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1-13.遥には適性がある

 授業中、ラフィオは鞄の中でおとなしくしてくれていた。俺のスマホを触って、なにかを見てるようだった。あまり使いすぎるなよ。充電と通信量がもったいない。


 昼休みになると、俺はラフィオを素早く掴んで校舎裏まで走った。


「悠馬! あの子を魔法少女にしよう! 適性は十分だ!」

「マジか……いや、無理だろ。だって見ただろ? 片足がないんだぞ?」

「問題ない。変身すれば生えてくる」

「マジか」

「変身した人間の体を、最良のものにしてしまうからね!」


 腰が曲がった婆さんでも戦えるようになるって言ってたな。


「彼女は見たところ車椅子生活を苦にしていない。けど、きっともう一度自分の足で走りたいと思っているはずだ! 叶えてあげよう!」

「それは……」


 ありえそうな話だ。もし遥がそんな誘いを受けたら、間髪入れずに乗るだろう。

 わかってる。遥の気持ちを考えれば、魔法少女に誘ってやるべきだけど。


「考えさせてくれ」

「考える暇はない! 魔法少女をあとふたり、すぐにでも見つけないといけない! できればこの学校で!」

「随分と必死だな」


 公には秘密を隠しながら活動なら、俺か愛奈の知り合いで魔法少女を揃えるのが一番いいのは理解できる。秘密を知る人間は少なければ少ないほどいい。

 けど、この学校で見つけたがる理由は。


「今日のうちに見つけるぞ! あのモフモフ狂いと再び関わってしまう前に、魔法少女の枠を埋めてやるぐえっ」

「それが理由か」


 モフモフ狂いとは、つむぎのこと。何があっても彼女を魔法少女にして自分と関わる事態を止めたいらしい。


 なんて私的な理由なんだろう。


「僕は嫌だからな! あんな悪魔を味方にするのは! 絶対に嫌だからな! そもそも、あいつは魔法少女になるには幼すぎる! 小学生を戦いの場に連れ出すなんて危険だ! 僕は人道的見地から言ってるんだ!」


 お前、朝は小学生の方が向いてるかもと言ってただろ。


「わかったから。食堂で飯食うから、その間は静かにしてろよ」

「そ、そうか。いいだろう。とにかく小学生は戦わせられないことだけわかってくれ」


 それなら、高校生だって戦わせたくないのが俺の素直な気持ちだ。特に遥は。

 あと自分の姉も戦ってほしくないからな。



「悠馬! 一緒に帰ろっ!」


 今日の授業も、体育の時間の身体測定もつつがなく終わり、放課後になる。

 その間、遥と会話することはなかった。それぞれ、別に友達はいるもんな。


 ラフィオは適性のありそうな女子生徒を何人か見繕っていたけど、話しかけさせるのは断固として拒否した。


 そしてホームルームが終わった途端に遥が話しかけてきた。

 珍しいことじゃない。遥とは家が近いし、帰りもバスだ。俺も遥も部活はしてないし、放課後どこかに遊びに行くとかではない限りは一緒に帰ることになる。

 その方が遥にとっては楽だし。坂道とかバスの乗り降りとか。


 けど今日は、ちょっと遠慮したい気分だった。


「あー。ちょっと用事があるんだ。ごめん」


 申し訳なさそうな顔を作って断りの言葉を口にした。本当は用事なんかないんだけど、一緒にいるとラフィオがうるさいから。

 正確には、今もうるさい。鞄の中で暴れてるのを、俺は片手で押さえている。そろそろ握力が限界だ。


「そっかそっか。……もしかして、デートとか?」

「違うから。なんでそうなるんだよ」

「だよねー。悠馬にそんな女の子いないもんねー。じゃあ、また明日!」


 なんかムカつくことを言いながら、遥は車椅子を操作して教室から出ていく。俺も教室から出ながら、さっきと同じく校舎裏に向かう。


「ぷはっ! なにをするんだ! せっかく勧誘しようと思ってたのに!」

「そんなこと言われても……なんというか、気が進まない」

「事情を説明するのが難しいかい? だったら僕がやるよ」

「そうじゃなくて。クラスメイトが怪物と戦うっていうのが、なんというか、嫌だ」


 休み時間に、スマホからニュースサイトやSNSをいくつか見た。昨日の件の話題があちこちで盛り上がっていた。


 怪物を倒してくれた謎の女を応援する声も多かった。大勢の人間が怪物の再来を恐れて、姿を知らない魔法少女に期待をしていた。

 朝も話した通り、警察とか自衛隊とかに頼めば良かったのに。知らない大人が戦うなら、俺は呑気に応援できるだろう。


「俺、無責任なのかな。世界を守る戦いにとっくに巻き込まれてるのに、それに乗ろうとしないのは」


 でも車椅子のクラスメイトや、俺のために頑張ってくれてる姉が関わるのに、抵抗はあった。

 姉ちゃんは既に巻き込まれて、戦う覚悟を見せてくれた。けど、今日も寝坊して遅刻するような人間に戦いの負担を強いるのが、どうしても気が引けてしまう。


「……そうか。ゆっくり考えればいいよ。それより悠馬。大きめの食料品店に行きたい」

「どうした急に」

「愛奈から食事作りを頼まれたんだ。拙くてもやらなきゃね。これでも君が授業を受けている途中、色々調べたよ」

「ずっとスマホ見てたと思ったら、そんなことしてたのか」

「魔法少女関連の話題を見るついでに、だけどね。ちなみに書き込める所には応援の言葉も書き込んだ。世間が魔法少女を認知するように」


 それがラフィオの目的のひとつ。


「あと、魔法少女が全部で三人いて、それぞれ美人だけど小学生ではないってこと、ほのめかしぐえー」

「余計なことを書き込むな」

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