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第131話 チュートリアル:君は薔薇より――

 新年のあいさつを親、友達、恋人、知人らを済ませ、初詣も瀬那と行き、ひと段落ついて家でゴロゴロしてた時だった。


≫最近のクソガキはマジで金銭感覚狂ってる。


 家でぬくぬくリャンリャン特性の中国のお菓子である麻花を食べていると、突然親友の大吾かたメッセージが来た。


「なんだよ藪から棒に」


≪お前もクソガキだろうが


≫親戚のちびっこの話だ!


 確かに大吾の親戚は多いと聞いていた。俺みたいに親戚と疎遠になっている身としては、大吾の愚痴を聞くことぐらいしかできない。まぁ共感は側だけなのだけど。


≪お年玉か。俺にもくれよ


≫死ね


 ひどい。


≫バイトしてちょこちょこ溜めた金をちびっ子に渡すとさ、こう言って来たんだよ!「えー少なくない?」って! 


≪生意気だな


≫そこまでは許せるうん。でもさ、その金でゲームに課金して! ガチャで外れたらこう言ってきたんだ! 「ありがとう大吾兄ちゃん。おかげで外れました」


≪うわぁ


≫渡した金をどう使おうが勝手だが、結果が気に入らなかったら悪態かよ!! 叔母さんたちの教育どうなってんだよクソガキが!!


「麻花美味い」カリカリ


 最近の子って感じだなぁ。笑顔だけど内心ブチ切れるの我慢してる大吾が想像できる。


 もし俺が大吾の立場だったらどうするだろうか……。来年あげないってキッパリ言うかも。それか叔母さんにチクるかだな。


「大哥、そろそろ時間じゃなかイ☆」


「お、そうだな」


 場所は変わって白の世界――ホワイト・ディビジョン。


「――って事で学園島の繁華街に構える事になった。意気って目立つよりかは良いだろう?」


「我は異論はない。他の者はどうだろうか」


「別になんでもいいがよ、キンピカが酒飲みたいだけだろうが!!」


「そこは信用しろよ~」


「で、でも宰相が切り盛りするなら、ぼ、僕は賛成かな……」


 点の様な赤い眼が細くなり笑顔だと分かるエルドラド。酒飲みの報告に白鎧は首を縦に振る中、フリードさんと緑色の君主――ガスタ君も賛成の意を唱える。


「あらあらぁ。特殊な結界を張るんだったら、私たちもおじゃまできるのよねぇ?」


「勿論ですヴェーラ様。細心の注意を払いつつ人間体になる必要はありますが、ティアーウロング様の世界へ足を運ぶことは可能になります」


「……出歩くことは」


「可能ですが、問題を起こさない前提でございます」


「ならば話は早い。私は乗る」


「私も賛成ぇ」


 青い君主――ネクロスさん。桃色の君主――ヴェーラさん。賛成。


「……」ッス


 そっと手を挙げた灰色の君主――バルムンクさんも賛成。


 出席してる俺以外の面子が賛成。全員が俺に目を向ける。


「エルドラド」


「なに?」


「何でBARなの」


 そう。交渉決裂した協定がいつの間にか締結されていて、尚且つ戸籍もゲット。しかも攻略者として登録も済ませ、あまつさえBARまで経営すると。


 どうなってんだよマジで!?


「一応会員制のBARだ。実力がある者しか会員に成れない」


「店の売りとしては、ダンジョンで入手した貴重な酒をブレンドし提供する……。オーナーはエルドラド様が。テンダーはこの私が務めさせていただきます」


 補足を入れる宰相。


 鎧姿だった宰相の容姿しか知らなかったけど、今この場に居る人間体の宰相は驚くほどに白髪イケメン。五条悟も真っ青なイケメンだ。


 つかもうバーテンダーの格好をしている。ノリノリかよ。


「店の概要は分かったけど、だからなんでBARなんだよ! もっと他に――」


「俺が酒飲みたいからに決まってんじゃん」


「「やっぱりかよ!?」」


 俺とフリードさんが同時にツッコんだ。



 それからは敵であるルーラーズの出現も無く、モンスターが溢れるダンジョンブレイクも発生せず、恙なく世界は時を重ねていく。


 新年も過ぎ、寒かった季節も温かくなる。


「三年代表。西園寺 L 颯くん」


「はい!」


 三年は無事卒業。攻略者志望の生徒は有名サークルへ入団する者やフリーへの意向を示す者。志望したほぼ全員が攻略者となった。


 終業式を終えた次の日。


「ふたりでードアをしーめーてー♪ ふたりでー名前けーしーてー♪」


 大吾、熱唱。


「大吾くん!」キュンキュン


 彼女の花田さん。メスの顔。


「えー司くんって真面目そー」


「え、いや、別に……」


「ツヤコって性格キツイっしょ?」


「そんな事はない……です……」


「おい何サラッとディスってんだよ」


「キャーツヤコが怒ったぁー」


「ポテトうまー!」


「ケチャップも付けちゃえ!」


 ツヤコ率いるギャル軍団とカラオケ。大吾と花田さんは相変わらず二人の世界。ダーク=ノワールこと戸島 司はギャルたちに囲まれて四苦八苦。瀬那はギャルの一人とポテト食ってる。


 そんな中。


「進太郎はブレないなぁ」


「そうか?」


「ゲーセンのガンダムかよって位のこの動物園の中で、ドンと構える進太郎は凄いよ」


「そうか。ありがとう」


「いや真面目かよ……」


 俺なんてもうクタクタだよ精神的に。瀬那とふたりでデートしながら本土に集まったのはいいけど、案の定混沌だよ。これで戸島がダーク=ノワールにでもなったら収集――


「♰フフフ……あだだだだだだだ!?」


「JKに囲まれたからってニヤニヤしてんじゃねーよ!」


 ナイスパワープレイだ巨匠! あの中二病野郎の降臨を頬をつねって阻止した!


「あーツヤコが嫉妬してるー」


「かわいい~」


「あんたらねぇ……!」


「ああ~♪ キミは~変わったああぁあぁあぁあぁあぁあぁあ♪」


 大吾のビブラートがヤバイ。あいつ歌上手いなぁ!?


「で? お姉さんとはどうなんだよ」


 唐突だけど進太郎に聞いた。


「デートいっぱいしたいのに怒られた。学生は勉強しろって」


「あれじゃね。お姉さんなりに進太郎の事心配してんだって。本当の姉みたいな感じだったんだろ?」


「ああ。……でも俺はデートしたい」


 俺が言うのも違う気がするけど、恋人の在り方って人それぞれだよなぁ。


「頻度は? どのくらいデートしたいんだよ」


「毎日……」


「……あー」


「エブリデイ」


「言い直さんでもわかるわ!?」


 これでボケてなくて素だからな。


「向こうは成人で働いてんだぞ? そりゃ毎日は無理だろ」


「だよなぁ」


「せめて休日デートが精一杯じゃね」


「だよなぁ……。まこと姉もそう言ってる」


 特徴的な眉毛をハノ字にして困り顔の進太郎。俺よりデカいのに悩みは人一倍だな。


「お姉さんに甘えたいのはスゲー分かる。わかるマン。だから休日のデートでいっぱい甘えたらいいんじゃね?」


「……そうだな。まこと姉も俺に甘えられていと思うし」


「お? 自信満々じゃねーかぁ」


「そりゃあな。俺だって彼氏――ッ!?」


 急に青い顔して黙り込む眉毛。


「? どした」


「う、後ろ……」


「ん? ――っひ!?」


 後ろを振り向くと、ダークオーラを身纏い勇次郎の様に髪の毛が逆立つお瀬那さんの姿が。しかも隣のギャルも引いている。


「むーーー。お姉さんがいいんだ」


「ち違う! 俺は進太郎にアドバイスをだな――」


「浮気ぃ?」


「おいはじめ。まこと姉を狙ってるのか。ゆるさん!」


「悪ノリしてくんな!?」


 その場はカラオケ店の名物パフェを奢る事で事なきを得た。予想外だったのは女子全員に奢る痛いしっぺだろうか。


 おかげで俺の小遣いが著しく消費してしまったけど、瀬那の笑顔が見れて良しとする。


 オレノオカネ……。


 短い春休みを使い友達と遊んだり瀬那とデートしたり、ファントム・ディビジョンをマイクラ感覚でいろいろ試したりと、あっという間に春休みが過ぎた。


 そして――


「大哥! 忘れ物ない? 久しぶりの登校だから気を付けてネ☆」


「今日は午前だけだから気楽だわ。……クラスの奴らと昼飯食べに行くかもだから……。まぁ直帰してゲームもしたい」


「ゲームダメ☆ みんなと仲良くならなきャ☆」


「はいはいさいですか。じゃあ行ってくるわー」


「いってらっしゃーイ☆」


 スニーカーを履いて軽い足取り。


『チュートリアル:新学期を登校しよう』


 日課のトレーニングの時も思ったけど、今日の天気は清々しい晴れ模様だ。

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