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第134話 チュートリアル:授業の一環

 空を見上げるとどこまでも続く青い空。


 しかしジメジメした熱帯感とカラッとした熱帯感の合わせ技が汗腺の感覚を狂わす。


 何処までも続く荒野。草木は数える程で、砂を乗せる風は少し生ぬるい。


『チュートリアル:ダンジョンに潜ろう』


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:技+』


 チュートリアルがクリアされたとおり、俺たちは今、ダンジョンの中にいる。


『息吹く荒野 ウィンドウィルダネス』


 視界の端にダンジョン名のポップが現れる。


「よーし。ぼちぼち行くぞー」


「「はい!」」


 そう言って催促した人は烏丸からすま 黒鵜くろうさんだ。


 好青年といった頼りになりそうな雰囲気。オレンジ色の髪の毛、頭にはリングが付いた黒色のヘアバンドを被っている。


 服装はジャケットとジーンズという軽い印象。ダンジョンに潜ってるのにガードが付いた軽装備でないのは自信の表れなのだろうか。模範的な軽装備のモブ太郎くんたちはともかく、俺とダーク=ノワールは指定のジャージ姿だけど。


「戦闘や探索のアドバイスはするが、基本的には俺らからは動かん。疑問、危険察知があればその都度聞いてくれても構わん」


「「はい!」」


 先行する俺たち生徒。その数歩後ろでファイブドラゴンのメンバーが追随してくる形だ。


 腕を組み、鋭い視線を俺たちに向ける人は後須あとす 惹句ジャックさんだ。


 欧米の血を引いてるっぽい金髪に堀の深い顔。低い声は男らしさを感じる。


 服装は裏地が紫の白のコート。棘が付いているチョーカーを首に装備している姿は正直「こいつマジか」と、余りにも先を行ったファッションで驚いた。ちなみに惹句さんも軽装備を付けていない。やはり自信の表れだろう。


「僕たちはあくまで引率だけど、危なくなったら助けるから!」


「はい!」


「♰了解♰」


「あ、危ないって言うのは腕が飛んだり胸が貫かれたりする状況ね! よろしく~」


「「は、はい!」」


 優しいお兄さん。まるでおかあさんといっしょに出てくる○○お兄さんって名乗られても信じてしまいそうになるこの人は、青野あおの 流美るみさんだ。


 流美? 女みたいな名前だな。って言ってもカ○ーユみたいに殴ってくる事も無い優しいお兄さん。


 染めているのか青い髪の毛でポケットの多いジャケット姿。どこか工場の作業員に見える服装で、前述した二人と同じく軽装はしていない。やっぱり自信の表れだろうか。


 気さくな雰囲気だけど、俺の毒電波受信乳首が青野さんのことを警戒している。戦闘モードになると、人が変わりそうだ。たぶん。


 知らんけど。


「……見渡す限りずっと荒野」


「歩くとやっぱ暑ぃな~」


 この授業は実際にダンジョンへ潜り、指定された目標を達成するのが目的だ。潜るダンジョンは初心者ダンジョン。大吾たちと最初に入ったダンジョン「グリーン グリーン」と同じく、攻略しても消滅しないダンジョンだ。


 この消滅しない初心者向けダンジョンは東京に限らず関東地方にはいくつかある。無論全国内にも。

 まぁおあつらえ向きに東京が一番多いから、学園もそれにのっかてる訳だけど。


「……」


 真相は知らないし交渉決裂の場に居た俺としては、そもそも学園どころか国連も怪しいところだ。何故消滅しないか調査中とか言ってるけど、ホントのところは知っててそれを操ってる、なんて事も考えられる。


 ……ドラマの見過ぎか。


「は、花房……」


「ん?」


 照り付ける日差しが眩しいと思っていると、不意に隣のモブ太郎くんが俺に声をかけてきた。


「すまん、俺の水筒出してくんね? 喉がからっからでさ」


「うん? ……はい」


 ジャージのポッケをまさぐり次元ポケットを開く。ヒョイと目当ての物を出してモブ太郎くんに渡した。


「助かるよ。――ンク」


 水筒の蓋を開けて直のみするモブ太郎くん。その光景を見たもうひとりのモブくんも俺も頼むと言ってきた。同じくヒョイと渡した。


「ンク――ふぅ。あ。ありがとう花房。助かるよ」


 喉を潤したモブ太郎くんたちの水筒をまた次元ポケットに仕舞った。


「花房は喉乾かないのか?」


「俺は毎日十分な水分補給と日課のトレーニングしてるからまだ全然大丈夫。俺は戸島が大人しい事が気になるけども」


「♰無駄な体力を使う事はせぬ♰」


 そう。初めてのダンジョンに加えこの暑さ。普段気張りしない緊張感もある中、ダーク=ノワールの表情がモブ太郎くんたちと比べると余裕がある。普段なら文句の一つとか急にフフフとか言うくせに。


「♰我は貴様に苦汁を飲まされ、それからは日々鍛錬に励んでいるのだ。基礎体力の向上は著しい♰」


「ふ~ん。お前って負けず嫌いなんだな」


「♰男は誰もが負けず嫌い。それが我の持論だ♰」


 戸島の時はグズグズしてるのに、ダーク=ノワールの時は饒舌なんだよなぁ。


「♰――む! 敵発見!!♰」


 ダーク=ノワールの声にモブ太郎くんたちは帯刀していた剣を抜刀。俺もオーラ剣を生成し構える。


 岩陰から目がイッテる獣型モンスターが出現。しかもぞろぞろと群れを成して現れた。


「グゥウウウ!!」


「ガウガウッ!!」


 ダンジョンに潜って初のエンカウント。モンスターの名前は――


『ウィルダネスハイエナ』


 腹を空かせているのだろうか。鋭利な牙をこちらに見せ、ダラダラと涎が垂れている。


 横一列に並ぶ俺たち。


 後ろには黒鵜さんたちがラーメン屋の店主みたいに腕を組んで見物しているのが気配で分かる。


(さて、どうしかける)


 そう思っていると、ウィルダネスハイエナの二体が獣特有の速さで駆けてきた。


 俺が――


 一歩だけ前進した時だった。


「ハアアアアアアアアア!!」


 なんと、モブ太郎くんが気合いの入った掛け声で突撃。


「ダブル――」


 ジャンプして襲い来るハイエナの一体を横一閃。


「――スラッシュ!!」


 続けてジャンプしてきたもう一体のハイエナも通り過ぎ間に斬り伏せた。


「「キャウン!?」」


 攻撃を受けたモンスター。一瞬停止し、すぐさまッポンと煙になって消える。


 どうやらドロップアイテムは無い様だ。


「ガウッ!!」


「え!?」


 まさかそこに!? と言わんばかりの表情のモブ太郎くん。


 このままだと鋭利な牙にやられると脳裏に過る時だった。


「――うおおおおお!!」


「キャウン!?」


 モブくん。渾身の一撃。


 モブ太郎くんに続いたモブくんが静かに近づいて来たハイエナを退治した。


「助かったよ!」


「任せとけって!」


 お互いの健闘を称え合う二人。


 しかし、モンスターは待ってくれない。


 腹を空かした獰猛な獣は一心不乱に駆けるのである。


「ッいい!?」


 五体で向かってくる様はさながら狩り。ナショナルジオグラフィックで見たことある様な現実に、モブ太郎くん達は身を引き俺たちの列に戻った。


「♰態勢を整えるの心得はある様だな。貴様らを見くびっていた我を許せ♰」


「と、戸島……」


 漆黒で暗黒な魔術師。動く。


「♰魔法発動マジックエフェクト! アルテミット・スレイズ!!♰」


 背後に紫色の魔法陣。そこから光の矢がいくつも放たれると、自動追尾で一体、また一体と順当にモンスターを屠っていった。


「♰フン! 他愛ない♰」


 その時だった。


「!?」


 ズシンと体の芯に響く振動。


 それは岩陰から現れた前足。


 左足が出てくると更に地鳴りが響いた。


「……おい」


「ふむ」


「これは……」


 後ろの5D'sの雰囲気が変わる。


 それもそのはず、出てきたモンスターは巨体。先ほどのハイエナとは一回りも二回りも大きさが違う。

 鋭利な爪はより鋭利に。強靭な牙はより強靭に。腹の空かせ具合はより空かせている。


『ウィルダネスハイエナハウンド』


 それがこのモンスターの名前だ。


 鼓膜を破る様な大きな咆哮が――


「グガアアアアアアアア――」


 ザクッ。


 響くはずだった。


「――グォォオオオ――」


 倒れ伏すハウンド。


 眉間にはオーラ剣が刺さっていた。


「先手必勝だな」


『チュートリアル:モンスターを倒そう』


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:力+』


 俺の空気の読めなさに、少しだけ場の空気が白けたっぽい。

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