目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第43話 研修1日目が始まります


 瑠璃に手を引かれて入った社内。

 そのまま1階エレベーター前まで誘導された。

 そこにはエレベーターが3台横並びになっている。


 そして真ん中のエレベーターが開く。


「では先輩っ! 私は上の階なのでっ!」


 そう言って彼女はぴょんっと乗り込んだ。


「えっ!? 俺も上の階じゃないの?」


「いえ、先輩は違いますっ! では後は冒険者様にバトンタッチということで」


 ウィーン


 彼女の乗ったエレベーターはゆっくり上の階へと昇っていった。


「なんだよバトンタッチって」


 すると、後ろから声が聞こえてきた。


「せーんぱいっ!」


 せんぱい?

 そんな呼び方するやつ1人しか知らないんだけど。

 しかし聞いたことある可愛い声だな。


「せーんぱいっ!」


 続いて、別の声主から同じ言葉が発される。

 セリフのチョイスにしてはえらく野太い声。


 つまり俺の後ろには男女2人がいることになるわけか。


 少し思いつく人達を想像しながら俺は振り向いた。


 そしてそこに立ってた2人は全く想像通り。


「ヨウスケくんとヒナさんっ!」


「お久しぶりですっ!! まさか戸波さんの彼女があの鑑定科の美女、西奈さんだったとは。感服致しましたっ!」


 ヨウスケはそう言って深々と頭を下げてくる。


「しかも先輩って呼ばせてたし。B級冒険者を倒せるほど強くてもそういう性癖みたいなのってあるんだ」


 続けてヒナから冷たい視線が飛んできた。


「いやいや、お2人さん? 何か勘違いなさってはいませんか? 彼女とは付き合ってるとかそういうのは何もないし、別に先輩と呼ばせてるわけじゃない。勝手に呼んできているだけだ」


 すると2人は同時に後ずさり、


「ええっ!? 戸波さん、付き合ってない女性と手を繋ぐタイプなんですか? ということは一夜を共に過ごしたくせに、『俺達付き合ってはいない。昨日のことは忘れろ』なんて言うんですねっ! 悪い男だったんだ……」


「しかもしかもっ! あいつが勝手に呼んでるだけだなんて全ての罪を西奈さんに押し付けてるっ!! 戸波さん実は女ったらしのダメ男だったんだね……」


「だ~か~ら~っ!! 違うっつってんだろっ!」


 2人は盛大に勘違いしている。

 これじゃどこから修正すればいいのかも分からない。


「すみません、冗談ですよ戸波さんっ!」


「ごめんね? それより早く祝勝会しようっ!」


「人をからかいやがって! ってそうか祝勝会。そんな話してたっけな」


 ダンジョンから脱出する時そんな話をしていたが、俺が久後さんに連れられたことで帰る時間もバラバラになり、話が流れてしまったんだった。


「戸波さん忘れてたの? ひどいっ!」


 ヒナは両手で目を擦り、すすり泣いている。

 明らかに嘘泣きだけど。


「いや、ごめんって。……ってそうじゃなくて! 早くしないと遅刻するんじゃないか!? 案内してくれよっ!」


「あ、そうでした。ごめんなさい。冒険者はこっちのエレベーターなんです!」


 ヨウスケが指差したのは目の前にある3台のエレベーターではなく、その向かいにあるひと回り小さいやつだ。


 大きな方は少なくとも10人は乗れるであろう立派なもの。

 それに対してこの小さい方はまぁ、5人乗れたらいい方かなという感じだ。

 しかもなんでこっちだけちょっとボロいんだろ。

 冒険者の扱いがちょっと気になってしまう。


「戸波さ~ん! 乗りますよー!」


 そう言いながらヨウスケはそのエレベーターに乗り込み、ヒナもその後を追った。


「え、ちょっと待って!」


 置いていかれちゃあ困るぜ。

 そう思って急いで飛び乗った。


 そしてそのエレベーターの階表示を見ると、


「え!? 地下しかない……?」


 しかも地下5階まで分かれている。


「そのとーりっ! 実は冒険者は普段地下で過ごしてるの。そして今から私達が行くのは地下1階!」


「すごい……。秘密基地みたいでかっこいいっ!」


 地下にある秘密施設。

 なんだか男のロマンが詰まってる響きだな。


「戸波さんっ! やっぱり分かりますっ!? 地下って男のロマンって感じしますよねっ!」


「あぁ!! もうすでにワクワクしてんだけどっ!」


「男の子の感性、全く分かんないわ」


 ヒナは興味無さそうに所在階表示を見ながらそう呟いた。


 そんなセリフを気にもせず、俺とヨウスケが高テンションで話をしている間に到着したようだ。


 エレベーターは地下1階を指している。

 というか1階降りるだけでわりと時間かかってたな!?


 開いたドアの先に広がるのはオシャレなオフィス……ではなく、縦横50メートルはくだらないほどの広い空間。


 鉄のようなもので固められた床と壁。

 冒険者同士が盛大に戦ってもビクともしなさそうだ。


 そしてこの空間の中心に冒険者であろう人達が数十人、いや百人以上何列もの隊列を組み、並んでいる。


 列を組んでいるということはもちろんその先に、この数の冒険者を率いているものがいる。

 これが鉄則だ。


『さぁ皆さん今日も怪我せずに頑張ってくださいねっ!』


 やはり誰かが先頭で皆に向かって話しかけている。

 あれは女性だ。

 それも、ものっそいお姉さん。

 もうそれはそれは色気がスゴい。

 あの紫のロングヘアもバツグンのスタイルも全てにお姉さん要素が盛り込まれている。


「あれは柳井 玲子やない れいこさん。本部の職責者のひとりであり、数少ないS級冒険者でもあります 」


 ヨウスケが説明してくれた。

 鼻を伸ばして。

 お姉さんオーラにやられたのか……?


 バシッ――


 そんなヨウスケにヒナからB級冒険者バリの拳が振り下ろされた。


「い、痛えっ!! ご、ごめんよヒナぁ……」


「ふんっ! ヨウスケくん玲子さんのこと大好きだもんね」


 まぁこれは……ヨウスケが悪いな。


 でもたしかにあの玲子さんという人から放たれるお姉さんオーラはすごい。

 ここにいる男冒険者はみんなデレデレだし。

 かくいう俺もドキドキが止まらない。


『あ、そうだ。ひとつ言うの忘れてたっ! 今日から第2支部から研修にきてます。ちょうど出勤されたところみたいなので、挨拶してもらおっかなぁ。こっちおいで?』


 彼女がしている手招きすらエロく感じる……のは果たして俺が悪いんだろうか?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?