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第103話 チュートリアル:上賀澄VS花房

《さあ! Bブロック第一回戦ッ! クゥ^~!!》


 地鳴りの様な大歓声に加え、J・カビラの興奮じみた実況。


《Aブロック一回戦、二回戦! スキルが迸る激闘が繰り広げられましたが、待ってましたと大声援! 少々私のマイクを調整しなければ音声が乱れる程です!!》


 雄々しい声。黄色い声。奇声まで。とりあえず盛り上げようと画策するの変なファンもいる始末。


「次だよね! 次だよね!! キャーーー!!」


 クラスメイトの女子と一緒に盛り上がる生徒。


「押忍ッ!」


 ――押忍ッッ!!


 その近くで時代錯誤の学ラン赤ハチマキの集団も。


「月野団員に続き、我らのモエちゃんの出番であるッ! 一層に気合いを入れて応援するぞッ! 押忍ッ!!」


 ――押忍ッ!!


 胸を晴天に向けて背中を反る団長。無駄にイケボボイスの気合いの入った檄に、団員どころかその周りの観客すら悪ノリに付き合う。非常に奇異な場所と化していた。


 そして時来たる。


 暗くなる会場。


 バチバチと煩く響く青い電撃エフェクトが会場全体に広がり、西の入場口に集約。


《選手ッ入場ッう!!》


 ――ワアアアアアアアアアアア!!


 ドンッと衝撃を感じる程の歓声。


 水蒸気の奥からそいつは現れた。


 身長183センチ。


「きたあああああああああキャアアアアア――」


 体重183キロ。


「押忍ッ!!」


「「「押忍ッ!!!!!」」」


 攻略者学園トーナメントにて――


「パパ! 来たわよ来たわ!!」


「うおおおおおお!! 息子よおおおお!!」


 知名度ナンバーワン。


 中央モニター大画面。テレビの名前欄にこう載っている。


《二年Bクラス!! 花房 萌えええええええ!!!!》


 J・カビラも思わず叫び。


《ッハハ、ついに来たか!》


 西田メンバーはほくそ笑み。


「萌くん……!」


 優星は拳を握る。


:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

:勇次郎!!

:勇次郎キタ!

:キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

:バーサーカー確定

:出番や

:お前のバトルを見に来た

:草

:盛り上がってて草

:お前の事が好きだったんだよ!

:キター

:―――――


 と言ったSNSで放送してるコメント欄が追えないほど荒ぶる。


 勝者を祝う歓声以上の大声援。その声を一身に浴びる萌はと言うと。


「……これがドウェイン・ジョンソンとジョン・シナが見てる光景かぁ」


 大画面とテレビに映し出されるドアップな萌。驚く表情は計らずも、口を半開きにしたアホ面。

 子役時代のプロフィール画像を今の画像に交換してくれと、某有名タレントが愚痴るのと同じく、後に検索結果の画像で真っ先にこのアホ面が出るのを萌はまだ知らない。


「アイヤーアッアッアッ――」


「ルーラーの顔じゃねえなこりゃ……」


 仙人は爆笑し、ナイスミドルは呆れた声。酒を飲みながら、萌の家で仲良く鑑賞する二人。


 青から赤い雷撃に変わり、次は東の入場口に収束。


 蒸気の奥から歩いて来たのは、黒装束の影。


《来ました! 三年Cクラス! 上賀澄ぃ! 明弘おおお!!》


 これまた大きな歓声が響き、音も無く歩く上賀澄は無表情だった。


 そして対峙する二人。


 黒い瞳が一点を見つめる上賀澄。口を半開きにした萌。その様子をレフェリー獅童が窺い、同時にバリアが正常に機能しているか目視。


「ふむ。問題ないな」


 獅童は腕時計を確認。


「よろしくお願いします、先輩」


「こちらこそよろしく……」


 よくダンジョンに潜っている三年生は自前の装備を持っていて、こうして持参してくる。萌は上賀澄の格好を見て、彼がどういった戦い方をするのか安直にだが予想できた。


「色合いがオレンジだったら忍ばないでおなじみのNA○UTOなんですけどねぇ~」


「流石にダンジョンで悪目立ちするのは良くないからな。とりあえず、後腐れが無いバトルにしよう」


「ハイ!」


 お互いに握手。


 それを見届けた獅童は指定の位置に向かえと指示。


《間違いなく本大会のパワーキャラな花房ッ! そして忍法を駆使しテクニカルに舞える上賀澄ッ! 西田メンバーはどう見ますか?》


《映像とか人の又聞きで二人とも直接見た訳じゃないですが、スキル・忍法だけでなく惜しげも無く消耗品を使う戦術、そして体術と、上賀澄くんは豊富な攻め方に定評がありますね》


 テレビやスマホのスピーカーに西田の声が響く。


《花房くんは言わずもがなですね。圧倒的な身体能力に加え、スキル練度の高いオーラによる戦闘技術……。力の花房と柔の上賀澄、と言ったところでしょうか》


《クゥ^~~~最高ですね!》


 アホ面でオーラ剣を生成する萌。


 息を深く吸い腰に装備した小太刀に手をかける上賀澄。


 会場が大いに盛り上がる中、ついにその時が来る。


《柔よく剛を制すのかッ!? 剛よく柔を断つのかッ!? 今その時が――》


「はじめえええおおんん~~^~!!!!」


《開幕ううううううう!!》


 ――ワアアアーーーー


 先に動いたのは黒装束。


「ッシ」


 振り払った手から黒色が投擲。


 それは回転し三重に折り重なった手裏剣スリケン


 風を切るスリケンが萌の顔面を捉えたが――


「……」


 何事もなかった様に顔を傾けてスリケンを避ける。


《挨拶代わりの手裏剣ッ!! 避けた!!》


「火遁・火球の術!! ッフッ!!」


 スリケンを投げ際に回り込む様にダッシュした上賀澄。走りながらスキルを呼称し輪っかを作った指を吹き、その輪から二個、三個、四個と火の玉が現れ萌を襲う。


「よっと」


 しかしスリケン同様に物怖じしない萌は巧みにオーラ剣を振るい火球を露と消す。


 火の粉が萌の頬のバリアを撫でるが、ダメージに加算されない。


《花房くんは冷静ですねぇ。伊達に修羅場を潜っていませんねー》


《果敢に攻める上賀澄!》


 先ほどのAブロック二回戦と違い激しく激突する試合。レフェリーの獅童は二人から一定の距離を保ちながら、やはり激しいのが良いと内心ほくそ笑んだ。


(やっぱり小手調べ程度じゃキミにダメージを負わせられないか……! じゃあこれはどうかな!)


 距離を詰めてきた上賀澄が突如後方に大きくジャンプ。


「忍法・身分身しんぶんしん!!」


 上賀澄の体から破裂したように滲み出た文字通りの分身。それが複数体。


《影分身だああああああ!!》


 J・カビラも両手の人差し指と中指を交差させ思わず叫んだ。


《カビラさんそれは怒られるから解いた方がいいですよ》


 西田。冷静。


「「「「「行くぞッ!!」」」」」」


「多ッ!?」


 上賀澄ズ。一斉に駆ける。


「これが戦隊物の怪人の気持ちか!?」


 歓声にかき消される萌の悲鳴。


 真っ先に突っ込んできた一人目は拳を握り接近。まさかの体術。


「くらえ!」


「ッ」


 右手ストレート。


 避ける萌。


 見え透いた攻撃に当たるほど萌は弱くない。


「オラ!」


 ガラ空きの背中にオーラ剣を握った拳で裏拳。


 分身は揺らぐように消えた。


「ほらほら!」


 二体目突貫。


 小太刀を抜き身にし襲い掛かる。


 空かさず応戦しようと態勢を変えた萌。


「ッつ!?」


 足裏に小さな痛み。


 目だけ動かすと、足元には小さな撒菱まきびしがズラリ。


 一体目の上賀澄の右ストレート。拳菱を握りこんでいて置き土産としてばら撒いた。


 気を取たれた一瞬を突き、肩のバリアに一太刀浴びせた分身が露と消える。


「――」


 大きくジャンプし立ち位置を変えた萌。


 直感的に右を見ると、上賀澄の一体が攻撃体制に入っていた。


「火遁・猛火の術!!」


「マジかよッ」


 大気を焦がす吹き荒れる炎。


 萌を覆い尽くさんとする猛火だが、瞬時に投げたオーラ剣が猛火を二分にし、そのまま上賀澄に突き刺さる。


 直撃を免れ猛火のダメージを抑えたが、突き刺さった上賀澄はやはり分身だった。


 次に目が捉えたのは急落下する上賀澄。


 その手には小太刀が突き立てる様に握られ、今まさに脳天を突き刺さんとする。


《四人目攻撃いいいいいい!!》


 興奮するカビラ。


 だが萌は冷静でジャストミート。落下する上賀澄の腹部に回し蹴りのカウンターがヒット。


「――ぐは」


 嗚咽を覚え揺らぐ様に消える分身。


 態勢を崩しながらも手ごたえを感じなかった萌は、そのまま正面の上賀澄を見た。


 ――本物


 スキルによるスリケンのチャージ。それは何倍もスリケンが大きくなり、水の飛沫が飛び散っていた。


「もらった!!」


 放たれる風を切る勢いの特大のスリケン。


 誰もがそれを受けると確信する中。


「「萌えええええええええええ!!!!」」


 親友と彼女は声を大にして叫んだ。


(獲った――)


 確信した上賀澄は驚く事になる。


「――――」


 身体を反る様に背中から倒れ込む萌。背中が地面に着く直前、鼻先ギリギリのところでスリケンが通過。脚の力だけで起き上がった萌。


「やったああああ!!」


「押忍ッ!! 押忍ッ!!!」


 歓声が沸く中、入場口の手前で一際喜ぶ人が一人。


「やりやがったアイツ!! ッハハ!!」


 二年Bクラス担当教師。阿久津 健。


 彼は知っている。


 この避け方から、萌の快進撃が始まるのを。

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