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第41話 たしかにS級は存在する


 崩落し、入口が塞がった遺跡。


 剣身のない剣を構えているS級冒険者。


 その2つが揃ったことで起こること。

 俺には想像ができない。


「授業料高くつくぞっ!」


 いや、無理やり連れてきといて金とんのかいっ!

 と思ったが、腰も抜けてるしそんなこと叫ぶ元気もない。


 久後さんは剣を前に構え、


「【炎魔の太刀】」


 すると黒い炎が剣全体を覆い、それは徐々に剣身を創り出していく。


 すげぇ……。

 さっきまでただの柄だったのが、今はどう見ても黒い炎を帯びた剣。

 久後さんとは少し距離が離れているのにここまで熱気が伝わってくる。

 それどころかあの人の周囲燃えていってないか!?


「海成! お前近づくなよ? この剣、半径何メートルかまで燃やしていくんだ」


「うえっ! マジかっ!」


 久後さんを中心に黒い炎はさらに広い範囲、燃え広がっていく。


 ヤバいヤバい――


 俺の足元まで被害が及んできたので、急いで立ち上がり大きく後ろへ後ずさった。


 なにが何メートルかだ!

 俺だいぶ後に下がったよ!?

 しかも50メートル範囲くらい消し炭に近いし!


 そしてそんなえげつない剣でなにするつもりなんだ?

 もしかしてあの塞がった入口をこじ開けるのか?


 久後さんはその炎魔の太刀とやらを頭上に大きく振りかぶった。


 遺跡から少し離れてるのにどうするつもりだ?


「うおぉ――――っ!!」


 掛け声とともに剣を真下に振り下ろす。


 スパンッ――


 もちろん何にも当たることなく、風きり音だけが辺りに鳴り響いた。


「あれ、何にも起こってな……」


 ザシュッ――


 ドカンッ――


 入口どころか遺跡全体が真っ二つになり、その斬り口から黒い炎が広がっていく。


 ちょっと久後さん、これ災害レベルですよ。


「あーちょっとやりすぎたかな」


 さすがに彼も反省しているみたいだ。


 ドカンドカンッ――


 その威力は遺跡をも越え、後ろにある大きな山をも斬り崩した。


 これが……S級冒険者の力。

 全く追いつける気がしない。


 それから久後さんが持っていた炎魔の太刀はいつの間にかさっきと同じ柄のみになっており、周囲の炎も消え去っていた。


 あの黒い炎を解除すると、周りも同じように消えるようになっているんだな。

 ただ一太刀浴びせた遺跡やその後ろの山は未だに燃え続けている。


 スゴかった。

 この一言に尽きる。


 そんな久後さんが気づけば目の前にいた。

 あれ、さっきまでもう少し離れた場所にいたのに。

 そう思っていたが、それはきっと俺が放心状態になっていただけなのだろう。


「まぁこれくらいしねぇと中ボスレベルは死なねぇだろうよ 」


 彼は悪びれることなく頭をポリポリ掻きながらそんなことを言っている。


 まぁ誰に悪びれるんだって話だが。


「これじゃ中ボスさんが可哀想ですね」


 なんだか俺は向こう側に同情の念を感じる。


 そりゃ目の前の遺跡が真っ二つになり、今や全体に黒い炎が行き渡っているからだ。

 例えボス級と言えど生きてはいまい。


「なーに言ってんだっ! ダンジョンブレイクされたらどーすんのよ」


「ダンジョンブレイク?」


「なんだ? お前聞いてねーのか? ダンジョンからモンスターが飛び出しちゃうことをそう言うんじゃん」


 あ、そういえばアイリーンから聞いたぞ。

 ダンジョンブレイクという呼び名があることは知らなかったが、モンスターが外の世界に出ないようダンジョンを攻略する必要があるって。


「はい、聞いたことはありましたね! でも細かいところまでは教えてもらってないです」


「ま、簡単に言やぁ中ボス以上に分類されるモンスターがダンジョンから外の世界に出てくるんだ。それ以下のモンスターはあくまでボス級モンスターの下位に過ぎない。外の世界どーこーの知識なんざねぇヤツらだ。つまりボスさえ倒しときゃ問題ない」


「なんでボス級モンスターって外出てくるんですか?」


「んなこたぁモンスターに聞いてくれ! ん~まぁ仮説としてはダンジョン内でも特にボス級モンスターは放っておけば勝手に成長するらしいんだが、知能も成長していって外の世界に興味が出るんじゃないかとかなんとか」


 なるほど。

 ダンジョンの中でモンスターも成長していく。

 それが本当ならダンジョン攻略は迅速に行っていかなきゃダメじゃないか。


 ちょうど俺もダンジョンについての疑問は多い。

 この際だし、聞いてみるか。


「久後さん、ダンジョンってなんで出現するんですか?」


「おいおい海成くんよ、この俺がそんなこと知ってると思うか? そんなこと俺だって知りたい。というか冒険者してるやつみんな気になってるんじゃねぇかな」


 そうか。

 やっぱりこの世界、謎が多いんだな。

 それを解き明かすのも冒険者の仕事だってアイリーンも行ってたし。


「もーグダグダ話するのはやめて帰ろうぜ!」


「あ、はいっ!」


「じゃっ! 先帰ってるわ」


 久後さんが俺に手を振っている。

 え……ここから別々ってこたぁないですよね、旦那?


「よいしょっ!」


 久後さんはかけ声と共に自慢の脚力で再び空を駆けていった。

 ったくどんな身体能力してんだよ。


 ……じゃないじゃない。

 そんなこと言ってる場合じゃないって。

 俺ひとりじゃん。


「このクソ社長が――――っ!」


 その後もクソみそ叫び回った後、たまたま覚えていた帰り道を通って俺はダンジョンを後にしたのだった。




 ◇



 あれから1ヶ月後と少し。


 大型ダンジョンの仕事が一区切り済み、それからは平和なダンジョン攻略の日々がしばらく続いていた。

 久後さんにあんなことを言われなければ……。


「あ、海成! お前しばらくここ来なくていいよ?」


 な、なんてこったい!


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