玲央が振り下ろした拳による地割れ。
それによって会場の床はボロボロ、あの場と空間を繋げている転移魔法陣までもが破壊される始末。
つまり控えの選手ですらあそこへ行き来できなくなってしまったのだ。
幸い観客は結界の中にいるため被害もない。
それにこの結界、床下にまで仕込んでいたことでこの階が崩れてしまうということは避けることができた。
「きゃ――――っ!! ヨウスケっ!!!!」
「おい、あの人何してんだ!?」
「試合は終わったんじゃないのか?」
「会場めちゃくちゃじゃねーか!」
「ヨウスケは? どうなったんだよ!」
といっても会場はパニック状態だ。
ヨウスケは大丈夫か!?
肝心のステージは地割れにより浮き上がった砂埃でよく見えない。
が、それもすぐに晴れてきた。
「ヨウスケ――ッ!!」
俺も必死になって叫び、彼の安否を確認する。
しかし反応はない。
ようやく明るみになった会場には血に塗れた拳を再び振り下ろそうとする玲央の姿。
「強度はまぁ悪くない。念のためもう一度振り下ろすか」
あいつ、ヨウスケにもう一発入れようとしてるぞ!
「おい! やめろっ! お前紗夜さんの弟かなんか知らないけど調子乗るのもいい加減にしろよっ!!」
俺の声に対してその拳を一度納めた後、こちらに視線を向ける。
「紗夜……? あぁ第2支部の研修生か。俺にそんな口をきくとは。お前のような身の程知らずはそこで黙って見ていろ」
そしてそのままもう一度拳を振り下ろした。
ドスッ――
「もうやめて――――っ!! ヨウスケが何したっていうのよ……」
その場でヒナは泣き崩れてしまう。
そこにすかさず瑞稀が慰めに入る。
いつも明るい彼女だが額には大きな青筋が入り、鋭い目つきで玲央を睨んでいる。
心中穏やかじゃないって様子だ。
「おい、結界班っ!! この結界退かせっ!! あいつぶちのめさな気ぃすまん」
それは俺も同感だ。
一刻も早くヨウスケを救いたい。
「俺からも頼む! この結界どかしてくれ!」
「そ、それは無理なんです……」
一番近くの結界班員がそれに答える。
「なんでや!?」
「皆さんもご存知の通り、この結界は床下まで張り巡らせています。今解いてしまうとこの階ごと崩落してしまいます」
「……ほなどうしたらええねんっ!」
瑞稀はその怒りを拳にのせ、結界にぶつける。
そしてその崩落という単語に周りの冒険者は慌ただしくし始めた。
もちろん俺の心境も穏やかではない。
紗夜さんの弟だどうだなんてものは関係ない。
ヨウスケに与えた同じ……いやそれ以上の苦痛を味わわせてやる。
だが、まずはどうにか向こうに行かなければいけない。
瑞稀は結界班員の言葉を無視し、彼女の技【 我流拳技・樹海の手 】で思いきり殴り込んだ。
それを見て、「おい、やめろ」と止めようとする冒険者も現れ、ちょっとした乱闘騒ぎになり始める。
あの技でも結界はびくともしないとなると威力どうこうで突破できるものではないな。
なら魔力吸収で……と思ったけど、全ての結界を吸収してしまったらヨウスケを助ける前にこの階が崩落してしまう。
「くそ……。一部だけ魔力吸収できるなんてそんな都合のいいことはないですよね〜ステータスさん」
(いえ、できますよ)
おおう……。
久しぶりだったので少し不安だったけど、返答してくれた。
まったく便利なものだ。
「ちょっと待て。それでこの結界が崩れたりしないよな?」
(この結界は4人の術者が魔力を込めて創り出したもの。人1人分の穴を一瞬作る程度では崩れないと思われます)
ステータスさんがそういうなら信じてみるか。
どのみちこのままではヨウスケが殺されてしまう。
「ちょっと海成くん、何を一人でごちゃごちゃゆーとんの? 一刻も早く助けに行かなあかんのに!」
周りに押さえられたこともあって少し頭が冷えたのか樹海の手を引っ込めた瑞稀が声をかけてきた。
「あぁ、その助けに行く方法を考えてたんだよ。ちょっと行ってくるわ」
「ちょっと待って! 海成くんだけで行くん? ウチも連れてってーや!」
「ごめんだけど一人通れる穴がギリギリだと思う!」
「穴? なんかよー分からんけどこの結界を通るすべを見つけたってことやな?」
「そういうことだ! じゃあ行ってくる」
俺はそれからすぐ結界と向き合い、手をかざす。
えっとたしかステータスさんからの話では魔力吸収を一瞬のみ発動させるとかなんとか……。
そんな細かな調整ができるんだろうか。
0.1秒とかって言ってたっけ。
……まぁ考えても仕方ない。
いくぞ。
魔力吸収――
本当だ、本当にできた。
結界に一瞬だけマンホール大の穴があいたのですかさず俺は体をくぐらせる。
「よっと、なんとか通れたな」
ドンッ――
鈍い音がしたので振り返ると、結界に顔面を直撃した瑞稀の姿が見えた。
あぁ……なんか静かだと思ったら、こっそりついてくるつもりだったんだな。
しかし本当に一人しか通れなかったか。
「物理への強度はまぁまぁってとこか。なら次は斬撃」
そう言って玲央は再び大剣を抜く。
おいおい、斬撃ってことはあの大剣でヨウスケを斬るつもりじゃないだろうな。
その嫌な予感は見事に当たり、その振りかぶった大剣を打ち込もうもしている。
これ以上は傷つけさせない――
「ヨウスケ――――ッ!!!」