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第111話 チュートリアル:魔法の筒

 巨大魔法陣から枝分かれした眩い白色の光線が、大竜巻のサイクロンと衝突した。


 ガリガリと嵐が光線を削る音が響く。


《すべてを飲み込もうとしたサイクロンにビームが炸裂ううううううううう!!》


 少し太いビームがバチバチと細かく弾けさせるのは、同じく炎を弾かせるブレイズ・キャノンの連なる攻撃。


 小規模の爆発音が絶え間なく饗宴。


《火炎弾と極太ビームの拮抗勝負ッ!!》


 アルテミット・スレイズは魔法陣から絶え間なく生成される光の矢。ガトリングの様なブレイズ・キャノンの連射は無いが、初速は不規則に動いてから真っ直ぐターゲットを狙う。

 しかし東を狙うアルテミット・スレイズは、枝分かれしたビームが丁寧に丁寧に撃墜。負けじとスレイズもビームを圧す。


 それはスレイズが細かなミサイルと化した様に見えるオーディエンス。


《光の矢が光の光線とぶつかり合うううううううう!!》


 二つのサイクロン。


 四つのアルテミット・スレイズ。


 四つのブレイズ・キャノン。


 それらをまとめて相手取る巨大な魔法陣――ホーリージャッジメント。


 ガリガリガ■◆□◆――――


「「「――ッッッ~~~!?!?!?」」」


 竜巻とビームが削り合う音を皮切りにマイクはすべてを拾おうとし、ヘッドホンを装着した音声監督を含むスタッフの鼓膜を傷つける程の爆音に成長。


 それはJ・カビラの勢いのある実況にも影響し、会場にはカビラの声は響かず、辛うじてテレビへの実況提供が流れた。


 だがそれもつらからく。テレビに映される映像は西サイドから始まり東サイド、北、南サイド、俯瞰視点から解説席後ろと順繰りに場面が変わった。


 しかしと映し出されるのはエフェクトバチバチのごった返した魔法の応戦。


 風が荒れ、炎が巻き、双方の光の欠片が空に舞い散る。


「ッスッゲエエエ!!」


「コレが見たかったんだよ!!」


「負けるな二人ともおおおおおお!!」


 益々盛り上がるオーディエンス。ドンパチが好きな人は手に汗握る光景。


《クゥ^~~!!》


 カビラも思わず首を捻ってクゥ^~。


(やっぱ魔法って凄いんだなぁ)


 西田メンバーは解説を一時期忘れ、自分ならどう動くのかと脳内シミュレーション。


「……フ、……フ」


 混沌とした中にいるレフェリーの獅童は、二人の一挙動一投足を見逃さんとし、自分に危害が及ぶ余波だけを手で掃う。


 そして同じく混沌の中にいる二人――この魔法合戦を生んだ両名は、必死に魔力を陣に回していた。


 ――訳も無かった。


「これで!!」


 巨大魔法陣の下端から細いビームが放たれる。


「♰その程度!!♰」


 ダーク=ノワールは魔法マジック発動エフェクト


 ダーク=ノワールが握った剣は光で形成されており、同じく光のビームを斬って相殺した。


「♰――魔法剣ソードオブライト♰」


「ッ!!」


 思わず下唇を噛む東。


(ま、魔法使いが覚える優秀な接近戦魔法……ソードオブライト!! 光特化の私ですらまだ会得してないスキル……)


 悔しいと内心奮起の炎を灯す東。そう思うのも無理はないことだった。


(火炎特化の魔法使いなら炎が優秀で、水特化なら水が優秀。光特化の私なら光が得意なように、尖った属性魔法が得意な魔法使いは優秀だと攻略者には一般的な常識……)


 これ見よがしに同じく光のビームを放つ東だったが、これも同様にソードオブライトにより攻撃は通らない。


(それなのに、あらゆる属性魔法を自在に操る戸島先輩は何なの……?)


 他属性を自在に操る戸島の存在は、彼が着ている独特な服装と共にあまりにも奇異。


 各属性に特化した魔法使いが一般的な世界で、同時展開できる魔法に加え、魔法の多様性を生かせる戸島の才能は、彼自身が思っている以上に宝石の原石だった。


 だがしかし、酔いに酔える承認欲求が強いのにも関わらず、中二病気質な性格が災いし、"自分が如何にダーク=ノワールとして酔えるか"でしか自身の欲求を見たせないでいた。


「♰フフフ。魔法は魔法同士で語っている……。然り! 我々も存分に語り合おうぞ!!♰」


「ッ!!」


 魔法剣ソードオブライトを引っ提げ東に駆け寄る戸島。


 額に汗を滲ませる彼女は、腰に提げていたショートソードを引き抜き構えた。


(ッム)


 ショートソードを構えたか細い彼女の姿は非常に弱弱しく戸島の目に映る。


(魔法ではない実体剣。魔法は恐ろしいがそれでも女子高生という事か……)


 せめぎ合う魔法の中を駆けながらそう思考したダーク=ノワール。


 ――手加減はしない。


 誰が相手だろう一切の手は抜かない。それが彼がもつ美学だ。


 そして接近。


「――」


 ショートソードを構える東は素人が見ても隙だらけ。


「♰もらったッ!!♰」


 東の肩目掛けて剣を突き立てたダーク=ノワール。


 ――――ブンッ!


「ッ!?」


 意識外からの突然の強打。打撃の勢いを殺しきれない戸島は地面に膝を着き減速した。


 ソードオブライトを振るっていた右腕にバリアのヒビを確認する戸島。次に目を向けたのは東 美玖の側を浮遊する謎の光だった。


「♰……近接戦は苦手だと思ったが、その光源が貴様を守護するのか♰」


「わ、私も足踏みしていられないんです!!」


「♰だからと言ってッ!!♰」


「ッくぅ!!」


 斬り掛かったソードオブライトに浮遊した光源が盾になり東を守った。


「♰近接戦が得意とはならんだろ!!♰」


「ッッ!!」


 光源がなんのそのと猛攻するダーク=ノワール。幾度と東に斬り掛かるがその度に光源が阻む形となる。


「はあああああッ!!」


「♰甘い!!♰」


 光源に守られてるだけじゃないんだと、宙に額の汗を飛ばしながらも東は不慣れながら斬り掛かる。だがそこは冷静のダーク=ノワール。ソードオブライトをもう一本生成し、両手の光の剣で相手した。


「はあああああああああ!!」


 ショートソードを火花が散る。


「♰こんなものかッ!!♰」


 光の欠片が舞う。


 舞うのは欠片だけではない。


 サイクロン、ブレイズ・キャノン、アルテミット・スレイズ、そしてホリージャッジメント。

 それらの魔法も魔力の欠片と成って、二人が接近しあう今でもしのぎを削っている。


 そしてその舞っている欠片を一身に受ける二人のバリアは徐々にダメージを受け共倒れ。このままだとバリアが砕けるのは時間の問題だった。


「「はあああああ!!」」


 辛うじて拮抗しているこの場面に汗の一滴がしたたる。


「ッはぁ! はぁ! ック!」


 元々魔法陣を複数展開するのは東の苦手な部類。それを無理して大出力の大魔法陣と未だ不慣れな光源を操っている。

 したがい、東の無理が現れるのは当然だった。


「♰フハハ! どうやら息が上がってきたようだな!!♰」


「うっさいバカ!!」


「バカぁ!?」


 突然の暴言にたじろする戸島。普段大人しい東も余裕がなくなってきた証拠だった。


(――後は無い……!)


 ここで東 美玖。仕掛ける。


「ライトッ!!」


「ッ――――!?」


 接近戦最中の強烈な光。


 眩しすぎて一瞬動きを止めてしまったダーク=ノワール。


 その隙に跳躍し距離をとった東は、暴言とライトの二段構えが成功したと内心ほくそ笑み、額の汗が一層滲み出る程目を瞑って叫ぶ。


「――光よ聖なる裁きを敵に下せ!!」


 視界が戻ったダーク=ノワールは自然と上を見た。


 光が舞い散る空の彼方に、魔法陣が出現していた。


 そして――


「――ホーリージャッジメント!!!!」


 下る聖なる光。


 色が消え。


 音も消え。


 暗黒を漆黒に染めるダーク=ノワールも光に飲まれ、消えた。



 床に水滴が落ちる。


 しだいに世界は色を取り戻し、歓声で音を憶えた。そして覚える。


 すべての魔法が消え去ったと。


「はあッはあッはあ――」


 今だせる全力を出した。手のひらを付いて息継ぎ。言う事を聞かない脚でもう立ち上がれない。


 なのに。


「フィナーレだ……」


 東に影を落とす彼は何故健在なのか。


「俺……♰我に奥の手を使わせたのは流石だと言っておこう♰」


「……ハハ。私、先輩に勝てるようになりますかね……」


「♰知らん。……精々、我の想像を上回る事だな♰」


 装飾された赤紫の筒が東の真上に鎮座していた。


 そして――


「♰マジック・シリンダー……♰」


 筒から光が溢れ出し、満足そうな東は光に飲まれ、バリアと共にこの場を後にした。

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