「はい、ということで一人目のゲストが満足したので次に行きまーす」
後輩がテロップを出してゲストの切り替え作業を行なった。
職人達はホクホク顔だが、ゲストはわかりやすいくらいに納得いってない顔。
そりゃ性能だけすごくて遊びで作ったような手に馴染まない武器を渡されて満足いく人はそうそういない。
『ちょっ、これでおしまいか?』
「参加者が多く、一人当たりの持ち時間は決められてますのでさっさと退いてくださいねー。それに参加しても必ずしも納得いく武器が手に入るわけではないと事前に説明しましたよね?」
『ぐぬぬ』
確かにそう言う説明を事前にしてたんだろう。
僕は何も知らないよ?
後輩が持ってきた企画に了承しただけで細部のことについては詳しくない。
どこでどんな契約を結んだかまでは認知してないのである。
ちなみに初回からこんな感じで回してる。
それはさておき一度ゲームをクリアしてしまった手前、暇だ。
もっと長いこと武器の開発をすると思ってたもんだから、こっちは勝手に進めてしまっていた。
もしかしてゲストの持ち時間は僕たちがゲームを一回クリアするまでとか決めていたんだろうか?
流石にそれは短すぎないか?
だって錬金術や魔道具、鍛治が一朝一夕でできるはずもない。
本来なら数週間をかけて打ち込む作業なんだよね。
なんでかそれをやれちゃう規格外の人が集まって企画が進行してしまっているが。
ゲームの技術をそのまま流用しようだなんて考えたのはどこの誰だ?
僕だね。うん、反省してるよ。
「そう言うわけでもうワンゲームよるよ。アメリアさん準備はいい?」
「少し集中力を高めたいから休憩を取りたいぞ」
「オッケー。後輩に頼んで飲み物とつまめるものを持ってきてもらおっか」
「流石センパイ、アタシの言いたいことがわかってるな! 前回は少し調整ミスったから次は失敗なく行きたいんだぞ!」
「え、ミスしてるところあった?」
「ミスが治ればタイムはあと10秒縮められる!」
「なるほど」
その縮めたタイムでゲストの交代が起きるわけである。
地獄かな?
あとでいっぱいクレームが来そう。
<コメント>
:あれで?
:あれで?
:あれで?
:あれで?
:世界ランクのベストレコード出してるんですけど
:どこに失敗要素が?
:先輩すら疑問符浮かべるレベルなんか
:実際、プレイヤーから見てもとんでもない技術の応酬でした
:あれで満足できないんかー
:満足しちゃえるのはハードまでってか?
「わかんないけど、本人が納得できてないならやり直すべきだよね。僕も新規アイテムの使い道を迷ったし。次はミスなく回せると思うから、そこを含めたら前回はまぁ及第点だったね」
「え、さっきのセンパイのどこにミスが? むしろアタシの方が対応間に合わなかったくらいだぞ?」
<コメント>
:この二人、あまりにお似合いすぎる
:あれ以上の調整求められたら一般のアイテム係が死んでしまいます!
:あれをミスって言えちゃうのは流石に意識高すぎでは?
:ベストレコード出しておいて?
:まだ上を目指すんか
言うほどおかしいかな?
初見のアイテムを網羅してるほど僕はこのゲームの攻略サイトを熟知していない。
大体が既存の素材の流用でやっているんだ。
ミスくらいはするさ。
現実と違って仕入れ値で懐にダメージが行かない分、無理な錬成ができるだけゲームはありがたいよね。
「それで、次のゲストさんは?」
休憩中、僕は後輩から手配された本場のジャンクフードをいただいた。
アメリカの食べ物ってなんであんなに大きいんだろ?
アメリアさんはそれをペロリと平げ、その横で僕は小動物のようにポテトを摘んでいる。
飲み物はコーラ。僕はビール。
昼から飲むな? こちとら遊びでやってんだよ! いい加減にしろ!
まぁビールで酔うようなやわな肝臓はしてないからな。
動き回るアメリアさんと違い、僕は手元の操作だけ気をつけてればいいし、へーきヘーき。
「次はイタリア在住のロギンさんです」
『おっすセンパイ。今日はよろしく頼むぜ』
「お前か、ロギン」
「お知り合い?」
「Sランクの招集でしょっちゅう顔を合わせてる。ムカつくけど技術は高いんだ」
「凄腕なんだ」
『トールから色々聞いてるぜ。それとイタリアの変身ヒーローといえば俺だ』
「あー、変身セットの」
言うが早いか画面の向こうで日曜朝の変身ヒーローのような格好で現れる。
イタリア国旗のカラーリングの全身タイツの上に、専用の銃剣を担いでいる。
武器はそれだけでなく、背中にハルバード。
腰には手榴弾と現代兵器も多用。
そこに新しいコレクションを加えるべき参加したと言ったところか。
苦手な分野はなさそうだし、鍛治の親方連中も楽そうだ。
<コメント>
:出た、武器マニア
:何でも屋ではあるが、どれも武器の平均技量が高いんだ
:顔はいいけど口が悪くてな
:女癖も悪いぞ
:アメリアちゃんにも速攻ナンパしに行ったしな
:見事に振られたけど
:どう見たってチンピラなんだよな
:こんなのをイタリア代表にして大丈夫そ?
:大丈夫じゃないぞ
:国際問題なんだよ、早く新規育て!
:なんだかんだでこいつだけ頭ひとつ抜けてるんだよ
:新規も粒揃いだが、Sに一歩届かない
なるほど、アメリアさんが最も嫌うタイプというのはわかった。
そういえば異性の好みを聞いたことはなかった。
くっついてくる時点で異性は意識してるけど。
僕が男らしいかといえば疑問符を浮かべるところではある。
いや、僕は男だが(憤怒)
「先輩次はもっとモードを優しくしてもいいんじゃないでしょうか?」
突如後輩からの促し。
これはあれか、後輩も苦手なタイプでさっさとゲストを回したいと言ったところか。
「いや、アメリアさんがルナティック以外で満足できないから次もルナをやる予定でいたけど」
「アタシはどっちでもいいぞ?」
<コメント>
:むしろハードでどこまで回せるか見たいです!
:ハード勢は先輩の動きに注目してる
:プレイする上でルナクラスの人を捕まえる方が大変だし
:エンジョイ勢はノーマルクリアもきついけどな
:このゲームは探索初心者がやるものだしな
:そうだったのか?
:ランカーは大体探索者
:上位探索者は遊んでる暇がないみたいだけど
:そこに流星の如く現れて暴れ回ってるのがこの二人である
と、いうことでハードをやることに。
僕は別にどっちでもいいけどにゃー。
ビールなのに随分酔いが早いのはきっと気のせいだろう。
ゲームスタート。開幕アメリアさんが殴り込みに行き、メニュー欄に素材が並んでいった。
「うーん、脆い。当分武器の変更はなくていいかも」
「オッケー、バリケード作って新入経路一本化しちゃう?」
「数はそこまででもないから平気だぞ。なんなら爆弾多めで」
「りょ」
<コメント>
:本当に手慣れてるなー
:さっきのミスの修正?
:あれはルナのミスだし
:先輩もそうだよ
:企画中に飲酒してる時点でなぁ
「とりあえずどんな武器が欲しいか要望をもらいたいところだの」
『おう、じゃあ先に俺のスタイルを見せるところからだな?』
<コメント>
:今回はこっちの企画見れそうだ
:ハードは見たい勢が限られてるからな
:今回は合金オリハルコンは出てこないんでしょ?
:素材管理的に難しいってのが妥当な判断
:初手、ツインヘッドドラゴンです
:そういえばこれ低層なんだよな
:マジもんのSSランクダンジョンです
:この企画、遊びの延長で日本救ってるwww
:企画と協力してくれた探索者はガチだぞ
:企画者が遊んでる時点で遊びでしょ
『転送、ガトリングガン!』
「へぇ」
<コメント>
:お?
:流れ変わってきたな
:見た目で完全に騙されてたわ
:そうだよな、武器がそれだけってことはないか
:まるでヒーローのようにディランの武器使うのやめろ
:ヒーローも行き着く先は数の暴力だから
瞬く間に蜂の巣になるツインヘッドドラゴン。
セヴィオの槍捌きも見事であるが、このロギンという男も侮れない技量を持つことが判明する。
ガトリングというわかりやすい分、ピーキーな武器種は案外扱いが難しいのだ。
大量に玉を発射するという都合上、どうしたって無駄玉を打つ。しかしロギンは一発の無駄玉を発生させずに全弾命中させてみせた。
ある程度相手の動きを予測できなければ無理な芸当だろう。
「いいね、彼。代表選手ってだけはある」
女性陣からの評価こそ低いが、僕が興味を抱くには十分だった。モードがハードで少し思考に余裕があるというのも良かったかもしれない。
「センパイ? あんまりよそ見はやめて欲しいんだけど」
「問題ないよ。ちょっとアイディアを思いついたんだ。今回はアメリアさんように調整するけど、このじゃじゃ馬を是非彼に持たせたい」
<コメント>
:あーあ、食いついちゃった
:ロギンは男のロマンをわかってるからな
:男の子の願望の具現化なところはある
:先輩も男の子だったってことか
なんだかコメント欄が騒がしいが無視。
僕は企画書を書き上げて親方連中に送信した。
それを見て親方連中が作り上げる。
僕が作らないのかって?
今回の僕はアメリアさんのお守り役なんだよ。
なのでアイディアは出すけど開発はしない。
そういう約束なんだよね。
「ほうほう、こいつは面白い」
「あのマシンガン見て、これを思いつくあたりで常識を疑うわ」
「こういうのはミスの連続でたどり着く産物じゃからな。思い切りの良さと、確かな技術力の両方を併せ持たなければたどり着かん」
「そんな大袈裟なもんじゃないけどね」
僕が彼に送った装備はズバリ、固定砲台だ。
武器そのものに転送陣を付与して、それを天井や壁に固定させてから任意の場所に武器を転送する。
じゃじゃ馬というのは、武器の固定手段によっては安定せずに自分側にも被弾しかねないということ。
けど彼ほどの操縦技能ならそれすらも計算に入れて立ち回れるかもって考えてさ。
アメリアさんには足場を作る武器として調整した。
踏みつけると一定時間重力をその場に展開するものだ。
動き回る彼女にうってつけの装備と思ってね。
重力は手持ちのベルトで操作可能。
相手の武器をその重力場に引き付けるって手段も取れるので人によって扱い方は千差万別って感じかな。
<コメント>
:またとんでもない武器が世に送り出された件
:合金オリハルコン君ちーっす!
:当たり前のように作るな
:余った素材、じゃないんだよなぁ
:足りない部分は代用品を使いました(ドヤッ)
:ハードでも作れちゃったかー
:成功率チャレンジが捗るな
『お? おーおーおー。いいね! 欲しかったのはこういうのなんだよ。それとは別に重力制御のも欲しい』
「贅沢言うな」
「文句言うならもう作らないぞ?」
『別に文句言うつもりはないんだが、どっかで誰か作らねぇ? 個人的に買いたい』
「合同での作業になる分、使用権は高くなるぞ?」
『それでも構わねぇから』
言いながら、ロギンは支給された装備を早速扱っていく。
もはや体格の優位性は設置型装備で無くなっていた。
武器の貯蔵はそれこそ事務所の倉庫次第。
ガトリングガンが弾切れしたら難なく違う武器に持ち替えられる男だった。
近接武器で切りつけながらも別方向からの銃撃。
ツインヘッドドラゴンは四つの瞳で多くの視野を持ちながらも神出鬼没な攻撃手段に翻弄され、ついにはその命を散らすに至った。
たった一つの装備を手渡され、しかしその討伐数は10を数える。
圧倒的な戦力差に、出現数も次第に緩やかになっていた。
<コメント>
:それにしたってこのドラゴンパレードはなんなの?
:初見からドラゴンしか出てこない件
:いい加減見飽きた
:※本来なら討伐要請を組むレベルの災害です
:ゲストが強すぎるっぴ
:ここが日本だっていまだに信じられない件
:マジでこの企画がなかったら日本今頃パニックだろ
:なお先輩は遊びの模様
:もっと真剣に攻略してください!
:それは日本政府が取り組む仕事であって、個人Vが取り組むことじゃないんだよ
:なんでこの人Vチューバーやってんだよぉ
:それは誰にもわかりゃん
──────────────────
同時期、日本の樹海ダンジョンの奥では。
「もう無理だ! これ以上産めない!」
『そうか。これ以上は無理か。しばらく休め。ここ最近侵入者が我が子を殺してまわっている。強い子が必要だ。なるべくなら大きな卵が欲しい』
「可能な限り頑張るから、いきなりは産めないから」
ハワイでTS薬を飲み別人のような美しさを得た大塚晃は。
ダンジョンの奥でドラゴンの王と契約し、眷属となってドラゴン娘に変貌していた。
モンスターと同様の存在になったことで襲われることは無くなったが、よもや自分がそのモンスターを産む側に回るとは思いもよらない。
卵は自然に生まれるものだが、今の晃は王によって強制的に魔力を流されて生まされている形である。
こんなところに長居してたら男だった自分がどこかへ行ってしまいそうな恐怖を覚えていた。
「行ったか?」
ドラゴンの王の気配が消えたのを察知し、晃は行動に移す。
晃とて好きでこの場に留まっているわけではない。
監視の目が厳しく、抜け出すことが難しい状況が続いていたからこその拘留。
素直に従っているうちは暴力を振るわれないので、ある意味で居心地が良かったのである。
それはともかくとして、せっかく産んだ卵を台無しにされていると知った晃の心情は穏やかじゃない。
ある程度の卵の消失は仕方がないものと思っているが、その結果自分の成果がなかったことになると言う現象に頭痛が芽生えていた。
「くそ、迷惑な奴もいたもんだ。俺の産んだ子供を殺してまわってる奴がいるだって?」
子供を愛おしいと思ったことはない。
自分に似ても似つかないドラゴンだ。
もう少し人間体型なら愛着も湧くもんだが、ドラゴンの王の本体は見上げるほどの巨体だ。
当然生まれてくる個体も同様にドラゴンタイプであった。
ではどうして眷属化した晃は人間タイプであるのかといえば……
「王の番だからか」
奇妙な感覚が芽生えていた。
心のどこかで否定したい自分がいるが、どうしても逆らえぬ自分もいた。
人間化した王は少女のような見た目をしている。
その番もそれに近しい方子供たちに敬意を払ってもらえるとかだろうか?
わからないことばかりだ。
「俺は、人間社会に戻れるんだろうか?」
考えてる暇はなかった。
どのみち、ここに長居すればその望みは断たれる。
王に拘束され、人権を無視した扱いを受けるだろう。
「ぐっ、こんな時にまた」
お腹の奥に卵の感覚が宿る。
少しくらいは脱出ルートの距離を伸ばしておきたいところだった。
「アキオ、いくぞ」
「ぐるる」
家を捨てたかつての息子の名前をドラゴンの一匹につけ、女々しいと感じながらも、今は少しでも人間だった頃の記憶に縋りたい気持ちだった。
それを否定するように腹の中で卵が生成されていく。
屈辱を感じながらの産卵。
一個有無ごとに自分はもう人間じゃないのだと否が応でも知ることになった。
移動の際にアキオを連れ回るのも、いつ産気づくかわからない不安要素があるからだった。
生み出した卵は今の晃にとっての成果物である。
大事にかごの中に入れて温めておかねばならないと本能で察していた。これが割れたらまた産み直しだ。それだけはごめんだった。
「アキオ、ストップだ。この奥に人間の気配がある」
「ぐる?」
まだ生まれたばかりでか弱いミニドラゴンのアキオ。
せっかく懐いてくれた個体。ここで失うには惜しかった。
何よりも足を失った状態で晃は移動がままならない。
見つかればおしまいだ。
特に壁の奥にいる存在は楽しんでモンスターを殺して回ってるような存在だと理解した。
自分が産んだ子かどうかはわからないが、ドラゴンタイプが惨殺されているシーンを見せつけられて、嬉しさよりも悲しさが優ったからだ。
「帰ろう、アキオ」
「ぐるる」
「あれはダメだ。会話が通じないタイプだ」
晃は一目見て、その存在が友好的な手合いではないと直感する。一方的な要求ばかりして対話を成立させる気のないあの目は、大手製薬勤続時代に晃自身が槍込聖に対して行っていたものだからだ。
同族嫌悪というのもあり、相手がどのような手段に出るか手を取るようにわかるのだ。
あれは会話が通じない、なんなら身柄の保証もしてくれないと。出ていけば待ち受けるのは捕獲、解剖のプロセスだけ。
平穏を望む晃にとって最も遠い存在だった。
晃が踵を返し、王の元へ戻ろうとした時だ、
『✖︎✖︎、✖︎✖︎✖︎』
背後からこちらに呼びかける声がした。
気のせいか、相手の話してる言語は全く聞き覚えのないものだった。