目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

24話 和平へ(1)

 王都につくと大変だった。まずはロムレット達の罪が大きく民へと公表され、処刑が行われた。ニューブラッドと呼ばれる新興勢力は、こうしてついえたのだ。

 政治が混乱するのではないかと民も臣下も不安そうだったが、そうではない。人は減ったがそれを補うように、オールドブラッドがユリエルの前に膝を折って臣下の礼を取った。そこにはブラムや、年齢を理由に断った者もいた。


「ブラム!」

「シリル殿下、お久しぶりにございます」

「どうして」

「ユリエル陛下はなんとも強引な方。大変な混乱が起こる故、自らの子を自らの手で立派な国の忠臣に育てよと仰せだ。その代わり、目障りは全て廃すると」


 どうやらユリエルは前線から、とにかく色んな指示をだし、自らも動いていたらしい。

 彼らが空席となった多くの席を埋め、長年の経験でもって国を動かし始めた事で混乱は起こらなかった。

 そして、ユリエルはニューブラッドの処遇も考えていた。


 通常、謀反などの国家に弓を引く罪で当主が処刑されると、その家族にも類が及ぶ。後の憂いを断つ一つの方法で、歴史的にもそうされてきた。

 けれど、ユリエルはその家族にまで責任を負わせなかった。残された奥方や子供は、それは怯え既に死んだような顔をしていた。だが、集められた女性やその子をユリエルは寛大に許した。

 望むなら家名も残し、財も三分の一を残す。屋敷や、必要な使用人もそのまま引き継ぎ暮らせる事を約束した。同じ土地に住めないと申し出た者には静かな家を用意し、そこに使用人を連れて余生を送ることを約束していた。


 そしてニューブラッドの子供達で成人した者を、城で取り立てる事にした。これには心配性のクレメンスが最後まで難色を示していた。暗殺や謀反の可能性が増える事を危惧したのだ。

 だが、ユリエルは穏やかに笑って一蹴してしまった。「こんな若輩に殺されるくらいなら、もっと昔に死んでいる。彼らの謀反を許す無能な王なら、それが引き際なのだろう」と。

 やっぱり、ユリエルは綺麗で強い。シリルはこんな風には言えない。人を許す広く寛大な心はやはり難しく思えた。


 なんにしても、こうして許された人の大半はユリエルに感謝した。命を助けられ、家を守られ、生活を守られ、子も殺されずにいずれは国を支える人物になる。地獄に落ちると思った彼らにとって、これは何よりの救いとなったに違いない。


 ニューブラッドの家から押収した三分の二の財産は、戦死した人々に惜しみなく支払われた。同時に、そうした人々の支援などにも使われる事となった。「少しは残しとけばいいのに」と言ったレヴィンに、「あぶく銭は身につきませんから、最も必要な部分に渡すのですよ」と言っていた。

 戦いで傷ついた兵や、それによって戦う事が出来なくなった人々にも支援が行われ、新たな職につけるように相談場所まで設けられた。絶望した人々の心のケアにまで、ユリエルは気を配っている。長く軍籍にいた彼の、これは必要最低限の事らしかった。


 なんにしても、こんな忙しさが一ヶ月は続いた。前線を守るグリフィスからの手紙などで石橋の修復状況をこまめに見ながら、ユリエルは怒濤のように国内を整えていく。この人はやはり、王となる人だった。その頭の中に理想とする国の姿があり、その為に必要な事が分かり、目的の為には惜しみなく全てをつぎ込む。そうした力を持つ人を側で補佐しながら、シリルは誇らしい気持ちだった。


「それにしてもさ、ユリエル陛下は忙しすぎるな」


 なんて、レヴィンはのんびりと言う。軍人としての仕事が落ち着いたレヴィンは、城の中でのどかな時間を送っている。少し暇そうでもあった。


「でも、活き活きしています。やりがいがあるのだと思います」

「そりゃそうだ。ようやく色んな事を動かせるようになったんだ。見ろよ、国の様変わり。みんな見る間に整えられる法や保証に感激したり感心したり。人の間じゃユリエル様、『賢王』なんて呼ばれてるんだぜ」


 「似合わないよな」なんて付け加えて、レヴィンは苦笑する。それに、シリルも思わず笑ってしまった。


「まぁ、何にしてもあの人は痛みを知ってる王様だ。しかも潔癖で、優秀だ。民にとってはいい王様になる。痛みを知ってるってことは、優しいってことだ」

「ですね」


 シリルもそれには頷いた。

 今回一番不安を抱いていたのは、戦死した人の家族と、傷ついた兵本人だった。一家の大黒柱を失い、悲しみよりも今後の不安を強く感じていた人は多かったらしい。そうした人々への手厚い支援は、安心と信頼に繋がった。

 そして傷ついた兵も他の道を選び学ぶ時間と支援を受けられて感謝を示した。背負う家族などの心配をしなくて済んだのだ。


「あの人の人心掌握って、けっこう的確な。不安を煽る事はせずに、そこに手を差し伸べて安心を信頼に変える。そうした信頼を示す事によって、他の人にも安心感を与える。欲があると出来ない事だよ」

「すっごくお金つかったみたいだし」

「それでもまだ余ってるニューブラッドの財産って方に、俺は正直げんなりだけどな」

「本当ですね」


 本当に、どれだけの物をため込んでいたんだってくらいだった。財源の確保がどのくらいか心配していたユリエルも、集まった物を見て思わず呆然としたほどだった。


「こっからだな」

「ですね」

「やるか」

「はい、勿論。僕はまだ、グランさんに誓った事の半分しか出来ていません。平和で明るい国を作る。そう、約束しました」


 これからだ。その意気込みは更に強くなる。弱く城の中で過ごした。そこから飛び出した今、一回りも二回りも強くなって、シリルは立っていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?