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俺の未来⑳

「…はい。これで常盤未来さんは椎名未来さんになりました。今日から君は、俺の召使いです!」


2人揃って婚姻届を提出しに来た。


役所の担当者に受け取ってもらい、お礼を言われたところでジョークを飛ばす。



「は…はじめから…私は奴隷ですよ?」


小さく反論する未来は、言いながら後ろ手に手を組む。


彼女のバッグは俺に斜めにかかり、その他の荷物も全部俺が持って…みたところ奴隷は俺の方だが?





あれからいろいろあって、俺は芸能界を引退した。


住んでいたマンションも引っ越し、新たな土地に家を建てた。


引っ越しの理由は簡単だ。

…これまでのテキトーな付き合いの精算。


そういう子はあまりいなかったけど、俺の留守に突然訪ねて来たら困る、という配慮から。


キングサイズのベッドを捨てて新居に移ったのは、新しい住まいにサイズが合わなかったから、というのは表向きの話。


未来はそういうところはまったく疎くて、気にする様子はまるでなかったけれど、まぁ…俺なりのけじめってやつだ。


今度は…もっとくっついて眠れるように、普通のダブルベッドにした。




「…それなら、裏方として、明日のスターを育ててみたら?」


引退の意向を伝えると、社長が思いがけないことを言ってくれた。


実は俺もそう思っていた。

未来は二次元の俺にときめきたいとアホなことを言うが、もともと気が乗らないと何もできない俺。


愛する未来ではない女性と、キスまがいのことをしたり触れ合ったりするのは…無理だ。


納得してみれば、未来もどこか嬉しそうだ。


芸能事務所開設は、社長の手を借りて着々とすすみ、それまで未来はこれまで通り、オレンジスプラッシュでマネージャー業を続けた。



やがて、都内の小さなビルの一室に、俺の事務所の看板がかかる。



「…瑠偉、すごい溺愛だな」


お祝いに来た社長に、親友たちに言われた。


「MIRAIプロモーション。…いい感じだろ」


ひやかされても、何を言われてもいい。かけがえのない彼女がそばにいれば。


顔だけが取り柄のテキトーな遊び人、椎名瑠偉を大きく変えた未来は、今日も三つ編みをほどいてできたウェーブヘアをなびかせている。


「…るるる…るい」


名前を呼んでくれるようになったけど、それはまだまだぎこちなくて。


でもそんな未来を好きになった。

ずっとずっと…ちょっとおかしな奥さんでいて欲しい。


俺は本気でそう思っている。




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