「三宅君は、夏音のことが、好きだったんだね」
どきん、と鳴ったのは僕自身の心臓。三宅君の表情がみるみるうちに強張ってゆき、先生にいたずらがバレてしまって、お説教されるのを覚悟している小学生みたいに肩をすくめている。
「水瀬、ごめんな」
彼の言う「ごめん」は、一体誰に向けられたものなんだろうか。少なくとも、今彼の目の前にいる僕ではない。1年前の「僕」のはずだ。
「やっぱりそうだったんだね」
「……ああ」
迷宮入りするはずだった彼の“罪”。1年経って明かされてしまった彼の本当の気持ち。僕は、そのどれも責める気にはなれなかった。
「もう、いいんだ。そういうの、特別なことじゃないだろう? 友達の恋人を好きになってしまう例なんて、きっとこの世にごまんとある」
三宅君の夏音への気持ちが特別だったんじゃない。それに、1年も前のことを僕はこれ以上蒸し返したくない。
カラオケ画面のCMの音声が、また徐々に耳に流れ込んでくる。彼女がいた1年前の僕らの時間が、今この瞬間まで早送り再生されて、大学1年生の現実に引き戻された。
「……水瀬はあれから彼女に会ったか?」
「いいや、会ってない。住んでる場所も違うし、もう会わないと思う」
「もう会わないって。そんなことないだろう? 学年の同窓会だってあるだろうし」
「そういうの、きっと彼女は来ない」
「そうか」
三宅君はなぜかしゅんとして残念そうにそう呟いた。この態度が、彼なりの罪滅ぼしだったのかもしれない。
これ以上湿っぽい雰囲気になるのを恐れた僕は、カラオケを再開しようとテーブルの上に無造作に置いてあったマイクを手に取って、「月間ランキング」の一番上にあった曲を入れた。
「俺さ、今はちゃんと、水瀬たちが前みたいに仲の良い二人に戻ってくれるように願ってるんだ」
イントロ部分が流れ出し、僕はマイクを握る手にぐっと力を入れる。
「本当に、そう思ってるんだ」