——恋に恋する女の子。
その言葉は、きっと私のために作られた。——
男の子ってよくわからない。恋なんてしたことない。今、何よりも好きなことは、眠ること。
眠るって素敵だね。色んな夢が見られるから。
昨日は素敵な夢を見たの。
綺麗な金髪の男の子が、私にそっとキスしてくれた。
はじめての柔らかい唇の感触。
ひまわりみたいなその笑顔。それが、一瞬で私の心臓を撃ちぬいた。
夢の中で出会った君に、私、恋しちゃったみたい。
不思議だね。いつも教室の窓からテニスコートを寂し気に見つめてる、桐谷くん。綺麗な金髪が、夕日に照らされて輝いている。
ねえ、私にキスをしたのはどうして?
そんなことを聞く勇気なんて私にはない。
でも、それでも、思わず声をかけてしまう。
「桐谷くんは、どうして金髪にしてるの?」
桐谷くんはゆっくりとこちらを振り返る。
黒い切れ長の瞳が、じっくりと私の瞳を貫いた。
それだけで、私の心臓はドクンと跳ね上がる。
「……かっこいいだろ?」
その言葉と共に送られたのは、ひまわりみたいなあの笑顔。
そしたら不思議。わたしの心が理性をグイッと押しのけた。
「うん、好き……」
「え?」
桐谷くんは驚いたように目を見開いた。
「あ……」
私は思わず、自分の口を押える。
どうしてこんなこと、言ってしまったんだろう。
私は消えたくなる、泣きそうになる。
うつむいて動かない私に、桐谷くんは優し気に声をかけた。
「……なんで?」
「……わ、わかんない」
「こっち見て」
私は恐る恐る顔をあげる。
桐谷くんの瞳は真剣だけど、何か焦ったように揺れている。それがなんだかおかしくて、私はじっとその瞳を見つめてみる。
「まっすぐ見てくんね」
桐谷くんの瞳が不意に逸らされた。
「どうして目を逸らすの?」
「そりゃ、照れるでしょ」
桐谷くんの耳は、ほんのり赤みを帯びている。
私の胸はドクンドクンとうるさいくらいに音を立てる。
桐谷くんの口がゆっくりと開かれる。
「好きな子に好きって言われたら、さ」
私はまだ、夢の続きを見ているのかもしれない。
でないとこんなこと、ありえない。
そう思って頬をつまんでみると、鋭い痛みが走った。
「何してんの?」
「夢かと思って」
桐谷くんの手がすっと私の顔に伸びる。そして、頬を優しくなでた。
「じゃあ夢じゃないって教えてあげる」
桐谷くんの顔が私にまっすぐに近づいて、そして唇に触れた。
ガラス細工を扱うように甘い優しいキス。
夢の中と同じファーストキス。でも、夢の中と違って、桐谷くんの唇はザラリと少し荒れていた。
でもそれさえも、私の胸にときめきを植え付ける。
桐谷くんの吐息が、私の頬を優しく撫でる。
「俺も好き」
――恋に恋する女の子。
その言葉は、もう私のためのものじゃない——
私は、桐谷くんが好き。