよくわからなかった。

 なぜここまで彼のことが気になるのか、それを決定づけたのは……ある日公園で子どもたちと一緒にいるところを見た時だった。

 一人の男の子が怪我をし、彼はその子の相手をしていた。


 「大丈夫だから、ジッとしてて」

 「グスッ…」


 男の子は少し涙目になっており、彼は励ましの言葉を送りながら、男の子の傷口に塗り薬を塗って、絆創膏を貼っていた。


 「はい終わり、よく耐えました」


 彼はそう言って、男の子の頭を撫でた。

 少しして、男の子は彼にお礼を言った。


 「ありがとう、お兄さん」

 (……)


 私はバレないように草陰から見ていた。

 正直、彼が小さい子相手だとどうするのか気になっていたからだ。

 そして彼が男の子に言った。


 「うん、どういたしまいて」

 (っ…!)


 私は彼の言葉を聞いて、胸がキュンとなった。

 その理由は……彼がその子に笑顔を向けていた・・・・・・・・からだ。

 彼が笑顔になったところを、私は始めて見た。

 ふと胸に手を当てると、凄くドキドキしてるのがわかった。


 (ああ、そうか)


 彼の笑顔を見て、ようやくわかった。


 (私、好きなんだ。彼のことが……)


 この時初めて、彼が好きなん・・・・・・だと自覚した・・・・・・

 その数日後、彼が階段から転げ落ちたと聞いて、先生に介助かいじょしてもらえるかどうか、彼のご両親に頼み込んでもらった。

 結果は無事OKをもらい、次の日さっそく彼の家に向かった。

 向かう途中、私の中で緊張感が走った。


 (ついたけど、身だしなみ大丈夫かな…)


 玄関の前で何度も深呼吸をし、彼の家のインターホンを押した。


 (……)


 しばらくして、彼が家から出できた。


 「……」


 しかし何故か玄関の扉を閉められた。


 (えっ、なんで!?)


 流石に混乱した。

 もしかして嫌われてる?

 そう思い、少し傷ついた。

 その後何とか家の中に入れてもらい、今に至った・・・・・


 「……」


 俺は今、彼女を自分の部屋に入れていた。

 最初は別の部屋で寝てもらおうと思ったが、彼女がどうしても一緒に寝たいと言ったため、布団を別々に敷いて寝てもらっている。


 「ねえ、まだ起きてる?」

 「……」

 「もし起きてるなら、そのまま聞いて」


 彼女は布団から起き上がり、こちらに顔を向けた。


 「怪我が治るまででいいから、そばにいさせてほしい」

 「……」

 「私のわがまま、聞いてくれる?」

 「……」

 「……」


 返事が返ってこないため、彼女は布団の中に入り、そのまま眠りについた。


 「……」


 次の日の朝、いつもより早く起きてしまったので、一足先にリビングに降りようと歩き出した。


 「……」


 扉の前で立ち止まり、まだ起きていないであろう彼女に言った。


 「あ〜…俺もわがまま言うね」


 頭を手でかきながら、彼女に伝えた。


 「怪我が治るまで、そばにいてほしい……です」


 彼女の方を一瞬チラッと見る。

 彼女は寝息をたてながな、ぐっすりと眠っていた。


 「……」


 俺はリビングへと降り、冷蔵庫に入っていたお惣菜を電子レンジで温めた。


 「おはよう〜」


 お惣菜を電子レンジから取り出したタイミングで、彼女がリビングに降りてきた。


 「おはよう…」


 一緒に朝食を取ったあと、二人で話をする。


 「怪我が治るまで一ヶ月掛かるって話だけど、学校はどうするの?」

 「あ──学校の先生がサポートしてくれるから大丈夫」

 「…そのことなんだけど」


 彼女は一度指で頬をかいだあと、はにかむ笑顔で言った。


 「実は学校でも、私が面倒見ることになってるんだよね」

 「えっそうなの!?」


 驚きのあまり、思わず椅子から立ち上がった。


 「いっ…」


 足に少し痛みが走った。

 そんな俺を心配して、彼女が側に近づいてきた。


 「もー急に立ち上がったら危ないよ」


 そう言って、俺の肩を掴んだ。


 「…そうだね、ごめん」

 「謝らなくて良いよ。だって……」


 彼女は俺を椅子に座らせると、少しニコッとし──。


 「互いのわががま・・・・・・・聞くんだから、助け合おうよ。ね?」

 「えっ…」

 「…ふふっ」


 目を丸くしている俺を見て、彼女は少し笑った。


 「き、聞いてたの?」


 俺の質問に対し、彼女はくるりと回った。


 「…さあね」


 それからの一ヶ月間は、本当に大変だった。

 学校に行くと必ず男子達から質問攻めにあい、家では休日限定とは言え、必ず彼女が止まりに来ていた。

 ちなみに俺の中で一番大変だったのは……。


 「ねえ、何で目つぶっているの?」

 「あはは……」


 その日は彼女が水着を忘れたため、仕方なくバスタオル・・・・・を巻いていた・・・・・・

 贅沢な悩みかもしれないけど、視線を逸らすのが本当に大変だった。


 「……」


 病院に通いつづけて数週間、病院の先生から言われた。


 「これならもう包帯は必要無いですね」

 「えっ、それって…」

 「はい、もうすぐ足の怪我治ると思います」

 「…わかりました」


 もうすぐ普通に歩けるようになる

 その言葉を聞いて、何故か俺は少し落ち込んだ・・・・・・・


 (もうすぐ、彼女との関わりも終わるな…)


 怪我が治れば、俺と彼女は”普通の生活”に戻る。


 「……」


 診察室を出ると、待合室にいた彼女に声をかけられた。


 「どう、そろそろ怪我治りそう?」

 「……」


 俺は意を決して、彼女に伝えた。


 「もうすぐ治る…って言われた」

 「…そう、良かった」


 俺の言葉を聞いて、彼女は喜んでくれた。

 でも、俺は──。


 「河本こうもとさん、家に戻ったら……伝えたい言葉があるんだけど」

 「っ……うん、わかった」


 俺の言葉を聞いて、彼女は少し不安そうな表情をしていた。

 家に帰り、リビングの椅子にお互いが座る。


 「それで、伝えたい言葉って?」

 「……」


 俺は少し深呼吸をし、勇気を振り絞って彼女に伝えた。


 「河本こうもとさん、この一ヶ月間本当に感謝してる」

 「……」

 「正直、一緒にいた時間は……凄く楽しかった」

 「…うん」

 「だから──」


 彼女は俺の言葉を、静かに聞いていた。

 俺は彼女をまっすぐ見ながら、勢いに任せに言った。


 「だから河本こうもとさん、俺と付き合ってください!!」

 「っっっ──!!??」


 彼女の顔は真っ赤になっており、しばらく下を向いていた。


 「……」


 彼女からの返事を静かに待つ、そして彼女から発せられた言葉は──。


 「少し、目閉じてて」

 「えっ、わかった…」


 彼女に言われて目を閉じた。

 もしかしたら振られるかもしれない……そんな不安は、次の衝撃で・・・・・かき消された・・・・・・


 「ちゅっ──」


 何か柔らかいものが、唇に当たった。


 「えっ……」


 思わず目を開けると、目の前で恥ずかしそうに赤面している彼女がいた。


 「えっと、これが答え・・・・・です…」

 「……」

 「い……嫌だった?」


 彼女は不安そうにこちらを見ていた。

 そんな彼女を見ていると、俺まで恥ずかしくなってきた。


 「い、嫌じゃないです…」

 「っ…よ、良かった…」


 俺の言葉を聞いて、彼女は笑っ


 「えっと、それじゃあ──」


 彼女に手を差し伸べる。


 「これから…よろしくお願いします」

 「……」


 彼女は俺の手を握り、笑顔で返事を返した。


 「はい、私の方こそ……よろしくお願いします」


 そして数日後……。


 「あー、やっと怪我治った」


 怪我が治った俺は雪菜ゆきなさんと一緒に、近くの公園に来ていた。


 「本当に良かったね」


 俺が喜んでるのを見て、彼女も嬉しそうだった。


 「あ──それじゃあ」


 俺は彼女の手を握り、そのまま歩き出した。


 「初デート行こうか、雪菜ゆきなさん」

 「…うん!!」


 そう言って、彼女は走り出した。


 「足治ったなら競争しようよ。隼人・・くん」

 「えっ!ちょっと!?」


 先に言った彼女の後ろを……この俺、滝川たきがわ隼人はやとは急いで追いかけた。


 「てか走るの早くない!?」

 「私元陸上部だから当然だよ〜」

 「なにそれ聞いてない!!」

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