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第24話 早くネクサリウス行きたいんだけど!?

「あなたの故郷、ネクサリウス……行ってみたいですか?」


 さっきの瑠璃の質問で俺は肝心なことを忘れていた。

 俺と瑠璃の故郷が一緒だって、彼女がそう言っていたことを。


「瑠璃、その前に俺の故郷ってのは?」


 彼女はニヤリと笑い、口を開く。


「ですよね、先輩気にならないのかなって思ってました!」


 その態度からは、俺の反応は予想通りのようだ。


 瑠璃、わざと俺から質問させるようにしたのか。

 いや、しかし実際気になることだしな。


「ときに先輩、家族構成をお伺いしても?」


 急になんだ? と思ったが、関係のある質問なのだろう。


「えっと、俺は昔から母さんと2人だよ。父さんは俺が生まれる前に離婚したって聞いてる」


「お父様とお会いしたことは?」


「いや昔から仕事が忙しい人だったみたいで一度も会ったことない……ってまさか父さんがネクサリウスの人だって言いたいのか?」


「さすが先輩。勘が鋭いですねっ! でも詳しい話は向こうに行ってからにしましょうか」


「ううっ! 気になるが……それもそうだな」


 内心気になって仕方ないがネクサリウスまでは簡単に行けるみたいだし、少しの辛抱だな。


「ただその……いつ行くかというのが問題なんですけどね」


「いつって今からじゃダメなのか? 早く行きたいんだけど!」


「実はそう簡単な話じゃなくてですね、いくつか問題があるんです」


「……? 問題って?」


 瑠璃はその問題点とやらを細かく説明してくれた。


 まず、前提にレベルアップコーポレーションへはもちろん内密にしなければならない。

 これは言わずもがなだ。


 それから次に、長期休暇が必要ということ。

 そんな長い間滞在しないって〜と思ったが、そういうことではないらしい。

 そもそも地球とネクサリウスでは時間経過が違うようで、こっちの1日は向こうの世界でいう3時間程度だという。

 つまり向こうで1日を過ごそうもんなら、地球へ戻ってくるともう1週間ほど経過してしまっているということだ。


 これじゃ最低2、3日以上は休みがほしいが、今の俺には有休がない……。

 なぜなら俺はまだ入社2週間の研修期間だからだっ!

 痛いっ! 実に痛いところっ!


「なるほど! つまり俺の研修期間が終わって有休を取れたタイミングでってことだな」


「はい、その通りです。つまり最短で5ヶ月と2週間後、先輩が入社して3ヶ月経ったタイミングですねっ!」


「そうか、最短で5ヶ月と2週間後か……って長いっ! 長すぎるんだけども!?」


「こればっかりは仕方ないんです。すみません」


 瑠璃は申し訳なさそうに微笑んでいる。


 いや、彼女にこんな顔させてはいけない。

 これが最善だと提案してくれた子に対してよくない反応だったと思う。


「いや、こっちこそわがまま言ってごめん」


「いいえ、大丈夫です。また有休が取れる頃合いを見てから予定を立てましょうか!」


「そうだな」


 ってかこれデートの予定を立てるみたいだな。

 柄にもなくテンション上がっちゃいそうだけど、キモがられたら悲しいので黙っておく。


「ときに先輩」


「え!? な、なんだ!?」


 まだデートの妄想中だったので、不自然に甲高い声が出てしまった、恥ずかしいっ!


「お腹空きませんか?」


 彼女は頬を少し赤らめてお腹をさすっている。

 お腹が鳴りそうなほど空いている、そんな表情だ。


 つい話し込んでしまったため、もう夕方だ。

 実のところ俺も少し腹減ったなとか思っていたところ。


「ちょうどいい。俺も腹減ってる! なんか食べに行く?」


「いえ、宅配ピザなんてどうですか?」


 そう言って彼女は自分のスマホ画面を俺に向けてきた。

 そこにはピザ宅配注文ページだ。

 しかもメニューにもチェックしてある。


「いや、行動はっや! 別にいいけどさ」


「えへへっ。じゃあ注文しま〜す」


 瑠璃はとろけたような笑顔をしながら注文ボタンを押した。


「そんな顔するんだな」


「ふえ!? どんな顔ですか?」


「なんというかチーズのようにとろけた笑顔といいますか、無邪気で可愛い顔といいますか。今まで見たことなかったもんで」


「か、可愛いだなんておちょくらないでくださいよ〜! ただピザに乗ったチーズが大好きでして……そのことを考えるとつい、ね?」


 なんだこの子は。

 ピザのことを考えて体をモジモジさせている。

 しかもなぜか頬まで赤くなって。

 まるで好きな人の話をしているかのような。

 なんて可愛い表情なんだ。


 そんなこんなでピザは15分ほどで到着した。


 ピンポン――


「あ、瑠璃ピザきたぞ?」


「先輩っ! きましたねっ!」


 彼女はソファの上で正座をして、体をリズミカルに揺らしている。


 なんでそんなキラキラした純情な目で見てくるの……。

 あ〜玄関まで取りにいけってことかな?


「よいしょっと!」


 俺がおじさんのような掛け声とともに立ち上がると彼女は間髪入れずに、


「お願いしますねっ!」


 そう力強く言ってきた。


「へいへい、いってきます」


 そして俺はそそくさと玄関に向かい、現金とピザを交換したのだった。


「はい、ピザ届きましたよ〜」


 そう言って俺達が座っていたL字ソファの前にあるテーブルへ置いた。


「やったーーっ! ピザだピザっ! 早く食べましょ?」


「あぁそうだなぁ。俺も腹減った――っ!」


 と口にした途端、ポケットに入れてあるスマホが激しく振動している。

 この振動のタイプは電話だな。


 取り出して宛名を確認すると、


「あ、紗夜さんだ!」


「え、何? 女ですか?」


 瑠璃はさっきピザを見ていた時のキラキラした目とは裏腹に、冷え切った視線を送ってきた。


「いやいや、職場の先輩だって。知ってるだろ?」


 俺なんで浮気したみたいな返答してんだろ……。


『もしもし、戸波です』


『あ、海成くん? お疲れ! ダンジョン無事に終わった?』


『はい! 問題なく』


『よかった。事務所帰ってきてないって聞いたから心配で』


『あーちょっと疲れて直帰させてもらったんです』


 ここで瑠璃のことを言われると色々勘繰られる。

 ネクサリウスのことだって話せないし、この回答がベストだろう。


『そう、それならいいの。ただ今度からはダンジョン攻略できたら一報入れてほしいな。メッセージだけでもいいからさ』


『あ、そうですよね。すみません』


 彼女の声は少しいつもと違い、弱々しい声色だった。

 もしかしたら今日が正式なダンジョンソロだったこともあって不安にさせたのかもしれない。

 明日会ったら改めて謝らせてもらおう。


『無事なら大丈夫よ! 気にしないで! それより明日は11時に事務所来れる?』


『はい、行けますけどダンジョンですか?』


『いや違うの。咲宮ねる、彼女を紹介しようと思って』


『あ、たしか凛太郎の指導者だって』


『そうそう、その子。明日なら会えそうかなって』


『わかりました!』


『じゃあまた明日ね』


『はい』


 その会話を最後に通話を終えた。


 咲宮ねる、か。

 変な人っぽいし緊張するな。


 あ、それよりピザ!

 そう思って視線をやると、ピザを咥えた瑠璃が未だ尚、俺を冷ややかな目で見ていた。


「へんぱい、もうえんわおわひまひた?」


 ピザを咥えているのではっきりと言葉を発せていない。

 けどなんとなく言いたいことは分かる。


「いやいや、業務連絡だろ」


 だからなんで俺は言い訳をしているんだ……。


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