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2章…第10話

「…どうしてこんなものが?」


「…」


「吉良、もしかして私…疑われてる?」


吉良はふふっと鼻で笑ったけど、それは怒ってる…とか不愉快に感じているそれではないので安心した。


「…覚えない?これ」


まだ手のひらにのせられたものを軽く揺するから…


「え?…もしかして…」


言いながら顔が赤くなる…。

数日前の香里奈さんとのやり取りを思い出して…それが確信になった。


…でも、どうやって。



「香里奈が、憂にとんでもない頼みごとをしたらしいんだよ」



今日は休日の吉良。

昨夜は、私を先に寝かせたあと、リビングで憂さんと長いこと話してたみたい。


香里奈さんは帰ってきたのかな…

吉良に促されてリビングに行くと、もう憂さんはいなくて、私をソファに座らせた吉良がコーヒーを淹れてくれた。


「昨日突然憂さんが来たのは、香里奈さんに用事があったってこと?」


「いや、正確にはモネに用事があった」


「私に…?」


「香里奈は憂に、モネを襲うよう頼んだんだ」


「…っ?!」



一瞬、喉が張り付きそうになった…


憂さんは香里奈さんから「吉良と恋人の仲を、引き裂いてほしい」と頼まれたという。


そこで昨日、どういうことか確認してみようとここへ訪れたらしい。


『今、家には桃音だけしかいないから、今すぐ襲いに入って』


憂さんの携帯に、香里奈さんからメッセージが入ったらしい。


…そういえば、部屋の写真を撮りながら、メッセージを確認している素振りはあった。


でも私は…襲われなかったどころか、そんな雰囲気を感じもしなかったけど…



「…話が尽きちゃって、少しだけ不安になったけど、憂さんはずっと優しく話をしててくれただけだった…」


「当然。俺の親友がそんなことに加担するはずない」



それでも、昨日帰った時点では何も知らなかったから、吉良も本気で不機嫌になったという。



「…何にもないよ?」


「わかってる。でもあんな近くにいて腕つかんでれば、ムカつくし不機嫌にもなるだろ」



うん…ごめんね、と言いながら、淹れてもらったコーヒーをひとくち飲んだ。


私のは牛乳が入ってて、吉良はブラックコーヒー。ピンクとブルーのマグカップ。


そんなおそろいに、ふと口元が緩みそうになっていると、吉良はさっき手のひらにのせていたものを指差して言った。


「…コイツは、俺たちの…っていうか、俺の…事後のやつだ」


「…そ、そうだよね」



また、顔が赤くなる…


数日前、買い物に出かけて帰ったとき、荷物を冷蔵庫に入れようとして、テーブルになにかをくるんだティッシュが置いてあるのを見た。


あの時ちょっとだけ…前日の吉良との夜が脳裏に浮かんで、無意識に手に取ろうとした。


そしたら、香里奈さんにすごい勢いで触るな…と言われたのを思い出す。



「…もしかしたら、ソレをゴミ箱から取ってきて…今回私が憂さんと何かあった証拠に使おうとした…?」


「…多分な。まだ、白状させてないけど」



あの日、買い物で外出した私の留守に、部屋のゴミ箱を探せば見つけるのは簡単だろう。


でも、そこまでして私を遠ざけたかった香里奈さんを思うと…複雑な気持ち…


人生で、多分初めて…こんなに人に嫌われてる。



「香里奈は、昔の憂のイメージで依頼したんだろうな」



吉良は私の頭を撫でながら、香里奈さんが憂さんに頼んだ恐ろしい依頼について推理を始めた。


香里奈さんは、吉良の親友3人をよく知っていた。全員昔はかなり尖っていて、特に憂さんはタチが悪かったから、計画に喜んで乗ってくると思ったんだろうと言う。



「俺らは相当なワルだったから…俺が憂にモネを紹介しているとは、思わなかったんだろう」



…いくら吉良の友達って言ったって、さすがに初対面の男の人が来て、ドアを開けるなんてしない。



「…それじゃ、私は知らない人なのにうっかりドアを開けると思われてて、そして襲われるって筋書きだったってこと?」


「多分そう。…モネ、ここは怒っていいところだからな」


「う…うん」



昨日出かけてから、香里奈さんは戻ってきていないという。



「言い逃れできないように、憂も仕事が終わったら来てくれることになってる」



わかった…と返事をしながら、さっきから存在感がすごいアノ証拠を、パッと取って立ち上がった。



「…まだ捨てないで」


「…え?」


「一応香里奈に突きだす。証拠だからな」


「そっか…」


「…顔赤いぞ?」


「…っ!?」


「こんなの見たら、アノ時のこと…思い出す?」



からかう吉良の腕をバシバシ叩いて…私は洗濯を理由に立ち上がった。





…香里奈さんが戻ってきたのは、夜になってからだった。


ドアが開く音がして、私はすぐに玄関を開けに行く。



「お、お帰りなさい、香里奈さん。ちょっと今日は、お話ししたいことがあります」



いつになく強い調子の私に驚いたのか、香里奈さんはその大きな目を私に向けた。



「なによ?…久々に徹夜で眠いんだけど」



すべて憂さんによって明かされたと思っていないのか、まだ強気の香里奈さんにさすがに呆れる。



「…何でまだいるのよ?自分の無用心が原因で、他の男にやられたんでしょ?…早く出ていきなさいよ!」



そうか…そういうことか。

香里奈さんにとって憂さんは、まだ相当なワルのままなんだろうって、吉良が言ってた。


だから自分の悪事がバレてるとは思わないんだ…。


そこへ玄関のチャイムが鳴って、憂さんが昨日と同じように、少し寒そうにしながら玄関に入ってきた。



「よぅモネちゃん!…2日続けて美女に会えるなんて嬉しいなぁ…」


「あ…また適当なこと言ってますね?!」



私と憂さんのやりとりを見ていた香里奈さんが、少し不思議そうに見ていることに気づく。



「憂、早かったな?…撮影は予定通り進んだのか?」



奥から吉良も出てきて役者がそろい、香里奈さんは私たち3人の様子に変化がないと感じたと思う。


それは…自分の作戦が失敗に終わったということで、香里奈さんの顔色はみるみる青ざめていくのがわかった。



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