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2章…第12話

「やっと2人になれたな」


憂さんと3人で食事に行って、店を出たところで別れ、私たちは家に帰ってきたところ。


「うん…そうだね」


吉良のホッとした顔にうなずきながら、結局香里奈さんと仲良くはなれなかったことを思う。


一緒にチーズケーキを食べながら、吉良の子供の頃の話を聞いた時は、秘密を共有し合うような気持ちになれて…ちょっと嬉しかったんだけどな。


香里奈さんも…本当に吉良を好きだったんだな…と思いながら、いつか…香里奈さんと今回のことを笑って話せる日が、果たして来るのかと考えた。


そう遠くない未来に…来るといいと思う。


それは、香里奈さんが吉良以外の男性に愛されて、幸せになった証だから。




………


「いろいろ我慢したから、一緒に風呂入るか?」



誘う吉良の顔は爽やかで、色っぽい雰囲気は皆無。アヒルが浮かぶお風呂で遊べそうなほど無邪気だ。



「いい…けど」



そんな雰囲気に流されて返事をしてみれば、ちらっと横目で見てくる目つきがもう色っぽい。



「お?…珍しいな」



確かに。

私は今だに一緒にお風呂に入るのは恥ずかしくて…すぐにOKすることはなかった。


吉良に妖しく微笑まれて、さっきの爽やか無邪気はどこへいったのかと…少しだけ騙された気分になるけど、時すでにおそし。


ガッチリ手を繋がれて、バスルームへと連れ込まれた。





「…俺は別に、スケベ心だけで風呂に誘ってるわけじゃないからな?」



脱衣室で仲良く服を脱ぎながら、吉良が言い訳みたいなことを言う。



「別に、スケベが嫌なわけじゃないよ…ただ、恥ずかしいだけで」



吉良は基本、明かりを消してくれない。理由は「暗いと危ないから」と至ってシンプル。かつ…まとも。


なのに、いざ意を決してお風呂に飛び込んでみれば、待っているのは…めくるめく官能の世界…



「そんなこと言って赤くなるから、余計に触りたくなるんだよ」


「それは、よく聞くけど…」



私の返事にスッと冷たい反応をした吉良。



「よく聞くって…誰に聞いた?男の本音を男に聞いたってことか?」



商店街の親父か?…と迫ってくる吉良の目は笑ってるけど、ちょっと本気なのはわかる…!



「ち…違うよ!」



慌てて訂正する私の手を取って、脱ごうかどうしようか迷っていたブラを取られた。



「中途半端な格好はけっこうクるから、気をつけて」



あとは…私も吉良も下着1枚。


吉良の手が伸びてきて抱きすくめられた瞬間…携帯の着信が鳴り始めた事に気づく。



「吉良じゃない?お母さま?香里奈さん?」


「…全部終わってから連絡するからいい」


「もしかして、憂さん…かも」


「…絶対に出ない」



話す間にもあちこちに手が伸びてきて、少しずつ私にも余裕がなくなった頃…



「あ、着信、私の携帯だ」


「…」


「ちょ…吉良、長い事鳴ってるから…もしかして内定先からかも…」



渋々ながら…やっと離してくれた吉良。余裕のない目が私をとらえて、その色気にハッとする。



「…じゃ…先に入ってるから。すぐ切って、入って来いよ」


「わかった…」



私にバスローブを羽織らせて、吉良はさっと自分の下着を脱いで浴室に消えた。


…一瞬後ろ向きの下半身を見てしまった事は内緒…!きゃんっ!




相手を確認もせずに出てみると、「モネ?ごめんね、忙しかった?」と母の声が聞こえた。



「お母さん…!どうしたのこんな時間に?めずらしいね」


「うん…それがね、厄介なことを頼まれちゃったのよ」



母の困った顔が浮かぶ。

…もしかしたら、という予感が私にはあった。



「もしかして、依子おばさん?また何か言われたの?」



依子おばさんというのは同じ市内に住む母の姉で、私も小さい頃からとても可愛がってもらった伯母だ。


でも妹である母には、何かとわがままを言って困らせることがあるのはよく聞く話。



「うん…聖也がね、もうすぐ大学に入学するじゃない?」


「そうだよね。私の後輩になるんでしょ?お兄ちゃんとお祝い渡したよ」


「その聖也が…東京で一人暮らしするんだって」



聖也というのは依子おばさんの息子で、私の通う大学に合格したという知らせは、まだ記憶に新しい。



「大学の寮に入るんでしょ?確か私もおばさんに頼まれて、パンフレット送ってあげたけど」


「それが今になって、寮は嫌だって言ってるらしいのよ。…それで依子姉さんも困って、慌てて東京の物件を探してるらしいんだけど…」


「今から…?大学近くのアパートはかなり埋まってるでしょ?」



すると母が少し黙ったので、次に何を言われるか、ちょっとわかった気がした。



「そうなの。それに、聖也がアパートは自分で納得のいくところを探したいって言ってるらしくて…」



あぁ…予感的中かも。



「桃音のところ、確か2つ部屋があるでしょ?…そこに、聖也を少し置いてやってくれないかって、依子姉さんに頼まれて…」


「…そういうことかぁ…」



せっかく2人のマンションを借りたのに…なかなか2人きりになれない現実。

しかも今度は私の従兄弟が、こんな事情でしばらくの同居を頼んでくるなんて、まったくの想定外…



「とりあえず、吉良に相談してみないと…」



社会人になったら、私もマンションの家賃を半分払うつもりだけど、今は何から何まで吉良にお世話になってる状態。


そりゃ、お父さんもお母さんも、吉良に渡すようにって…お金を送ってくれてるけど、吉良は受け取らないし…



「そうよね。…まずは話してみてくれる?…それと」


「わかってる。依子おばさん本人からも、電話が入るかもね」


「そういうこと…!悪いけど、頼むわね」



母は吉良にくれぐれもよろしく、と言って電話を切った。


…思わぬ事態を抱えつつ、私は吉良が待つバスルームへ向かう。





「…ご、ごめんね。…あの、入るから…目を閉じてもらえる?」


「…ん」



そっとドアを開けると、バスタブのお湯はミルキーピンク。

…私と一緒に入る時はいつもお湯に入れば見えなくなるミルキータイプの入浴剤を使ってくれる吉良…大好き。


目が閉じられていることを確認しながら、さっとお湯を浴びて、バスタブに急いで入る。


…今日は先に入ってる吉良の位置的に、私は前に入るみたい。



「電話、誰?」



お湯に入ったとたん、後ろから吉良の腕が巻き付いてきて、耳元に低い声が響いた。






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