夜の公園で絶世の美女(我の感想)、えなと出会った翌日。
別に自分の女にしたい人間が現れたからと言ってなにかが変わる訳では無い。
今日も昨日や一昨日となんら変わらず、朝から夕方にかけては公園のベンチでゴロゴロし、夜になるとコンビニへ食べ物を取りに行っていた。
ちなみに、朝、昼は食べなくて良いのか?という質問の為に予め答えておくと、我は人間では無く魔族だ。だから人間みたいに朝昼晩と三食食べなければ活動出来ない様な燃費の悪さでは無い。
1日一食、何かをつまむだけでも全く平気なのだ。
――まぁ、ただ、食べる事自体は好きだから食べれるものなら食べたいのだがな。
だが、朝や昼は如何せん人が多い、まぁ魔法を使えば物を盗むことなんかどうってこと無いが――我の様に元の世界からこちらへ来ている者が居ると困るし、万が一があるからな。
確実に盗む事の出来る夜のみにしている、という訳だ。
(今日はこのパンに食材が挟まれた三角の――サンドイッチ?というのか、これにするか。)
我はそんな事を考えながら食べ物を手に取っていく。
はぁ……全く、今日の昼も考えていたが、本当になぜ我はこんな世界に飛ばされたのだ?
この様な別世界があるなんて知らなかったぞ、それに、あの時は座標移動魔法しか使っていなかったはず……
この事は元の世界に帰る為にも、いち早く原因を突き止めなければいけなそうだな。
そう、我は一日中、ゴロゴロしている時はこんな事を考えている。
どうだ?暇そうに見えて、我は忙しいのだぞ?
――しかも今日に関しては……
(好き、か、)
昨日出会ったえなに対するこの胸の辺りがもやもやとする気持ちや、意味を知ったばかりの「好き」という言葉。
更にはやはり我の気持ちはえなに対する「好き」なのか――など、考えなければいけない事が山積みだった。
はぁ……本当にどうしたものか……まさか別世界でこの様な事を考えなければいけないなんて……思ってもいなかったぞ。
そんな調子で食べ物を持ち終わった我は、出口へ歩いて行く。
すると、なんと魔王一生の不覚ッ!!持った食べ物に透過魔法をかけていないまま、出口から出てしまったのだ。
『ピピピピピーーッ!!』
「な、!?」
途端に甲高い音が店内に響き渡る。
そしてすぐに、我の元に店員の男が駆け付けてきた。
「ちょっとお客様!?――って、なんですかその手に持った商品は!?まさか盗もうとしてたんですか!?」
「え!?い、いや、我は――」
「最近怪しいと思ってたんですよ!貴方毎回夜に来ては何も買わずに出て行ってたから!!」
「あ、いや、その――」
ま、まずいぞ……!?我、話を逸らす力だけは本当に弱いのだ……!!くそう……時間を戻したいぞ……!
しかし、当然そんな魔法が存在する訳もなく……
「ちょっと!なんでこんな事をしたのか聞かせてもらいますからね!事務室まで来てもらいます!」
「は!?お、おい貴様!我の身体に容易く触れるな!我は魔王だぞ!?」
「はいはい、これは警察も呼んだ方が良さそうだな、自分を空想上のキャラクターとでも思っているのか?」
「くッ!やめろ!」
そのまま手を掴まれると、奥の扉の方へ連れて行かれそうになった。
ここでこの人間を殺す――という選択肢を取るべきなのかもしれないが――ダメだ。すぐに騒ぎになるぞ。
でもじゃあどうすれば良いのだ!?ま、まずい……これは本当にまずい……!
しかし、そんな我絶体絶命のその瞬間、後ろから大きな声が放たれた。
「すいません!!その人私の彼氏ですッ!!」
「「!?」」
我と店員は互いにいきなりの大声に驚き、すぐに後ろを振り返る。
すると、そこに居たのはえなだった。
「って、え、えな!?」
「ほんとに何やってるんですか魔王さん!!」
そう言ってえなは我の方へ近付いてくる。
ど、どういう事だ……!?なぜここにえなが……
「なんですか、この人の彼女さんですか?」
「……ッ!?は、はい……!そうです!すいませんこの人が商品を盗もうとしたんですよね?」
「はい、そうなんですよ。だから事務室で話を聞こうと――」
「あ!?その事なら大丈夫なので!あとでしっかりと叱っておくので!今回は代わりに私が払う、という事で勘弁してくれませんか?」
ものすごいスピードで言葉を並べるえな。
す、すごい……!えな、こんなに口が回るのか……!すると、店員もそんなえなの圧に押されたのか、
「わ、分かりましたよ。その代わり、もうこんな事は絶対しないで下さいね。」
「すいません!ありがとうございます!」
こうして我は間一髪のところでえなに助けられたのだった。
♦♦♦♦♦
そして、それから無事にコンビニから出た我とえなは公園に向かった。
「ふぅ……全く、さっきは本当に危なかったぞ。すまないなえな、助かった。」
我は何時ものベンチに座ると、隣に腰掛けたえなの方を向きながらそう言う。
しかし、対してえなの顔は全く笑っておらず、
「で?なんであんな事したんですか?魔王さん?まさか、いつもそうやって食べ物を手に入れていたなんて言いませんよね?」
まるで獲物を確実に仕留めるハンターの様な目付きで我に問い詰めて来た。
……!?こ、この雰囲気は……
ダメだ、絶対ここで嘘をついてもバレるな……
「あ、あぁ……我はこの世界に来てからずっとあそこから食べ物を盗んでいた……」
正直にそう白状した。
すると、それを聞いた途端、えなははぁっとため息を吐くと、呆れた様に、
「あのですね魔王さん……この世界に来てから〜とか言うのは自由ですが、犯罪はダメですよ……そんな事なら私の家に来て大丈夫ですのに」
「いや、それはさすがに魔王のプライドが……」
「とにかく!魔王さん!ダメですよあんな事しちゃ!」
「す、すいません……」
「もうっ!まぁ分かれば良いですけど」
く、まさか我が他人に謝るなんて事になるとは……屈辱的だッ!――――って、あ、そういえば、
そこで我は、助けてくれた時にえなが発していたある単語を思い出した。
だからそこで、謝った我に笑顔を見せたえなに対して真顔で、
「――なぁえな」
「ん?なんですか?」
「先程言っていた、えなの彼氏とはどういう意味だ?それは友達と同じような意味なのか?」
「……ッ!?!?」
「ん?どうしたえな?なぜそんなに頬を赤らめている?」
我は途端に顔を逸らしたえなを覗き込む様に顔を近付ける。
おいおい、まさかえな自身も分からなくて使っていたなんて言わないよな?
しかし、なんとその瞬間、
「ま、魔王さんのバカァ!!あれはただ魔王さんを助ける為に言っただけです!!」
バチィンッ!!
「い、痛!?」
我はえなに涙目で頬をビンタされた。って、な、何故だ!?
この世界、やっぱり理解出来ない我であった。