「そもそも、エリザってなにが好きなんだ?」
「さあ? わたしもよく知らなくて…… 色は赤系が好きそうですけど」
「そっか! よく着てるもんなー、赤のドレス」
「ただ、赤系のものはたくさん持っていそうなので、いまさらあげても……」
「いえてる……!」
エリザへのプレゼントをなににするか ―― それは、なかなか決まらなかった。
屋上までの長ぁぁい階段を登ってるあいだ話し合っても、いいアイデアは全然でてこない。ちょっと
「俺たち、エリザのこと、なんにも知らないな…… 『悪役令嬢まじめに頑張ってる子』 ってこと意外」
「じつはすごくいい人ですよね、エリザさん…… なにをあげても、表向きツンツンしながら、こっそり大切にしまってそうな……」
「うん。それな。だからこそ、なんか本当に喜ぶものをあげたい!」
「けど、なんでも持ってそうですし」
「うぅぅぅ…… 確かに!」
これが、ばーちゃんとかなら、肩たたき券とかお手伝い券でいけるんだけどな……!
「俺とのデート券…… いやごめん、なんでもない」
サクラがくすくす笑う。
「いますぐお礼、でなくてもいいかもしれませんね」
「でもなぁ……」
もらいっぱなしってのも、悪いような気しかしないし……!
俺が悩んでいると、サクラがふいに話題を変えた。
「わたし、ママの誕生日に毎年、弟たちとケーキを作るんですけど……」
「うん?」
「喜んでもらえるかな、って弟たちと話し合いながら作るのも楽しいし、実際に喜んでくれたら、もっと嬉しいですよ」
サクラがおっとりと微笑む。
「あげる方だって、それ以上のものをもらってるんです」
「…… エリザもかな?」
「だから、くれたんじゃないですか、フリスビー」
「そっか……!」
目からウロコってきっと、こういうことだな!
さすがさくら、2周目プレイヤーなだけある!
「だったら、すぐに無理にお礼とかされたら 『かえって気を遣わせちゃったかも?』 って悩みそうだ! エリザなら!」
「ですよね…… だから、お礼は、もっとエリザさんのことをよく知ってから、ゆっくり考えてもいいんじゃないでしょうか」
サクラ、優しい口調で的確……!
俺の目からはいま、ウロコとかウオノメとかがボロボロ落ちまくってる気分……!
「じゃあ、まずは俺、チロルとエリザと、たくさんフリスビーで遊ぶ! もちろんサクラも一緒!」
「ええ、わたしもそうします」
「で、エリザに 『いっぱい遊んでる! ありがとう!』 って言うんだ!」
「エリザさんが、どんな顔されるか、楽しみですね」
「扇で全顔を隠す、に一票!」
ふふっ…… サクラが声を出して笑った。
「みんなで、ピクニックに行ったりするのも、いいですね」
「エリザを誘うのが大変そうだけどな!」
「ですね…… 『このあたくしが!?』 みたいな感じかも…… でも、来てくれるんじゃないでしょうか」
「だな!」
俺たちは顔を見合せて、もう一度、笑う。
俺、サクラとも、一気に仲良くなれた感じがするなあ!
こうして話し合いが一段落ついたころ。
俺たちはやっと、屋上にたどりついた。
扉を開けると、サクラが小さく 「あ」 と叫ぶ。
「流れ星です」
「え? どこどこ?」
「あそこ…… でも消えちゃいましたね」
「残念」
「また、見つかるかもしれません」
と、ここで、ポケットのなかから 『10時まで、あと20分』 と声がした。
寮を出るときポケットに入れておいた時間小人だ…… いい仕事、してますな。
「じゃ、帰る前に俺はちょっと、のんびりする!」
宣言してウッドデッキに寝転ぶと、サクラも隣に座ってくれた。
少し冷えた夜の風、気持ちいいなー!
空には、大きな月。
星も、街よりずっとたくさん見える…… これが、天文台の実力か……!
「地上の空って、今でもこんな感じなのかな?」
「きっと、そうでしょうね」
「俺たち、いつか見られるかな、地上で」
「さぁ……除染が進めば、いつかは、見られるかもしれませんね」
小さな光の屑が、ツッと横に流れてすぐに消えた。
目がなれてくると、あちこちに流れ星が見える。
「昔の人は、流れ星に願いごとをしたそうですよ」 と、サクラ。
「じゃあ…… 今度、エリザとサクラと、ここに来れますように!」
「ヴェリノさん、エリザさんと、もっと仲良くなれますように……」
俺とサクラは、流れ星を見つける度に、交互に願い事を言いまくってみた。
「サクラの恋が、かないますように」
「それは…… いえ、なんでもないです」
「? サクラは誰を攻略したいとか、ないの? 応援するよ?」
「ありがとうございます…… まあ、そのうち」
もしかして、サクラの攻略対象、まだ決まってないのかな。
決まったら、教えてくれるかな、サクラ…… 俺は自分の恋は諦めた (だって攻略対象は男ばっかりだし) が、女の子どうしで
あと、そうだな。
(たぶん) いまの人類共通の願いといえば、これだよな。
「いつか、みんなで地上でこの空を見られますように!」
俺の声と、時計小人が 『ただいま、10時10分前です』 と告げる声が、重なった。
☆☆★★☆☆
==エリザ視点==
【飛ばしすぎでは? 事故っても知りませんよww】
空を飛ぶのは久しぶりだが、夜は空を飛ぶ人も鳥もほとんどおらず、多少の暴走は大丈夫そうだった。
ひゅんひゅんと髪とスカートを後ろに流す強い風も、身を切る程に冷たい空気も、今の苛立った気分にはピッタリだ。
行き先は、天文台。
そうエリザが考えたのは、単純な理由からだった。
―― 夜9時を過ぎても開いているのは酒場か天文台しかなく、清楚ぶっているサクラが、酒場を選ぶはずは、ないのだ。
寮から天文台までは、空を飛んでも40~50分かかる。
(あそこね……!)
エリザが見つけた時、サクラとヴェリノは観測台のウッドデッキに並んで寝転んでおり……
なんか、良い雰囲気だった。
邪魔しないよう、そっとドームの方に降り立ち (なに気遣いしてるのよ、あたくしったら!) と自身にまでイラッとする、エリザである。
「これから彼らの間に入ったら、邪魔をしているようにみえるでしょうけど……」
「ヴェリノを守るというのと、サクラへの嫌がらせ、両方兼ねているのよ!」
【ww 普通に、『仲間に入れて』 で良いんじゃないでしょうか ww】
「違うわよ!」
そんなの全然、悪役令嬢っぽくないではないか。
「『あら偶然。王子を差し置いて、こんなところでデートですかしら? 王子が知ったら、なんと思われるでしょうね?』 よ!」
【良いんじゃないですかwwwww】
「でしょう?」
いかにも偶然に見えるよう、夜空を飛ばしまくって乱れた髪を整え、そろそろとふたりに近づき…… そして、聞いた。
―― ヴェリノの 「今度、エリザとサクラと、ここに来れますように!」 という声を。
しばらくして 「ヴェリノさん、エリザさんともっと仲良くなれますように」 とサクラが言うのを耳にし、エリザは、完全に固まってしまった。
「…………」
しばらく考えた後。
サクラとヴェリノの前に姿を現すことなく、エリザはそっと、その場から離れたのだった。