今日は大型ダンジョンに挑む日だ。
もしかすると実力不足すぎて見学だけになるかもしれないが。
まぁでも紗夜さんいわく大型ダンジョンというのは広大なマップ故に目的は一度での攻略という訳ではなくて、ダンジョン内の土地やモンスターの把握が主になるらしい。
だからそんな気を張り詰めないでね、とのこと。
そう言われても緊張はするけどね。
そんな俺達は今、そのダンジョンが現れたと言われている横浜の公園に来ている。
時刻は12時45分。
攻略開始まであと15分ってとこだ。
昨日は紗夜さんと横浜デートだと思うと、夜も眠れなかった。
まぁ眠れなかった原因はそれだけじゃなく、スキルを習得したりで忙しかったのもあるんだが。
これが昨日の成果だ。
「ステータス」
名前 戸波 海成
階級 E級冒険者
職業 マジックブレイカー
レベル 41
HP 500/500
MP 50/50
攻撃力 200
防御力 100
速度 100
魔攻 50
魔坊 50
マナポイント 21
▼ 通常パッシブスキル(残りポイント1230)
【身体強化 Lv 7】 【隠蔽 Lv 10】
専用パッシブスキル
【不屈の闘志】 【自動反撃】【鑑定眼 Lv 1】
【魔力吸収】 【貯蔵 Lv 1】
通常攻撃スキル
【疾風烈波】【正拳突き】【氷雪波動拳】
専用攻撃スキル
【アークスマッシュ】【炎帝の拳】
貯蔵スキル
【咆哮】
D級の大型ダンジョンで対抗するにはどうすれば良いか色々考えた。
もちろんマジックブレイカーではなく武闘家として。
変に目立ってしまうと一瞬で脳みそ啜られてしまうし。
それを考慮してのステータス強化。
内容は攻撃、防御、速度数値の底上げと攻撃スキル習得。
数値に関しては攻撃に重きを置いてマナポイントを割り振った。
スキル習得については【氷雪波動拳】と【炎帝の拳】。
一応属性技ということで取り入れた。
威力も高いっぽいし。
今回のダンジョン攻略では、武闘家でも使える通常攻撃スキルと単純なステータスで戦っていこうと思う。
「海成くん?」
「え!? あ、はい!」
「どうしたの? 急にステータスなんか開いちゃって」
「あ、えっとダンジョン前に自分のスキル確認しとこうかな〜って」
「おおっ! いい心がけだね! 私も難しいダンジョンに行く前にはよく行ってるの。そういうの大事だと思う」
「紗夜さんくらい強くても事前に確認したりするんですね」
「いいえ、私は強くない。これじゃ守りたい人も守れないよ……」
彼女は少し浮かない表情をしている。
「紗夜さん?」
「ううんなんでもない。ごめんね、ダンジョン攻略前だから緊張してるのかなぁ。あ、ちょうど人も集まり始めたみたいだね。海成くん、行こ?」
紗夜さん少し様子がおかしい?
普段が明るいから、そのギャップを感じただけか?
いずれにしても近くで彼女の様子をチェックしておこう。
そうして俺と紗夜さんは公園の隅に集まっている冒険者らしき集団の元へ向かった。
人数は俺と紗夜さん含めて6人。
男4人の女性2人と合コンをするには不揃いだ。
いや、しないんだけどね?
というか大の大人が公園の端に集まった様子は異様な気がするし、早くダンジョンに入りたいんだが。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、自己紹介が始まった。
ほら、ここ普通の公園だから小さい子供達とかそのお母さん集団とかもいるしさ。
やっぱちょっと見られてるし。
「ボクは魔法剣士をしているD級冒険者です。本部所属1年目で、得意な魔法は……」
あーほらほらお母様達、コソコソ耳打ちしながらこっち見てるって。
きっとあれだ、「あの人達こんな平日に何やってるのかしら? 仕事もせず冒険者ごっこ? ご両親もかわいそうにね」
こんなことを言われている。
そりゃ平日の昼間に魔法剣士とか言ってるやつなんて傍からみるとヤバい人だもん。
あ、ちょっと自己紹介してる彼も周りから見られてるの気付いたみたい。
顔を赤らめて、声もちっちゃくなってるし。
「あのーここじゃ目立つし、もうダンジョン入りますか?」
そう声を上げたのは、自己紹介中の彼ではなく、ワイルドに顎ひげを生やした30代くらいの男性冒険者だ。
そんな彼からは異様に落ち着いた様子が伺える。
相当実力を持っているのかもしれない。
「そ、そうですね。人目につく場所ですし、ダンジョン内で時間あればということで」
彼の提案に紗夜さんは、間髪入れず賛成の意を示した。
「おーこれは第2支部所属、B級冒険者の相羽紗夜さんではないですか。お初にお目にかかります、私は独立ギルド《|翠楼組《すいろうぐみ》》の代表、池上と申します。そして私の横にいる男は同じギルドの浦岡です」
「うっす 」
小さな声で浦岡とやらは挨拶を交わしてきた。
そして池上は紗夜さんに自己紹介した後、握手を求めている。
「は、初めまして。どうして私のことを?」
彼女は一応警戒しながらゆっくり彼の手を取った。
「いえ〜B級冒険者以上の方は数少ないので、全員把握させて頂いているんです。これでもギルドの代表ですからこれから何かと関わりもあるかもしれませんし」
池上は紗夜さんに対してワイルドな顔に似合わない爽やかなスマイルを向けている。
くそ、ただの女好きじゃないか!
俺の先輩に許可なく触れやがって。
そんな俺の視線に気付いたのか、
「おや、新人さんですか? 頑張ってくださいね」
池上は俺にも満面の笑みで握手を求めてきた。
「戸波海成です。こちらこそお願いしますね!」
こちらも満面の笑みで手を握ってやった。
顔、引き攣ってなかったらいいけど。
というかなんで新人さんって分かったんだ、この人。
まさかねむさんみたいに俺のことを鑑定してきた?
一応【隠蔽】で初心者っぽいステータスにはしてるからな。
……待てよ?
俺のこの【鑑定眼 Lv 1】って他人も見れるんじゃ?
あまりその気がなかったし、あったとしても人のプライバシーを覗いている感じがして気が引ける。
でもねむさん、さっきの池上とやらは明らかに俺のことを鑑定したと思われるし、冒険者界隈ではそれが普通なのか?
ゲームでも他のプレイヤーのステータスだって見れたりする。
そんな感覚に近いのなら覗いてもいいのかもしれないな。
「さぁ、みなさん、ダンジョンへ向かいましょう!」
池上はそうみんなに声をかけると、全員賛同したようで、それぞれ頷いたり声を上げたりなど肯定の意を示した。
そして全員を率いて異空間へ向かう池上に俺は背後から、
(鑑定眼!)
心の中で彼に焦点を当てたのだった。