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129 前哨戦の陸


 陽動作戦の第一段階が開始された。

 島津の兵たちはまずこの戦場の外郭にてサポートに回っておる源氏や平家の兵たちに混ざり、その後武田や上杉、そして出雲の勢力の包囲網に入っていく。


「島津のA~C班、陽動演技任務を開始します」


 そしてわしの無線にそのような報告が入り、そやつらは武威を全開にして、敵に襲い掛かった。

 法威を操作できん島津兵だけど、短い間だけでも全力で戦えば死傷の可能性を下げることができる。

 もちろんこれも交代制による恩恵を最大限に利用した戦い方だけど、さっきわしが出雲と京都の兵たちに伝えた小隊編成のルールにのっとって島津も小隊を組んでくれたようじゃ。

 ここらへんは前線基地にてわしの無線を聞いておったであろう吉継や鬼ジジイの配慮じゃな。


 しかもそれら島津兵はちゃっかり出雲勢力の兵のような恰好もしておる。

 黒づくめのスーツっっていえばそのまんまただのスーツ姿なんだけど、私服警官? っぽい感じじゃ。

 これ、戦線離脱して前線基地に退避した出雲の兵から衣服を借りておるな?


 うーむ、この時点ですでにいくつものアイデアが盛り込まれておるのを確認できるけど、やはりというか当然というか、島津の兵もさすがじゃな。


「うむ、頼む。では現時点で戦闘に入っておる上杉・武田、あと出雲と京都の兵も一時離脱じゃ。でも敵の包囲と臨戦態勢はそのまま維持じゃ。

 指揮権は島津義弘に移すゆえ、万が一にはそちらの指示に従え!」

「はっ!」

「了解!」


 ふーう、これにてわしの仕事は完全に終わりじゃ。

 やはり名残惜しい気もするがそれはそれ。わしも集中力マックスで戦況を分析しておったゆえ、その重責から解放されたかのようにその場に座り込んだ。

 敵を囲む包囲の輪のさらに後方。ここなら趙雲たちから見つかりにくいし、武威センサーは今もなお機能させておるので、万が一の時にはすぐに行動できるようにもしておる。


「ふーぅ、やはりあいつらの防御は堅いですねぇ」


 さらには戦線離脱を指示した頼光殿が前線基地に帰ることをせずに、いつの間にかわしの隣に立っておった。


「うむ、それゆえの持久戦。くっくっく。あれだけ暴れておったのに、頼光殿? 不満を顔出し過ぎじゃ。そんなに悔しいか?」

「えぇ、もちろん。法威を上回る技術。道威……今すぐにでも習得したい」


 まぁ、そうじゃろうな。

 その向上心こそがこの男の真骨頂。わしも何とかしてあの技術を手に入れたいとも思っておるけど――そして今の時点ではそれが無理ということも十分に分かってはいる。

 でも強くありたいと願う己の欲望は抑えきれないし、源頼光ともなればその感情はわしの何倍にもなろう。


 とはいえやはり今は我慢。

 趙雲たちのうちの誰かを生け捕りにし、ゆっくりじっくりと尋問すれば何か得られるかもしれん。

 だけどそんな余裕など、この戦場にはない。

 ついさっき似たようなことを思った気もするけど、目の前に餌を盛られたまま“待て”を命じられるわんこたちのごとく、欲望に勝たねばならんのじゃ。


 んで、そんなことはどうでもいいとして、島津の兵たちが例の演技に入ったようじゃ。


「くっ、歴史に消えた蜀の残党め!」

「あぁ? てんめぇ、今なんて言った?」

「この時代でもさっさと消えろ!」

「いや、答えろよ! よりにもよって小さな島国のお山の大将ごとき雑魚どもが、あの時代の俺らのことをなんて言ったぁ!?」


 まずは挑発。

 趙雲あたりがイラっときたっぽいけど、と思ったら他の兵がその会話に割り込んできた。


「お前らの好きにはさせねぇよ! 九州から……いや、この街から生きて出られると思うなよ!」

「そうだ! 貴様らを本州に行かせてたまるか!」

「ふっ、それはかなわん願いですわ。我々の手にかかれば本州とか九州とか、そないなこと言わずにこの国そのものを滅ぼすことも可能なのですからねぇ!」

「ほざけ、関羽! お前らごときが東に行けると思うなよ!」

「そうだ! 決してあの地には……! あっ……!」

「おいッ! 豊久! 余計なことはしゃべるなッ!」

「ん?……あの地? さぁーて、それはどこでっしゃろ?」

「くッ! そんなこと、教えてたまるか!」


 あっ、シナリオに入ったわ。

 というかあれじゃな。そのシナリオの今後について知っておる身としては、めっちゃ茶番に聞こえるわ。

 だけど島津兵たちのマイクの感度が最大になっておるし、おそらく氏直の配慮であろうけどこの無線機いきなりノイズキャンセル機能が作動し始めおった。


 なので前線の会話は敵も含めて、めっちゃいい音質でこちら側に筒抜けじゃ。

 周囲を囲む武田や上杉の兵にも聞こえているようで、何人かが武器を構えながら口元を抑えて笑いをこらえておる。

 しかしながら、もちろんそれらは趙雲たちにバレておらん。


「あぁ、そうだった。発言には気を付けないと……でも、貴様らを東には行かせない! この地にて成敗してくれる……!」

「ほう、東に向かうと何かあるんかいのう?』

「だめだ! 出雲大社に敵を引き入れるようなことを言っては……あっ」

「出雲大社……? そこに何かあるんじゃな? だそうだぞ、兄者よ? ならばこげんな場所に長ごうおっても仕方ないじゃろう?」


 いや、アドリブすっくな!

 でも、うーん。こんなもんか、戦場で敵を惑わす為の演技とは。

 そもそも命を懸けた戦いをしている真っ最中に、そんな策略が仕込まれていようなどと、気づくことなどできようもない。

 あえて言えば、わし。そしてその上を行く寺川殿。

 そう、嘘や偽りの類が大好きなわしら2人なら、たとえ今の趙雲側の立場であっても、ギリギリこの演技の違和感に気付けるじゃろう。


 でもわしも最近あのくそババァには思いっきり騙さ……いや、忘れよう。

 それで今さらだけど小太りおっさんの関羽は、かつての宮本武蔵のごとく丁寧な言葉遣いじゃ。でもそこに関西風の方言と、ねちーっとした話し方が加わっておるので、胡散臭い詐欺師のようでもある。

 対して張飛はなかなかに威厳たっぷりな大声と口調。どこの方言かわかんけど大声が非常に張飛っぽいし、若者口調の趙雲と合わせてこの2人に対しては大きな違和感はない。


 まぁ、無線から聞こえてくる会話で色々とやつらの関係性も見えてきたし、でもここで鬼ジジイの無線じゃ。


「島津のA、B、C班離脱。打ち合わせ通り、C、D、E班が入れ」

「はっ!」

「御意!」

「よし! 行くぞー、お前らぁ!」


 そしてまた似たような戦いが再開し、今度はそのC~E班の兵たちが演技を始める。


「おーのーれー! よくもこの街をォ!」

「貴様らなんぞここで倒してくれるわぁ!」

「そうだ! 決してあの地に行かせることなど……!」


「うーん、やはり気になりますわ。あの地――それはつまりさっきの兵たちが言っていた出雲大社のことと?」

「んな? なぜそのことを!?」

「くっくっく。うぬらの仲間がボロボロと口に出していたんじゃわ! 甘いのう!」

「くそッ! それならなおさらここで始末せねば!」


 おっ、今度は関羽たちがさっき持ったであろう小さな疑念を、確信に変えるように促す会話のやり取りじゃ。

 ほうほう。似たような嘘でも、メンバーを入れ替えながらそれらの発言を重ねることで――しかも発言に微妙なズレを仕込みつつ重ねることで、敵にそれらのキーワードを集めさせる。

 結果、敵はそれらのピースを合わせて1つの真実にたどり着く。


 と言った感じか。

 短いながらも、なかやるではないか。

 これならば敵は謎解きを解明した時の探偵アニメの主人公のごとく、その結論を疑わない。

 むしろ嬉々としてその分析結果を信じ込む。


 結果、やつらは“出雲大社”を目的地と定める。

 なるほどな。流石は島津じゃ。

 細かい心理的誘導のクオリティがすばらしい。


「ふむふむ。なかなかに見ごたえのある策略じゃな。いや、無線で聞いてるだけだから、見ごたえというよりは聞きごたえじゃが」

「そうですね。すごく自然に……あの敵が出雲を目指すように……これ、警察の取り調べでも使えそうですね」


 それを誘導尋問という!

 いや、実際に世のお巡りさんがその技術をどれだけ使っておるのかはわからんけども!

 そのトップたる男の発言として、非常にヤバいんじゃ!


 しかもじゃ!


「一度うちの職員に研修を受けさせてもらいたいですね。ふっふっふ。島津義弘。警察機関幹部の立場から見ても、なかなかに有益な男です」

「あっ、そういうのは心の中にしまっておいてくれ。あと取り調べは是非とも可視化と法律にのっとった手段で……」

「失礼……そうですね」


 ふーぅ、あっぶねぇ。

 いや、横から見た頼光殿の顔がめっちゃにやついてたから、絶対あとで鬼ジジイを警視庁・警察庁の講習会に呼ぶだろうけど。

 まぁ、わし取り調べられる立場の人間じゃないし、一応止めておいたし……うむ、この笑顔は気付かなかったことにしておこう。


 それはそうと、鬼ジジイから次の無線じゃ。


「よし、最後にG~I班と代われ。あともやし狐? これからは出雲まで向かうための経路を敵に示唆する。

 細かく言うと、今の時点では山口県に渡る関門橋の場所へ、だが。

 なので今のままだと包囲が邪魔だ。武田・上杉や源平の包囲陣形について、北北東に向けての部分を少し緩めてほしい」

「あい分かった」


 そしてわしは耳元の無線機のボタンを操作し、チャンネルを切り替える。


「武田と上杉、そして平家・源氏の者たちに告ぐ。

 まずはそのまま武器を構え、微動だにせず聞いて欲しい。

 これから敵を北北東へと誘導する。ゆえにその方向だけ包囲を少し緩めるけど、まず全員動くな。それと返事もいらん。

 時計は見るな。あと太陽の位置も確認するな。

 そして1つ確認じゃ。

 わしの位置がわかるじゃろ? わしの背後に飛行場の管制塔がある。

 敵3人を時計の中心、そしてわしの位置を6時の方向として、12時から2時の方角が北北東じゃ。

 今現在その位置におる兵は少し移動してもらうが、単純に移動はするな。敵に陽動がバレるからな。

 1度敵との交戦に入り、敵の攻撃から回避する感じで移動じゃ。その包囲の穴には島津が入るからそこを敵の突破点として、これから戦場を移動させるぞ」


 こんな感じかな。

 わしが単純に「北北東の包囲を緩めよ」と言っても、こやつらの多くはかつての時代に時刻と太陽の位置を照らし合わせて大体の方角を決めていた者がほとんど。まぁあの時代の時刻なんてあやふやなもんだったけどな。

 でもそのだいたいの時間感覚と太陽の位置を照らし合わせて方向を定めるのが戦場での常識だし、それが身についておる者が多い。

 なのでわしが東西南北の方向を含んだ指示を出すと、皆が一斉に太陽を見上げたり、腕時計を確認し始めてしまう可能性があったんじゃ。

 そんなん違和感たっぷりだし、趙雲たちにその動きを察知される可能性もあるから、それを防ぐための小さな配慮じゃ。


「ではこちらも作戦開始。北北東の兵は適度に敵に襲い掛かり、自然な感じで他の方角へ退避せよ」


 そして時間をおかずに包囲の一角に位置しておった兵たちが敵との距離を詰め、しかしながら趙雲たちの反撃にあって体ごとはじかれた。

 もちろんその後にできたのはぽっかりと空いた包囲陣形の穴じゃ。


「もやし狐よ。聞いていたぞ。

 くっくっく。貴様は昔からそうだったな。そういうこざかしい企てが……くっくっく」

「笑うな。これも必要じゃろう? おぬしの兵にちょっとした手助けをしただけじゃ」

「そうだな。すまん。そちらでもそういう気遣いをしてくれて、助かったぞ。でも……くくっ」


 あぁ、鬼ジジイうぜぇな。

 でもこれも誉め言葉と受け取っておこうぞ。


 そして対する敵方にもちょっとした動きじゃ。


「んで……どげんするんじゃ? ここでいつまでもこやつらを相手にしてていいのか? 趙雲と兄者?」


 いや、すっごい気になるけど張飛の方言、どこの言葉じゃ!? いろいろと混ざり過ぎじゃろ!

 ……って、そんなこと気にしてる場合じゃない!


「んーん。そうですねぇ。やはりその……出雲? でしょうかねぇ? 出雲大社は有名ですわ。んでそこに行けば何か面白いことがありそうな気もしますわな」

「あぁ、兄者。わしもそう思うとる。おそらくあっちの方角に行けば橋を渡って本州に行けると思うんじゃ。 ここでグダグダとこの雑魚どもの相手していても意味なさそうだし、そっち行ってみる方がいい気もするんじゃわ! それに……そろそろ……」

「えぇ、わいらもそろそろ体力の限界ですわ……空腹と睡眠も……。

 ここは一度引いて……でも本州に向けてこっそり移動などしてみましょうや。どのみちこの国を陥とすのなら、東京に行かねばなりまへんからなぁ」

「じゃあ決まりじゃな。趙雲? この包囲陣形を抜けるぞ?」


 ふっふっふ。島津兵の無線のマイクから聞こえてくる敵どもがいい感じで操られておる。

 このまま手勢の薄くなった北北東へ抜け、そのままの方向にまっすぐ移動すれば九州と山口県を繋ぐ大きな橋があるんじゃ。

 騙されておるとも知らず、せいぜい3人仲良くそちらへ行くがよい。


 でもさ……


「わかった。でもそれもなかなか難しそうだよな?」

「そういうことですわ、趙雲さん。せやからこの包囲を操っている指揮官……ここで一度その方を始末しておきましょうや」


 うん。関羽が物騒なことを言い、そして張飛も続いて似たようなことを言いやがったんじゃ。


「そうじゃな。あそこにいる2人……あのどちらかが間違いなくここを指揮している指揮官じゃのうて?

 それとその護衛役と言ったところじゃな? 兄者? 一応始末しておくか?」


 しかもそれに対して趙雲から余計な一言も……


「あっ、あいつは“石田三成”だ。間違いなく有名な武将だし、さっき俺が独りで戦ってた時もなかなか厄介な使い手だった」

「ほう、隣に立っているもう片方は、俺が相手をしていた黒ずくめのスーツ集団のトップだった男じゃな? あいつも結構強かったけぇ。ということは?」

「えぇ、あの2人が間違いなくこの兵たちの指揮官ですわな。すでに戦場から離れた凄腕の使い手たちもまだどこかで隠れているでしょうけど、あの2人はさっきからこそこそと無線機に話しかけているようですし……あと少し問い詰めたいこともあるんですわ……ですので……」

「じゃあ軽く戦闘不能にする感じで……“例のやつ”使っていいかいのう?」

「かまいませんわ。でも、一瞬だけにしとくんなせぇ?」

「わかっておる。では行くぞ、兄者! 趙雲は間におる邪魔な兵どもを左右にどかしとけぇや!」

「了解!」

「えぇ。ほな私がその石田三成とやらを……!」

「んじゃわしがスーツのやつをやっとるけぇ!」


 次の瞬間、まずは趙雲が動き出す。

 “飛ぶ斬撃”をここぞとばかりに放ち、わしとやつらの間に構えてた兵を左右に回避、またはそのまま重傷を負わせる。

 んでその陣形の間を関羽と張飛がすさまじいスピードで通過し、こちらに向かってきた。


「うぉ!」

「ぐッ!」


 さらには関羽の持っていた武器がわしの右上腕部を貫通、隣では頼光殿が張飛からラリアットを受ける。

 わしはそのまま武器ごと地面に押さえつけられ、隣ではものすごいラリアットを受けた頼光殿が体を回転させながら後頭部を地面に打ち付けておった。


「んな? なんて速度……!」


 これでわしは抵抗不可能。いや、一応右腕に刺さった関羽の矛を両腕でがっちりと掴み、それを全力の武威と法威にて包むことで簡単には抜けないようにはしておるが、これ以外の抵抗はマジで無理じゃ。

 あとわし同様に頼光殿も後頭部を強打した後は動くことなく地面に伏し、その胴体を張飛が足で踏みつけておる。


「ぐっ、まさかこんな力を隠しておったとは……?」

「ふっ。まぁ、瞬間的に出せるこの技はあまり多用できないんですわ。それで……あなたがあの石田三成ですかいな?」

「ぐぬぬ……ぐっ、いかにも……」

「この戦場で指揮官として……この兵たちの指揮をしておられましたよねぇ?」

「バレてしまっては仕方ない。そうじゃ。わしが指揮官じゃ」

「ふむふむ。正直に教えてくださりありがとうですわ。ほなもう1つ質問があるんですが、ええですか?」


 いや、まずさ。わし結構ピンチじゃね?

 あと、実際に関羽と会話してみて思ったのじゃが、こいつの関西弁もいろんな地方のが混ざってねぇ?

 何を隠そうわしも滋賀の生まれ。関西、つまりは近畿地方に含まれておる。

 もちろん関西弁についても多少は詳しいし、そんなわしにとってもやはりその偽りの関西人は気に入らん! 関西弁をナメるなぁ!


 ……じゃなくて!

 隣で動かなくなっておる頼光殿が心配じゃ! これ、ヤバくね!?


 でもこの状況はある意味わしらが人質になっておるようなものなので、周りの兵が動けずにおる。

 それゆえ突然訪れた関羽との会話タイムじゃ。

 でも、もう1つの質問とは?


「10数分ほど前から、この兵たちが……いえ、その兵たちの一部がやたらと多弁になりましたよねぇ?

 しかも私が少し前まで単独で戦っていた時に見た顔がちらほらとぉ……しかもご丁寧に服装まで着替えて……違和感ありまくりですわ。

 これ、なにかしらの策略ですよねぇ?」


 ぐっ、バレておる?

 ちなみにわしらがこの地に到着するまで――つまりこの関羽が単独で戦っておったときの相手は三原を中心とした島津、長宗我部の合同軍じゃ。

 関羽はその時しっかりと相手の顔を覚えつつ、今その兵が再度戦場に戻ってきておることに気付いたということじゃ。

 これ、“バレておる?”というより、完全にバレておる。

 でもわしらが何らかの計略を仕込んでおったとして、その本当の目的はまだ気づいておらんようじゃな。

 それゆえの関羽からの問い。


「どうなんでっしゃろ? 石田三成さん? 私が思うに、その出雲大社の件……実のところ、その地に意味なんて無くて、ただの誘導に過ぎないかと? なんだったら、そちらに赴くことで我々に対し大規模な罠などを仕掛けておられるんじゃないかと思うんですわ。どないですかぁ?」


 そうなるよな。あやしいよな。

 関羽的にもそこが一番重要じゃ。


 だけど、ここでわしがどう答えるか?

 それによってこの作戦の成否が決まる。決まるというか、この時点で一度失敗しかけたともいえる誘導作戦を、再度復活させることができる。


 ゆえにわしがここで答えるべきは……そうじゃな。

 んじゃ、ここは正直に本当のこと言っておくか。


「くっ、よくぞ見破った。ならば冥土の土産に教えてやろうぞ。あの地に……出雲大社に大した意味などない。そこまでおぬしらに無駄な旅をさせ、疲れ切ったところで葬る作戦じゃ」

「ふっふっふ。そうですか。それも正直でよろしいわ。でもいいのですかいな? 指揮官たるあなたがそないな事をべらべらとしゃべって」

「だから冥土の土産と言ったであろう? まぁ、その冥土に行くのはどちらか。わしか、おぬしらか。

 それに出雲への誘導などただのBプランじゃ。それがだめならAプランに戻せばいいだけじゃ。

 このままこの地でおぬしらの言う“気”を削り続け、最後にとどめを刺す。そっちの方が簡単じゃ。

 くっくっく。この国の……侍どもをナメるなよッ!」


 んで、わしのセリフがかっこよく決まったところで、期待しておった人物の期待しておった発言じゃ。


「関羽の兄貴! そいつの言葉に騙されるな! そいつは嘘をつく! 平気で騙したりもする! それがそいつの戦い方だ!

 石田三成は史実だと正直で真面目なだと伝えられていたけど、そんなのは嘘だ!」


 うむ。期待しておったのだけど、それを実際に言われるとちょっと凹むな。


 じゃなくて。


 さっきわしは趙雲とのサシの勝負の時に、ちょいちょい嘘や騙しを行使しながら戦っておった。

 それゆえ、今わしはあえて本当のことを言った。趙雲がそれを『嘘』と決めつけるのを見越してな。

 くっくっく。

 もちろんわしの小細工はそれだけでは終わらん。


「くっ! このガキめ! 余計なことを……!」


 嘘がバレたという設定で、わしは慌てふためきながら、じたばたとあがく。

 右腕に刺さった矛を必死に抜こうとするけど、関羽がそれを強く押し付けるために抜けない。という設定じゃ。

 もちろんさっきまでは胴体や頭まで串刺しにされぬよう、むしろわしがその矛を抜けないようにしておいたんだけどさ。


 んでじたばたとあがきながら、武威センサーにもしっかりと意識を向ける。

 ついでに隣に倒れる頼光殿の意識がないことも確認し……


「石田三成さん? そんなに無様にもがいてどないする気ですかい? そもそもあなた、左肩に怪我をしていましたよねぇ? そして今は右腕を使えない。もう覚悟なさってくださいな。

 それに……あなたのさっきの発言が嘘だということは……つまり、やはり我々が出雲に行くのはマズいと? そういうことになりますわな。

 まったく。こんな状況でも冷静に嘘をつこうとするとは……むしろお見事と」


 グダグダとしゃべりながらも、関羽が無理やり矛を抜き、その切っ先をわしの顔面近くへと。


「でもあなたもそこの男と同様にもう終わりですわ。覚悟してくださいな」

「ぐっ……」


 でもわしとてただで死ぬつもりはない。

 というかここで死ぬつもりなど毛頭ない。


 関羽がわしにとどめを刺そうとした瞬間、わしは法威による治療技術で若干回復しておった左腕で拳銃を取り出し、そこに武威を流し込む。

 それを関羽の喉元と張飛の脇の下あたりにめがけて2発発射した。


「ぐッ!」

「んなッ!?」


 相手は一瞬だけ(なんだ……ただの拳銃か?)みたいな顔をしたけど、その威力を間近で受けて悶絶じゃ。

 狙ったのはおそらく武威の鎧による防御が薄いであろう――というかこの2人がめっちゃ近くに来て、しかもじっとしたままわしと会話しておったので、その会話の間にもわしはこっそり武威センサーにてそれを詳細に調査し、そして明らかに武威の鎧による防御が薄くなっている部分を拳銃で狙ったんだけどさ。

 まさに効果あり、じゃ。


 予想外の痛みに苦しむ関羽と張飛。そして素早く動かせないはずの左腕でまた拳銃を操ったことに驚いておる趙雲が固まっておる隙に、わしは動く。

 スタッドレス武威を駆使して関羽から距離を取り、ついでに隣で倒れておった頼光殿の体を回収してさらに後方へと移動した。


「吉継!? 聞こえるか? わしと頼光殿は撤退する。これからは吉継が現場で指揮をしてくれ! わしらと入れ替わる感じで!」

「うむ。わかった。頼光殿は無事なのだな?」

「あぁ、今は意識を失って……だけど痛みでうーうー唸っておるので、多分大丈夫じゃ! さっきのラリアットを食らったときに、わしの武威の羽を頼光殿の後頭部と地面の間に入れてクッション代わりにしたからな!」

「よし! では頼光殿を抱えて、早くこっちに戻ってこい! 誘導作戦は引き続き義弘殿がここで! わしはこれからそっちに行く! では!」

「あぁ、頼む!」


 その後、わしが空港の敷地から脱出する頃にはすでに味方が包囲の陣を再構成し、それを確認したわしは頼光殿を抱えながら前線基地へと戻ってきた。


 んで、前線基地で力なく崩れ落ちるわしに救護班的な部隊が近寄ってきて、早速両腕の治療を始めてくれた。

 頼光殿もすぐに意識を取り戻し「仕返しをしたい」とか言い始めたので、なんというか、こう――麻酔みたいな、睡眠薬みたいな――そういう薬を直接静脈に注射する形でさっさと眠らせてくれと、綱殿にこっそりお願いしておく。



 だけどさ。それら治療の途中、わしらの前に一瞬だけ姿を現した鬼ジジイのセリフな。


「もやし狐よ。貴様はほんっとーに腹黒いな」


 なんでやねん!



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