▼ユリエル
裸の体を寄せ合って毛布にくるまった。息も整い、穏やかな余韻を甘えて過ごしている。エトワールの腕の中で、ユリエルは惚けていた。それはとても幸福な時間だった。
「後悔はないか?」
不意にそんな事を問われ、ユリエルは驚いた。そして次には、笑ってしまった。あんなに激しく求め、求められて最後まで愛し合ったというのに、今更後悔なんてあるはずがないのに。
「あると思いますか?」
ユリエルは愛らしい声で呟く。思ったほど声が出ない、掠れた声だ。だが、それすらもこの時間を思わせるようで愛しく感じた。
「恋人のようだったかと不安に思ったんだ。あまり、優しくはなかったように思えて」
とても頼りなく、金の瞳が見下ろしてくる。さっきまでの強い男のものと同じには思えない。抱かれている間はずっと、この瞳が熱を持って見つめ、優しくも雄々しく感じていたのに。
それに、なんの不満があるというのか。こんなに大切に抱かれて、心を貰って、愛されたのに。
「貴方は私を抱いて、後悔があるのですか?」
「そんなはずはない!」
「ならば私にも、後悔なんてありませんよ。安心してください。とても、温かな時間でした」
瞳を閉じて、彼の鼓動を聞く。こんなに穏やかな場所を得られたのだから、何の文句があるというのか。ユリエルは離れがたい思いを抱かずにはいられなかった。こんなに欲してしまって、今後どうしてゆけばいい? 旅人を縛るなんて不粋な真似はできない。だからといってこれは仮初の姿。共に旅に出る事も許されない。
「よわったな……」
不意にエトワールが呟くのを聞いた。ユリエルは顔を上げ、彼を見る。その先では整った顔が、困ったというふうに眉を寄せていた。
「離し難くなってきた。だが、君を繋ぎ止めておくこともできない。何とも歯がゆい」
同じ思いを持っていた。その事に、ユリエルはとても幸せを感じた。注ぎ込まれる温かな感情を己の意思で絶たなければならないのは何とも悲しく辛い。だが、そうするより他にはない。今できるのはせいぜい再会の約束をして互いを思い、恋しい気持ちがこれ以上募る前にこの場を離れる事だった。
「約束を、いたしましょう」
柔らかな声でいい、向けられる金色の瞳を見つめ、ユリエルは笑みを浮かべた。
「月の綺麗な夜には、今日の日を思い、互いの無事を祈って、再会を神に願いましょう。たとえ離れたとしても、同じ月の下にいる。互いを、傍に感じられましょう」
「あぁ、誓おう。月の夜は君を想い、無事を祈り、再会を神に願おう。そして再会できたならば、またこうして傍にいよう」
互いに誓った。そしてもう一度唇を重ね、愛しく離れがたい気持ちを自制した。欲求以上に強い自制心がさせた、悲しい決断だった。