あは。言っちゃった。でも、しょうがないよね。ムカつくんだもん。アイリは、落ちる前髪を綺麗なピンク色のネイルを付けた指先で掻き上げた。
セイコは一瞬固まって、すーっと顔から表情が消えていく。そして
「それ、セクハラですよ」
腕に黄色い採血帯がいつもよりきつく腕に巻かれたように感じたのは、気のせいではない……かもしれない。
「あ、いや。そうじゃなくて、仕事一筋みたいな感じでバリキャリな印象があってぇ……」
アイリは、目線を左右に動かしながらしどろもどろに弁解する。
「そうでもありませんよ、若いころは」
セイコはアルコール脱脂綿でアイリの腕をさっと拭くと、
「夫がいました。……娘も」
注射器の針を刺した。
「……えっ!?」
体が冷えていくのは、血を抜かれてるからだけではない。
「そ……そうなんですね、知らなかったわぁ~」
アイリは、そんな言葉しか返せなかった。彼女はきっと、『不細工だと見下していたクラスメイトに、自分より先に彼氏ができたときの女子中学生』みたいな顔をしていた。