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第45話 襲来!因縁の男達

 それからの数日は、丈太にとってそこそこ平穏な日々であった。


 丈太をいじめていた不良グループの面々は、時間を置いて一人…また一人と学校を休みがちになり、今では一人も登校してきていないらしい。陰で何か企まれるよりは、見える場所でコソコソとしている方が対処しやすいのだが、丈太は彼らと、面と向かって喧嘩をするつもりもないしとりあえずは静観でいいだろう。


 ただ、気になっているのは、栄博士の事だ。


 三依みよりから手渡された手紙を読んでからというもの、栄博士は何かを考え込む事が多くなった。通信で声を掛けても返事がなかったり、話をしていても上の空だったりと何だか不安になる状態である。まだボケではないと思いたいが、栄博士はそれなりに高齢なので心配になってしまう。

 丈太は博士を気にかけて、毎朝登校前に様子を見に行くのが日課になっていた。そんなある日。


「おーい、博士ー。おはよー!まだ寝てるのかな……」


「…毎日毎日、朝っぱらから来るんじゃないわよ、この変態」


 博士の家の玄関前で待っていると、隣の棟の明香里の家から明香里と三依が並んで出てきた。何を隠そう、三依は明香里の家に居候しているのである。当初、三依は栄博士の護衛として、博士と同居するつもりであったようなのだが、博士の家には寝泊りする道具が一式しか置いていなかったので、明香里の家の方に住まわせる事にしたらしい。三依は、ヨネリカに住む友人の孫という設定だ。


「炎堂クン、おはようございます。ドクターはまだおやすみかもしれませんね。」


「ああ…明香里さん、三依さんおはよ……んん!?」


 丈太が驚いたのは、数日振りに会った三依がとんでもない変化を遂げていたからだ。てっきり、同じダイエット戦士として、三依も丸く太るのだと思い込んでいたのだが、実際に三依の身体で変化していたのは身体の一部であった。具体的に言えば、彼女の胸が異常なほどサイズアップしていたのだ。


「え、あ……ええっ…!?」


「何ですか?……ああ、あなたは旧式だから全身がなるのですか、なるほど。非効率的ですね」


 心なしか、三依は以前会った時よりも自信に溢れていて、どこか勝ち誇ったような表情に見える。丈太は全身の脂肪をFATエネルギーに変換しているが、三依の場合はバストだけをエネルギー源にしているらしい。効率で言えば大差が無いように思えるが、三依の中では丈太より上だという認識のようだ。


「どこ見てんのよ、この変態!本当に最っ低、三依に近づかないでよね!」


「あ、いや…そんなつもりじゃ……!?」


 丈太は弁解したが、そこに目を奪われたのは事実なので、それ以上何も言えなかった。とはいえ、丈太でなくとも視線が向いてしまうのは仕方がない事だろう。ほんの数日前までは大きくなかった場所が、信じられないほどに大きくなっていたのだから。それは明らかに、人の頭よりも大きいサイズである。推定Pカップといったところの、まさかに爆乳を超えた規格外の大きさであった。


「構いませんよ、明香里。男性が美しいものに見惚れてしまうのは仕方のないことなのです。ああ、私の美貌は罪……フフフ、私はまるでアダムとイブが齧った禁断の林檎…」


「そんな事言ってるとコイツが付け上がるから止めなさいよ。…っていうか、何かムカつくわね、アンタも」


 先程は心なしかと言った雰囲気だったが、今の三依は明らかに調子に乗っている。その証拠に、その大きすぎる胸を強調するように胸を張って、不自然なほどに揺らしてみせているのだ。なお、丈太は見惚れているというよりも、若干その大きさと変わりように引いているのだが、三依はその違いに気付いていないようである。


「まぁいいわ。じゃあ、私は学校に行くから。炎堂、絶対ついてこないでよね。アンタと一緒に登校なんて冗談じゃないわよ」


「わ、解ってるよ、大丈夫。ちゃんと別々に行くさ」


 相変わらず明香里に嫌われている丈太だが、ここ数日は、ほんの少し、明香里の態度が軟化してきている気がする。以前は、炎上野郎と呼んで蔑んでいたのが、今は炎堂と苗字で呼んでくれるようになったからだ。どうやら、丈太が栄博士を気にしているのが嬉しいらしい。二人が歳の離れた友人だと言っていたのが、嘘ではないと感じたのだろう。とはいえ、まだまだあたりはキツイので仲良くは出来そうにない。


「ジョータ、あなたは明香里にだいぶ嫌われているようですね。謝るなら、早い方がいいですよ」


「いや、俺が彼女になんかしたって訳じゃなくてね……謝るってのも違うっていうか、うーん…」


 丈太自身、明香里が彼を嫌う気持ちは解るのだが、どう歩み寄るべきかが解らない。更衣室の件が大翔達による冤罪だと訴えた所で、あの嫌われようでは信じて貰えるとは到底思えないし、明香里は丈太がいじめに反抗しない弱さを嫌っているフシがある。となると、波風を立てないように冤罪をそのままにしている丈太の行動は、火に油を注ぐようなものだろう。やはりそっとしておくのが一番かなというのが、丈太の結論であった。


「よく解りませんが、大変ですね」


「俺が嫌な事から逃げる性格なのも良くないんだろうなぁ……って、そんな話しても仕方ないか。とにかく、俺も学校に行くよ。三依さん、博士が起きたらまた帰りに寄るって伝えておいて」


「解りました」


 三依は栄博士の護衛として日本に来ているが、最近はすっかり身の回りの世話をするメイドのような立ち位置になってしまっている。ちなみに、彼女は丈太や明香里と同い年なのだが、ヨネリカでは既にハイスクールを卒業しているらしい。彼女はその自信に見合う才女でもあるのだ。


 そうして丈太が足早に栄家を後にしたちょうどその頃……市内の別の場所では、恐るべき事態が起き始めていた。


「はぁっ…はぁっ…!な、なんだ!?なんなんだよ、アイツ……!」


 その少年は、大翔達不良グループの一員である鮫島紋次さめじまもんじであった。彼は何かに追われていて、以前よりも更に太った身体を大きく揺らして、路地裏を懸命に走っていた。


「サメ……こっちへ来い。お前も…力を……」


「ひぃっ!?や、止めろ!来るな、来るんじゃねぇ!…うぎゃっ!」


 すっかり太ってしまった鮫島は、以前の丈太よりも運動能力が落ちていた。急激な体重と体型の変化に身体が追い付いていないからだ。急に走って逃げようとすれば、足がもつれて転んでしまうし、すぐに息が上がって動けなくなる。そんな状況で、恐怖に駆られてしまえばもはや、逃げる事など出来はしない。


「あ、ああ……!か、かんべん、してくれ……!」


「恐れるな…お前も、力を持てばいい……俺と同じ…力を……!」


 その何かは、頭がオクラを短くしたような形をしていて、近づくと爽やかな臭いを漂わせていた。そして、恐怖のあまり腰を抜かしてへたり込んでしまった鮫島に近づくと、その手から鈍く光る粒のようなものを出して、鮫島の口に押し込んだ。


「んんんんー!おごごご…うぇっ、あああああ!」


 それが終わると、鮫島は倒れ込み意識を失った。そして、影の中で何かが呟く。その背後にはいつの間にか、数名の影が付き従っているのだった。


「待っていろ、炎上野郎……いや、ファイアカロリー!」

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