「これこれ。これが良い物」
血抜きのためにフレイムチキンを逆さ吊りにしてから、おれは切断した頭部をフィリアと丈二に見せた。
「良い物、ですか? この大きなニワトリの生首が? よほど美味しいのですか?」
丈二は若干引いているが、フィリアのほうはわかってくれている。
「魔力石ですね?」
おれが頷くと、丈二は首を傾げた。
「魔力石? 初めて聞く単語ですね」
おれはフレイムチキンの頭部を切り開き、中から赤い宝石のような器官を取り出した。
「これが、その魔力石だよ。魔力の宿った石……こっちで言う電池の、魔力版みたいな物と考えてくれていい」
「魔力と言うからには魔法に関係しているのでしょうが、今のフレイムチキンとやらは魔法を使う
「その通り。解剖してみると分かるけど、こいつには本来、火を吹けるような器官はついてない。あの火は魔法だったんだよ」
「あのような
「順番が逆かな。人間は、
「ではあのフレイムチキンは、見た目より遥かに高い知能を有していた、と?」
「そうでもない。知能で魔法を覚えて使う
「つまり火を吹く魔法しか使えない?」
「そういうこと。魔力回路って覚えてる? ステータスカードにも使われてるやつ」
「ええ、電子回路の魔法版のようなもので、魔力を供給すると、回路通りに自動的に魔法を発動させるものでしたね」
「フレイムチキンの頭部神経には、その魔力回路が組み込まれていてね、魔力石から魔力が供給されると火炎を放射する魔法が発動するようになっていたんだ」
人間が魔法を使えるようにする研究には、おれも参加していた。その過程で、多くの
その研究が発展して、後の時代に魔力回路技術が生まれていたのは少々誇らしい。
「しかしドリームアイの解剖報告では、魔力石らしき物は確認できておりません。あの幻覚を見せる力は、魔法ではなかったのでしょうか」
「いや、ドリームアイは魔力石を持たず、自力で魔力を操るタイプの
「本能型というわけですか」
「夢を見せてるから複雑な制御をしてる魔法に思えるけど、実際には、読み取った相手の記憶から理想や性欲を抽出して、それらを刺激するだけの、本能で使えるような単純な魔法なんだと思う。幸せな夢に見えてるのは、被害者の脳が辻褄合わせしてるだけなんだ」
丈二はポーチから取り出したメモ帳にさらさらと記録する。
「その話は研究員にも伝えておくことにします。つまり魔力石は、
「うん、それでいい。これがあれば、魔力回路で強力な魔法を誰でも使えるようになる」
しかし、そこでフィリアは若干の苦笑を浮かべる。
「理論上はそうなのですが、容量や出力の問題で、強力な魔法を発動できる魔力石は滅多にありません」
「あ、それもそうか……」
「それに、わたくしもそこまで強力な魔力回路の構築はしたことがないので、上手くできるか、あまり自信はありません……」
フィリアは少し視線を落としてしまう。
「そうなんだ……。ごめん。フィリアさんなら、なんでもできる気がしてた」
「いえ、母にもっと詳しく教わっておくべきでした……」
「例の冗談が好きだっていうお母さん?」
「ああ、いえ、それは実母のほうで、魔法を教えてくださったのは別の母です。父には妻が3人おりまして、その中に特別すごい、おとぎ話に出てくる魔法使いのような方がいたのです」
「3人の母……。複雑なご家庭だったのですね……」
丈二は苦笑を浮かべる。
丈二は知らないようだが、フィリアの実家は王家で、父は国王なのだ。王に妻が複数いても不思議なことではない。
「あの、ですが、あまり高度なことはできませんが、ちょっと便利な使い方ならご提供できますよ? タクト様、スキレットをお貸しください」
「はいよー」
おれはバックパックからスキレットを取り出して、フィリアに渡した。
フィリアはナイフを取り出して、スキレットの裏面になにかを刻み始める。
「少し時間がかかりますので、タクト様は料理のほうを進めてくださいませ。津田様は、その様子の撮影をお願いいたします」
「わかった。じゃあ、丈二さん、撮影よろしくー」
「ああ、はい。お任せください」
こうしておれは、フレイムチキンの調理を始めた。
フィリアはなにをしてくれるのだろう?
作業に集中する凛々しいフィリアの横顔を眺めながら、おれは期待に胸を膨らませた。