寮を出て事務所に行くと、信じられないものを見た。
目の前で繰り広げられていたのは暴力。小汚いロリコンおじさんこと猿山が大きく振りかぶったゴルフクラブが、ポチの頭にクリーンヒットした瞬間だった。
「ぁぎッ!」
肉と骨の潰れる鈍い音がして、ポチが側頭部から血を流して崩れ落ちる。
黒猫のようなふわふわの髪の毛を赤い鮮血で染めた。
「何してるんですか!?」
猿山はビクッと肩を震わせるとこちらを睨みつけ、もごもごと何か喋った。その言葉が『ストレス解消』だと気づくのに五秒ほどかかった。信じられない……! 私には、目の前でニヤニヤ笑う猿山が怪物に見えた。
「おら、立てよ」
猿山がポチの体を軽く蹴る。何度か蹴るとポチが苦痛に顔をゆがめながら側頭部を手で押さえてふらふらと立ち上がった。
「じゃあ第二ラウンド行っくよ――!」
「やめ……
「何してるん?」
蟹原部長がオフィスに入って来た。ハンカチで手を拭いており、トイレから帰って来たのだと一目でわかる格好だった。
「かに、蟹原部長……!」
「なに?」
氷のような、冷たい目だった。私を一瞥すると、自分のデスクに座って何事もなかったかのように仕事を始めた。