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第29話 池上って人、怪しくない?


「あの池上って人、どう思う? 」


 紗夜さんがそう質問するってことは彼女自身何か引っかかっている。

 そういうことだろう。


 実際、俺もステータスを見たとき名前の横についていたマークが気になっている。

 あとは……なんか顔が胡散臭いっ! 話し方もワイルドな見た目に合ってない! 

 俺

 あのマークに関しても、【鑑定眼】でしか見れないものという可能性がある以上、安易には話せないしな。


「うーん、今のところ笑顔が不気味なくらいですかね?」


「そ、そっか」


「何か引っかかるんですか?」


 前まで聞こえないようにコソコソと訊ねる。


「合同ってね、言葉の通りみんなで攻略するんだけど、報酬は等分ではないんだ。ダンジョンボスを倒したり、より広い範囲を開拓したりと成果を残した人が多くもらう仕組みなんだけど、独立ギルドを開設する人達って基本的に多大な報酬目的の人がほとんどなの。別にそれが悪いわけじゃない。独立した人達は会社の枠組みから出て、なんの補助も受けられないんだからそれで当然だと思うし。でもあの人達は何か違う。2人ともB級なら2人で攻略する方が楽で早いでしょうに。ただのお人好しって言ったらそれまでだけど、なんか違和感があるのよね」


 やっぱり紗夜さんはいっぱい考えていた。

 つまりあいつらが今俺達を先導していることになんのメリットもないわけか。


 人間は利がないと動かない。

 そう過程すると、今この状況にヤツらなりのメリットがあるってことになる。

 紗夜さんはお人好しといえばと言っていたが、今の話から独立した人がお人好しなわけがない。


「それを聞くと怪しさ増し増しですね」


「そう! そうなの! やっぱりおかしいよね」


 彼女は意見に同調した俺を見つめ、何度も頷いている。

 自分の意見が正しいことをこれ以上疑わないようにそうしているのだろうか。


「紗夜さん、変なタイミングですみません。鑑定って相手のことどこまで視えるんですか?」


「え? 本当に変なタイミングね。まぁ説明してなかったし、ちょうどいいか。鑑定ってのはレベル10まであるんだけど、基本的にそこまでは必要ない。5くらいで充分実用的よ」


 彼女の説明によると、


 レベル1 モンスターのレベルは分かるがステータス全般は視えない。

 レベル2 それに加えてモンスターのHPやMPが視えるようになる。

 レベル3 モンスターのステータス部分が視えるようになる。

 レベル4 冒険者にも鑑定が適応になる。

 レベル5 冒険者含めて習得済みのスキルや弱点などが視えるようになる。


 レベル6以降は大きく能力は変わらず、【隠蔽】対策らしい。

 ほとんどの場合必要はないが、S級ダンジョンにもなればモンスターに【隠蔽】スキル持ちもいるようで、それ目的で習得している冒険者もいるって話だ。


 だがS級冒険者以外はそこまで必要はなく、基本的に習得したとしてもレベル5までで、かくいう紗夜さんも【鑑定Lv5】まで習得しているらしい。


「ありがとうございます!」


 俺の【鑑定眼】は池上のスキルやステータス全般が視えていた。

 弱点なんかは記載なかったような気がするが、今の話が本当なら俺のこのスキルは少なくとも【鑑定Lv5】相当はあるってわけか。


「海成くん、急にどうしたの?」


「あ、いや……それと自分の名前の後に『!』みたいなマークがつくことってあるんですか?」


「……!?」


 何気なく聞いたつもりだったが彼女は言葉を失う、そんな様子だった。


「……海成くん、それって誰のことを言っているの?」


 やっとの思いで出た彼女の声は少し震えている。


 そのマーク、そんなにヤバイものなのか?


「あ、えっと……」


 ここまで紗夜さんに話したんだ。

 それに彼女も思いの丈を話してくれた。

 よし、俺も【鑑定眼】のことだけは伝えよう。


「実は……」


「はーい! 皆さん!! ちょうど森を抜けて再び広場に出ることができました! この辺りで休憩というのはどうでしょう?」


「あーようやく休憩だ! 疲れたぁー!」

「ほんとほんと! でも池上さん達がいて助かったよね!」


 気づけば俺達含めた隊列は再び広い草原まで出てきていた。


 草原に座ってお茶を飲み始めた本部の冒険者を見て、自分がものすごく肩に力が入って、強張っていたことに気づく。

 それほどまでに壮絶な会話を繰り広げていたってことだ。


「ふ――っ! ちょっと休みましょうか」


 紗夜さんも同様だったようで、息を吐くことで自らに入っていた力を空気と一緒に抜いている。


「ですね……」


 そう言って、俺もその場に座り込む。

 なんというか張り詰めた空気から解放される瞬間という感じで一気に力が抜けた。


「海成くん! ここはダンジョンなんだし気を抜いちゃダメだよ?」


 この注意の仕方、いつもの紗夜さんだ。


「はいっ! 気をつけてますよ――っ!」


 それならと思い、俺もいつも通り調子に乗って返す。


「もうっ! 本当に分かってるの?」


 そのムッとした顔が可愛くてついつい調子に乗っちゃうのだ。


 あぁ、可愛い。

 そしてそれをみるといつもニヤけてしまう。


「すみませんっ!」


 俺はそのままのニヤけ顔で謝罪。


 これを毎回繰り広げている。

 俺が意図的に引き起こしているのだ。


 そろそろ本気で怒られそうだから控えるつもりだが。


「2人ともいい関係を築いているんですね」


 俺達にかけられた池上の一言によって背筋が一気に凍った。

 猜疑心を抱いている相手に真っ向から話しかけられたからだ。


 紗夜さんも同様なのか一瞬固まりはしたが、


「ええ、私達は徹底した教育を行っているんです」


 平然と言葉を返した。

 さすが紗夜さん、今まで色んな窮地を越えてきたのだろう。


「そういう意味ではなく、単純に仲が良いなと言いたかったんですがね。それと……戸波海成くん、少しお時間いいですか?」


「え、はい」


 咄嗟に返事をしたが、これってヤバイ?

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