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第51話 先生の紹介なら安心できるんですけど





「お待たせしました、一条さん。お約束の品をお持ちしました」


 ドリームアイ捕獲依頼の数日後。


 プレハブ事務所で仕事していると、丈二がやってきた。


「ありがとう、待ってたよ」


 丈二が持ってきてくれたのは、ドリームアイの触手だ。


 おれが退治したやつと、例のDV男が殺してしまったやつの2匹分だ。解剖に回されたと聞いていたが、もし余っているなら是非欲しいと打診していたのだ。


「このような物を、なにに使うのですか?」


「ドリームアイ対策だよ。この触手を腐らないように加工して身につけておけば、他のドリームアイは、もうお手つきの獲物だと認識して、襲ってこなくなるんだ」


「ほう……それは便利ですね。しかし、一条さんは魔法で対策なさっておりましたが、それでは不十分なのですか?」


「防御としては充分だけど、魔力の消耗がね……。いつ襲ってくるかわからない相手に、ずっと備えてなきゃならないのはきついんだ」


「そういうことでしたか」


「この数なら、2、3パーティ分は作れるかな。これで安心して第2階層の調査へ行けるよ」


「第2階層といえば、レベル2に到達した冒険者はもう出てきましたか?」


「紗夜ちゃんや、この前怪我から復帰した吾郎さんとかは、もうレベル2と言って良さそうだよ。丈二さんはもう少しってところだね」


「まだ数人というところですか……」


「あれからみんな魔物モンスター料理も食べてるみたいで、順調に成長してくれてる。きっとすぐみんなレベル2さ。ただ、能力値だけ見て送り出すのは危険かな」


「ええ、できることなら現れる魔物モンスターの他、起こりうる危険への対処法をご教授しておいていただきたい。もちろん講師代はお支払いいたします」


「それはおれたちが先行調査してからになるな。とはいっても全部は調べられないから、結局は各パーティの対応力が問われるところだけど」


 そこにフィリアがやってきて、会話に加わる。


「それには、やはり魔法が必要かと。初歩魔法であっても、有ると無いでは、対処できる事態に大きく差が出てしまいますから」


 丈二は大きく頷いて同意する。


「フィリアさんの魔法講座の応募者数は、どのようになっておりますか?」


「それはもう、ほとんどの冒険者が参加を希望しております。最大魔力が10未満の方は、残念ながらお断りせざるを得ませんが……」


「どちらにせよ、一度に全員は教えられないからね。魔力の高い順から順番に教えていこう。魔法使いはパーティに最低ひとりいればいい。あまり適正のない人は、他の能力を伸ばしたほうがパーティの総合力は上がる」


「魔法の習得はそれなりに難しいですし、ね。どうしても必要なら、パーティ内で教えあっていただくこともできますし」


「しかし……そうなってきますと、パーティの結成率が問題ですね」


 丈二は小さく息をついてカレンダーを見た。


 2週間ほど前に、パーティを組むことを義務化すると通知した。


 これは単独行動自体が危険なのもあるが、それで万が一魔物モンスターに殺されてしまった場合、人の味を覚えた魔物モンスターが誰も知らないところで生まれることになるからだ。


 仮にパーティの誰かが殺られてしまっても、他の誰かが逃げ延びることができれば、魔物モンスターが町を襲う前に対処することもできる。


 だが、未だにパーティの結成率は高くない。パーティメンバーは最低2名いればいいのだから、そう難しくはないと思うのだが……。


「あと2週間で、単独では迷宮ダンジョンへ入れなくなります。今のパーティ数では、稼働率はかなり下がる予測です。それは望むところではないのですが……」


「みんな通知見てないのかな?」


「訪れた方には全員に口頭でお伝えしているのですが……」


 3人で、う〜んと首を傾げる。


 とかやっていると、そこに紗夜がやってきた。


「こんにちはー! 先生たち、なにかお悩みですか?」


「やあ紗夜ちゃん。実は、みんながなかなかパーティを組んでくれなくてね。どうすればいいかなって考えてたんだ」


 すると、元気いっぱいの紗夜の表情が、困り顔になった。


「あー、あはは……ごめんなさい……」


「そういえば紗夜ちゃんもまだパーティ組んでなかったっけ。なにか理由があったりするの?」


 フィリアも関心を持って紗夜に目を向ける。


「葛城様の実力や可愛らしさからすれば、お相手は引く手あまたでしょうに」


「いや、えーっと、まあ何人かには誘われたんですけど……」


「断っちゃったんだ?」


「だって、みんなよく知らない人ばっかりですし。あたしとの相性もわからないですし、あと、なんかナンパみたいですっごく嫌でしたっ」


「あー……、そっか。そうだよね、気付かなかったよ……」


 これまで冒険者たちは、基本的に単独で活動していた。行動時間帯も、行動範囲もバラバラだ。接点は多くなく、下手すると一度も顔を見たことのない相手がいるくらいだ。


 そんな、ろくに話したこともない者たちから、自分と相性のいい相手を見つけてパーティを組めというのは難しい話だったのだ。


 ベテラン勢は活動期間が長い分、比較的顔見知りが多いのか、パーティ結成率が高い。怪我で療養中だった吾郎は、あぶれてしまっているが、まあそれは例外だろう。


 活動期間が短く、特に知り合いの少ない新人たちの結成率が低いのは、無理もない話だったわけだ。


「むしろ先生、誰かいい人いませんか? 先生の紹介なら安心できるんですけど……」


「う〜ん、誰かかぁ……」


「それです!」


 なにかピンときたのか、フィリアが明るく顔を上げて、ぽんと手を叩いた。


「巷で流行のマッチングサービスをやってみましょう!」

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