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第23話だぞ【旅館に来たよ】


 海で遊び終わると、我たちはすぐ横に隣接された旅館へ向かう。

 そして、旅館に着き、中へ入ると入り口で早速青色の着物(スマホで見た事があるから分かる)を着たふたりの老夫婦が迎えてくれた。


「久しぶりじゃのう、ゆうり、悠介」

「久しぶり、ゆうりも悠介も元気そうで安心しました」

「久しぶり〜!銀次おじちゃんも愛子ばあちゃんも元気そうで良かったわ」

「久しぶりだな」

「えぇ、私たちは元気です。ふたりはしっかり、働いていますか?」

「うん!しっかり働いているわ!」「あぁ」


 そんな会話を見ながらまるで蚊帳の外にいるかの様な我とえなは口を半開きでポカンとする。

 すると、そんな我に対しておじいさんが、


「お!このふたりかの、今日ゆうりらと共にここへ泊まるのは」


 笑顔でそう話しかけて来た。それに乗っかる様にゆうりはすぐにふたりの紹介をしてくれる。


「あ、ごめんなさい。すっかり紹介し忘れてたわ。このふたりは私たちの親戚で、愛子ばあちゃんと銀次じいちゃんよ。」

「是非、ゆっくりして行ってください」

「よろしくの」

「あ、あぁ!我は魔王だ。世話にならせてもらうぞ」

「は、はじめましてっ!えなですっ!」


 それに我とえなは名前を名乗り返す。

 想像していたより話しやすそうで安心したぞ。やはりこの世界の人間は皆穏やかだ。

 しかし、次の瞬間、銀次さんは顎に生えた白い髭を片手で触りながら鼻の下を伸ばし、


「へぇ、カップルさんかの?」

「「な……!?」」


 い、いきなり何言い出すんだこのジジイは!?


「ちょっと銀次さん!失礼でしょそんな事聞いて」

「愛子ばあちゃん、全然良いのよ。このふたり、付き合っては無いけど最近ラブラブだし〜?ねぇ?」

「なっ!?こ、こっちを見るのではない!」


「確かに、そう言えば海で居た時もふたりで水着姿を褒めあっていたな。」

「ちょ!?ちょっとお兄さん!?恥ずかしいので言わないでくださいよっ!」

「ま、まさかあれを見ていたというのか……!?」


 確かに先程海で居た時、えなの水着姿を褒めはした。だが!!そんなイチャイチャとかではな、無いぞ……!(本当だからな!?)


「ふふ、仲が良いのですね。今日は貸し切りですので他には誰も居ません。お部屋は2階に用意しているので夜ご飯の時間になるまでゆっくりしていて下さい」


 そんな我たちを見て、愛子さんは優しい笑顔でそう言う。よ、よし!これ以上悠介さんやゆうりにあの事を掘り返されても面倒だ!ここは一度逃げるぞ!


「あ、あぁ!ゆっくりさせてもらうぞ。――ほら、早く部屋へ行こうではないか!!」

「そ、そうですね魔王さん!!ほらゆうり先輩もお兄さんも!早く行きましょう!!」


 よし!よくぞ乗ってくれたぞえな!


「はぁ……ふたり共正直じゃないんだから。ま、良いわ。行きましょう兄貴」

「あぁ」


 こうして我たちは今回泊まる部屋へと向かった。


 ♦♦♦♦♦


「これは……!中々の眺めではないか……!!」


 それから旅館の二階に上がり、男女それぞれ別れて部屋に入ると、そこはスマホやテレビで時々紹介されていた「和室」というやつで、入り口正面にある窓からは今日遊んだ海を一望する事が出来た。


「この時間は夕日と海が相まって綺麗だろ?俺も何度かここに泊まっているが、初めて来た時はお前と同じリアクションだった。」

「やっぱり元からこの世界の人間でも綺麗と感じるのだな。」

「当たり前だ。逆に無かったのか?お前が前に居た世界というのは。今の俺のイメージでは「モンスターばかりの魑魅魍魎とした世界」だが。」


 あぁ、そういえば悠介さんにはその様なモンスターやすぐに城を襲ってくる冒険者たちの話しかしていなかったな。


「まぁ、あるにはあるな。だが、この様な綺麗な海は見た事が無い。それに、今居る部屋もそうだが、前の世界とはまた別の綺麗さだ。」

「なるほどな。――じゃあ、この「和菓子」も食べた事無いのか?」


 そうして悠介さんは部屋の中心に設置された巨大な長方形の机の上にある紙に包まれた物をひとつ掴むと、我に渡してくる。

 ん?なんだこれは?


「和菓子?これは食べ物なのか?」

「あぁ、日本特有のな。包み紙を開けてみろ。それはモナカというやつだ。中に餡子が入っていて美味いぞ。」

「なるほど、食べてみるぞ」


 そうして我は言われるがまま包み紙を取る。

 すると中から四角い肌色の物が出てきた。

 こ、これがモナカというやつなのか……?なぜか周りがふにゃふにゃしているし、これまで手にした事の無いタイプの食べ物だなこれは。


 我はその見た目と手触りで多少不安になる――が、とにかく食べなければ分からない。すぐに口の中へ放り込むとそれを噛む。――すると、


「……ッ!?こ、これは――」


 途端に中からグニョグニョとした甘い物(おそらく餡子というやつ)が飛び出し、周りを囲んでいた肌色と口の中で混ざり合った。


「う、美味いぞ……!!」

「だろ?」

「あぁ……!!」


 こんな物、前の世界では無かった……!!

 前から思っていたが、この世界は本当に食べ物が美味い!!


「これは何個でもいけるぞ!」

「おいおい、夜食ももうすぐなんだから食べ過ぎるなよ」

「あぁ!分かっている!それに、」


 さすがにこの美味さを超えられる物は出てこんだろう。が、まぁあとひとつで我慢するか。

 そうしてひとつモナカを掴み、すぐに口の中へ放り込む我。


「夜食が楽しみだぞ」


 次回、我、度肝抜かれます。

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