夜空の星がちらりと見え隠れすると、だんだんと大きな灰色の雲に覆われて、おどろおどろしい雷雲が集まりだした。窓の外を見ていた九十九部長は急に寒気がして、すぐに窓を閉めた。
「土御門は? 白狐兎はどこ行ったの?!」
「……え、まだ戻ってきてないですよ。確か中目黒あたりの神社じゃなかったかなと思うんですが」
「中目黒? 車で20分くらいかかるじゃない。あいつら来ないとこれは危険を及ぼすわ。2人とも、出るわよ」
大津智司がパソコンに書かれた迅と白狐兎の行動予定表を確認した。いつの間にか2人のタイムキーパーを智司が担っていた。鏡を見ながら、つけまつげの微調整をしていた大春日舞子は私は関係ないというような顔をした。
九十九部長は慌てた様子でデスクの椅子にかけていたジャケットを羽織った。
「え? 私もですか?」
大春日舞子は目を丸くする。
「命が惜しければ出た方がいいわよ」
「……行きますよ、それは。パソコンとスマホの仕事はやらなくてもいいんですよね」
「それは、持ち出して、継続して続けてちょうだい。行くわよ」
「マジっすか。今、準備します」
「ほら、だんだん暗くなってきた。既に夜だっていうのにもっと暗いってどういうこと。背筋が寒い感じあるし、やばいよ」
横断歩道が何本もある交差点では、一人の怪しい男性が歩行者の若い女性に近づいて声をかけていた。
「わしとお茶せんか?」
頭の大きく身長が小さめのぬらりひょんが、黒い着物を羽織って、歩いていた。胸の大きい女性ばかりに目をつけて、声をかけている。デートをしていたカップルは気持ち悪そうにして立ち去っていく。歩道には長く赤い舌を伸ばした、三つ目の小僧が緑の着物を羽織って静かに歩いている。特に何かするわけではない。
路上販売のアクセサリーショップの横でシャカシャカと音がするのは、小豆洗いが黙々と小豆を洗っていた。猿の顔と狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇の
ちょうどその上を烏兎翔の足をつかんで飛んでいた白狐兎と、建物をジャンプ台かわりに飛んできていた迅の姿があった。
「何か、街中が物々しいだけど、今から何が始まるんだ?」
「…………これって!?」
仮面を外した白狐兎は、妖怪がうじゃうじゃといる商店街の様子を見て、ひらめいた。
「百鬼夜行じゃねーの。これって……」
「は? 妖怪たちのハロウィンパーティじゃねぇよなぁ?! 10月とっくに終わってるぞ」
「
白狐兎は血相を変えて、どんどん湧き出る妖怪たちの様子をうかがっていた。
「これ、全部処理するわけ?」
「……無理だろ」
雷雲がさらに深くなると、今度は土砂降りの雨が降ってくる。2人は、どうすればいいかわからないただただ高いビルの屋上を立ち尽くすだけだった。