血のように真っ赤な鳥居の上を烏兎翔が飛び立った。そっと、高い位置に迅を下すと、物々しい光景に目を疑った。参拝者が拝礼する拝殿が焦熱地獄のように燃え盛っていた。誰かが放火していたのであろう。自然発火ではありえないくらいの規模だ。遠くで消防車のサイレンが聞こえる。パチパチと燃える音が大きくなっていた。
「通報した人がいるんだよな」
「この炎は大元を消さないと霧がないぞ」
「そ、それはどういうことだよ」
白狐兎は、おおよその犯人を把握していたようだ。つけていた狐の面を深くかぶって、煙を吸わないように配慮した。何も持っていなかった迅は、腕で鼻と口をふさいだ。烏兎翔は突然、激しく鳴いた。強い妖力がこちらに近づいてくるのがわかった。体中にどんと響いてくる。
「来るぞ」
「……!?」
ごうごうと燃え盛る拝殿の奥の方から、大きな片輪のみの牛車が炎を包み込んで車輪の中央に顔だけ乗せて、目をギラギラさせていた。髪型は落ち武者のようになっていて、その顔は凄まじく恐ろしい近寄りがたいものだった。人間の姿を見つけると、よだれを垂らして近づいてくる。鳥肌がとまらない。
この妖怪の名前は片輪車。迅と白狐兎の真ん中を通り抜けて、挑発した。
「美味しそうなやつらだなぁ。ぬけぬけと我の餌食になりに来たか!!」
「……くっ、気持ち悪い奴め」
「構えろ」
迅が悠長にしている間に一目散に車輪が炎を巻き込んでこちらに近づいてきた。刃物に鋭い車輪が体を真っ二つにした。想像以上に体中の血液が飛び出して、一瞬のうちに地面は血の絨毯に化した。声を発することなく、迅は、体は半分になって倒れていく。景色はスローモーションになる。ここで死ぬのかと迅の霊体が肉体から抜けようとした。こんなところで死にたくない。まだやりきってない。誰かに憑依してでも長生きしてやろうかと考えもあった。
すると、パチンと指を鳴らす音がした。炎に包まれた神社で片輪車と戦っていたはず。むしろ、これから戦おうとしていた矢先だった。白狐兎が「構えろ」と言った瞬間にまやかしの術を使って、異次元空間に飛ばしていた。まったく同じ景色の現実とは異なる世界。夢に近い場所。肉体も霊体も自由に操ることができる。さっきの真っ二つに切られた迅は、本当に死んだわけではない。白狐兎の指パッチンで、元の迅の姿に戻っていた。意識が戻った迅は、自分の体を確かめた。確かに体が割れた感覚はある。
「俺、どこ。ここ、どこよ。いや、生きてる?!」
「落ち着け、何回もやられるな。俺も何回も術は使いたくない」
「……は?」
「いいから、倒せ」
白狐兎は、指をパチンとまた鳴らして、分身の術を使った。5体の白狐兎が、片輪
車の目をくらました。何度も起き上がりこぼしのように倒すが、すぐに再生している。
「ちくしょー。何回もしつこいやつらめーーー!!」
片輪車はイライラしながら、分身の術で増えた白狐兎を倒していくが、すぐに復活している。その様子を見て、迅は、面白さを感じる。さっきまで自分が倒されたとは思えなかった。
「今度は俺の番だな」
迅は、地面に魔法陣を青白く光らせた。深呼吸して、顔の目の前に2本の指でつかんだ札を差し出した。