その日、私が昼休みに食事の後、排尿しにトイレに駆け込んだら。
トイレの個室の1つが使用中で。
……ウ〇コじゃありませんように。
そう思いながら私も個室に入ったんだ。
私はおちっこだったんだけど。
隣はウ〇コかもしれないし。
食事の後に、ウンコの音やら臭いは嗅ぎたくない。
別に私、異常なこと言って無いよね?
祈りながら私はパンツを下ろし、便器に座って用を足した。
ジョロロロロロ……
人体と言うものは何かを排出するときすべからく気持ちいいもので。
私は排尿に涙ぐむほどの快感を感じていた。
3リットルほど出し切って
「ふぅ」
パンツを上げて、個室を出て行こうとしたら。
隣の子も同時に出て来たんだよ。
それは……
藤上さんだった。
……えっと?
「……藤上さん?」
思わず私はそう洩らす。
確か今、隣からは排泄関係の音は全くしなかったんだよね。
ということは、藤上さんは個室に籠りながら何もしていなかったことになる。
私の視線に、藤上さんは目を逸らした。
そこに私は何か引っかかったんだ。
なので
「……お昼休み教室に居なかったけど、ひょっとしてここにずっといたの?」
そんなことを訊いてしまったんだ。
すると
……藤上さんは突如、泣き出したんだ。
私は藤上さんの涙に動揺し
「ご、ゴメン! 私何か悪いことを藤上さんに言ったのかな?」
そう訊ねると、藤上さんは顔を左右に振って
「違うの」
否定して。
こう言ったんだ。
「……私、高校卒業したら石鹸の国に就職しないといけないから、絶対に太っちゃいけないの」
だから昼ご飯を食べちゃいけないから、トイレに隠れていた。
らしい……
石鹸の国……一見外国のようだけど、実は違う。
男の人がお風呂に入りに来る、個室付きのお風呂屋さんのことだ……
浪費癖のある女の人が、最終的に選びがちな就職先……!
藤上さん、高校出たらそこに就職するの?
中学生で、そこまで決めちゃったの?
まさかそのトシでホストに狂ってしまったとか?
「何で……?」
思わず訊いてしまった。
理由を。
あまりにも理解不能で理不尽だったから。
そしたら言ってくれたよ。
ひょっとしたら藤上さん、苦しくて苦しくて。
誰かに言いたかったのかもしれない。
そして全部訊いた瞬間
「何よそれメチャクチャじゃない!」
私は憤慨した。
あまりに大声だったので周囲の空気がビリビリ震えた。
「……ありがとう閻魔さん。話を聞いてくれて」
そんな私の様子に、藤上さんはそんな風にお礼を言う。
藤上さん、こんなに良い子なのに……
胸が締め付けられる思いだった。
私はこれ以上この場にいることが苦しくなってきたのでトイレから出て行こうとしたんだけど。
その背中に
「……閻魔さん。トイレは流した方がいいよ」
……私は無言で引き返し、トイレのレバーを捻って水を流して、今度こそ出て行った。