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第104話 先輩、成長を見守る

「さて、すっかり地上はミニ企画に夢中のようだな」

「はい、作戦通りですね!」

「貴様! なんだあの出鱈目なスコアは! ズルをしてるんじゃないだろうな!?」


 すっかり目逸らし作戦に満足してると、子供達がそのミニ企画のスコアに納得いかないと駆け込んできた。

 この不遜な物言いは神輝だな?

 相変わらずわんぱくだ。


「こら、神輝、言いがかりはやめなさい。ズルじゃないってお互いに活動を生配信するって約束でしょ。お父さんは生まれつき成功率が高いの!」

「いや、そんなことはない」

「え、違うんですか?」

「ズルと認めたな!」


 ズルではないんだけどね。

 なんで後輩はそんな目で僕をみるのさ。

 僕だって普通に失敗くらいするって。


「ズルじゃないよ。失敗の産物に着眼点を置いたんだ。お父さんだって生まれながらに錬金術師の熟練度が100を超えてたわけじゃない。そこには多少なりの苦労があったんだ」

「え、違うんですか?」


 さっきから後輩の反応がひどい。

 生まれながらにして熟練度を引き継いでいたのではないかって言い振りだ。

 違うからね?

 いや、でも父親の性質が強く出るなら違わないのか?

 僕の母親は便宜上お父さんと呼んでいる槍込真栗。

 父親はコアパパだ。

 なぜ僕がりゅう族のコアをパパ呼ばわりしてるかについては、実の父親だからという他ない。


「父親がコアパパだからね。あの人錬金術のれの字も知らないでしょ? いくら母親が錬金術に興味があり、理解があっても片方が無知だとまるで引き継がないらしい。これがお父さんの経験談さ」

「なるほどぉ。全員が全員、うちの子みたいになるわけじゃないんですね」

「多少理解がないと錬金術師なんて最高の金食い虫だからね。一般家庭が抱えるには荷が重すぎるのさ」

「錬金術師の格言に借金を重ねてから一人前ってありますもんね」

「その通り」

「それは我が一人前になってないと言いたいのか?」


 やたら僕に喰ってかかるのは認めてないからというわけじゃなく、ただ自分の実力の低さに問題があると考えているからだろうね。


「君が一人前かどうかはランキングを見ればわかるところだ。錬金術師の中では上澄だよ、間違いなく。だけど、最下層と思ってる連中はずっとそのままじゃない。すぐに君たちに追いつくぞ。お父さんが追い込む」

「なぜそんな余計なことをする?」


 神輝は、僕のやってることは余計なことと言い切る。


「逆に聞くけど、自分だけ知ってる情報にどれだけの価値がある?」

「なんだと?」

「神輝、答えなさい。お父さんはね、あなたの将来的な取り組みについて聞いてるのよ」

「ふん、そんなもの。独占して優位に立てるではないか」

「そうだね、そういう一例もある。でも君が死んだとき、その秘匿情報は消えてなくなる。秘匿情報とはそういうものだ。中には世界的大発見もあるかもしれない。けど君は、それを公開せずに隠すことを選択した。自分だけ良ければいいってことはそういうことだよ? もし公開してれば、そうだね。君の地位は向上したかもしれないのに。君はそれを選ばなかったことになる。それって非常にもったいなくない?」

「それは同じ志を共にする仲間に……そういうことか。将来的に仲間を持てば秘密は自ずと漏れていく。ならば自分から公開することで優位に立つことを保持するのだな?」


 してやったりという顔。

 見ての通り子供の提案だ。

 社会に出たら泣きを見るよ?

 まぁこの子のことだから上司をぶん殴って解決しそうではある。うちの子って野蛮だから。

 だから表に出せないんだよ。


「全然違うよ」

「ならば貴様の見解を答えよ」

「お父さんは公開することに意義を見出した」

「それでは独占できぬぞ?」


 理解できないって顔。

 そりゃいきなりは他人の意見なんて理解できないか。

 なので僕個人の話をする。


「独占してたところで、優位に立てないよ。お父さんは今でこそ社会的地位があるけど、その前まではどこにでもいるただの研究員の一人だった。そこからスタートしたお父さんはね、君のお母さんと出会って、初めて自分の秘匿していたレシピが世の中の役に立つと理解した。それを公開したおかげで今があるんだよ。それまでは、個人的な楽しみの一つでしかなかった。張り合える仲間がいなかったんだ。これがお父さんの見解。熟練度が一人だけ高いままなのって孤独なんだよ。お父さんはそれでも良かったけどね、仲間ができることで、熟練度の上昇を見込むことでお父さんは毎日が楽しい」

「ふん、弱者の戯れか」

「そう取ってもらっても構わないよ。でも君は、その弱者の戯れに追いつけないし、お父さんが育てた後続に焦りを覚えてる。最強の状態で生まれてこなかったことがそんなに不満?」

「いや、面白い。今まではずっと力を振るう機会を願っていた。だが今は、チャレンジャーのつもりで現場に立てる。いつかその首噛み砕いてやるぞ?」

「いつでもおいで。お父さんも君たちが成長するのが楽しみだ。もし君がお父さんに追いつけたのなら。そうだね。次期国王は君のものだ。どうだい、やる気が出るだろう?」

「その言葉、ゆめゆめ忘れぬことだ」


 グワハハハ! と大声をあげて神輝は退室した。

 残された子供たちは自分たちの言い分をほとんど神輝に言われて退室しようか迷ってる。

 そこで、ハードモードで競い合ってる聖弥がため息をつきながら独白する。


「あーあ、バカだな兄さん。自分より上がいることが気に食わないばかりに勝てない相手に喧嘩を売って」

「お父さんは彼のチャレンジブルな精神をみんなは見習うべきだと思うけどな。聖弥は何がそんなに心配なの?」

「ちなみにお父様、熟練度はおいくつで?」

「最近480になったね。それが何か?」


 流石に高い! さすがは私の目標だ!

 とやたら興奮している。

 僕の近くにはいないタイプだなぁ。


「300で慢心はしていられないということですか」

「本当は君たち向けではないんだけどね、地上人向けにお父さんのレシピを『にゃん』のサブスクで難易度100から紹介してるんだ。もう読んだ?」

「もちろん購入させていただいてます。そして問題なく作れます」

「なるほど。でも作れるだけ? そこから新たなアイディアは生まれてこない?」

「あ! そういう意味なのですね?」

「君は理解が早くて助かるな。ちなみに、その上位はそのレシピが生まれた副産物を融合させたものなんだ。なんの使い道があるんだ、これ? と処分をしないで取っておいたものが、熟練度の上昇で突然化ける。これがお父さんがいまだに錬金術をやめられない理由でね」

「わかります。私もお父様のレシピをいじくり回していたところに、このような発見があったことを記しております」

「へぇ、見せて」

「はい、この通りです」


 さすが子供の中でいちばんの成長株。

 ワクワクしながらノートを覗き込めば。

 確かに僕も未発見なルートが記されていた。

 しかし結果は僕が至った道のりにしかならず。

 ついついダメ出しをしてしまう。


「いい着眼点だね。でもこれお父さんはもっと低い状態で到達してしまった。この難易度30のハイポーションもどきと難易度15の溶解液。これにかき氷シロップを加えて上級融合すると、ほら。同じものになった」

「こんな低い段階から、同じものを?」

「お父さんは思うんだよ、聖弥。レシピっていうのはメモに留めるだけじゃダメなんだ。お父さんは公開したことによって多くの有志、この場合はお母さんがネットでまとめてくれた。メモって記録してもすぐにどこか行っちゃうでしょ?」

「いえ、整理整頓しておけば管理できます」

「お父さんはモノの管理が杜撰だからすぐにどこかいってしまう。そこで作ったのが記憶保管庫でね。これは最初忘れっぽいお父さんがそれまでの記憶を留めておくセーブポイントでしかなかった。いつの間にかスペアボディが完成して、文字通り分裂してしまったけどね」


僕以上に整理整頓が万全な聖弥に、被せるようにして言った。


「今や全く違う用途に使われるようになったと?」

「当時は全く想定していなかったものでもね、時の流れと熟練度の上昇で異なる使い道が生まれるものだよ。お父さんの中では一番どうでもいい『むくみ取りポーション』が地上で爆発的に売れたりね」

「なるほど。私はお父様を無から有を作る神だと勘違いしてしまっていたわけですか」

「そんな偉大じゃないよ。また何かの研究に詰まったら相談しにおいで。お父さんの失敗エピソードを語ってやろう。そこから生まれたレシピの誕生についてもね」

「ありがとうございます、お父様。私もまだまだ研鑽が足りないところでした」

「すぐに成長できたら苦労はないよ」

「それでは失礼させていただきます。少し研究室に篭ります。今、面白いアイディアが浮かんできたので」

「いい心がけだね」


 なんでも自分の想定通りにはいかないものだと人生経験を語る。

 この子は1を教えて10を学ぶ子だ。

 こんな意味不明のやり取りでも何かを掴んだらしい。


 そして後の四人は、ランキング選ですっかりしおらしくなってしまった。


「ふん、あんたのこと少しくらい認めてあげてもいいんだからね!」

「ああ、親父の凄さは実際目の当たりにして痛みいったぜ。舐めた口聞いて悪かったな。オレ、親父の強さを測り損ねてたわ」

「おとーはん、あんた大したもんやわ。うち全然敵わんわ」

「お父さんすごいね、全然追いつけないや!」


 星螺(メスガキ口調)、凛音(エセ関西弁口調)、真矢(イキリヤンキー口調)もやんわりと、甘えてくるようになる。

 光輝(おっとり系)だけはいつも通りか。


 おいおいどうした、みんな。

 まさか一斉に負けを認めるとかないよな?


 お父さんはチャレンジブルな精神が大好きなんだが。

 引き継いだのは神輝一人だけで悲しいよ。


「何はともあれ、教育成功ですかね?」

「別に教育してるつもりはなかったけど、まぁ結果良ければ全て良しってところかな。さて、お母さん。地下の状況は?」

「大塚さんがいい感じに取りまとめておいてくれますよ。ただ少し予定が大幅に狂って、コアさんたちも参加するみたいで」

「へー…………へ?」

「今のうちに壁の強度確認しておきます?」

「そうしとこうかな。合金オリハルコンより硬い鉱物、見つかるかなぁ?」


 ま、まぁVR空間で開催するし。

 ヘイキヘイキ。

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