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第17話:人狼ゲーム

「ねえねえみんな、今日は人狼ゲームで遊ばない?」

「人狼ゲーム?」


 とある昼休み。

 突然まーちゃんがそんなことを提案してきた。

 人狼ゲームってどんなゲームだっけ?

 名前は聞いたことあるけど、細かいルールは知らないな。

 確か、村人の中に紛れ込んでる人狼を議論しながら探し出すとかそんな感じだっけ?


「私はやってもいいよ茉央ちゃん」

「俺もいいぜ」

「うん、僕も」


 まあ、前からちょっと興味あったしね。


「よし、じゃあ今からルールを説明するね」

「ちょっと待ったコール!」

「「「「!」」」」


 梅先生が割って入ってきた。

 ちょっと待ったコールなんて今の若い子には通じないでしょ!?(気になるならググってね!)


「……何ですか峰岸先生。私達今から人狼ゲームやろうとしてたんですけど」


 暗に邪魔するなとでも言いたげなまーちゃんの態度に、僕の胃はまたギュルーンと痛んだ。

 うううう!!

 キャベ○ン!

 お客様の中に、キャベ○ンをお持ちの方はいらっしゃいませんかッ!?


「フッ、そう邪険にするな足立。仕方ないから私もその人狼ゲームに参加してやろうと言っているんだぞ?」

「誰も頼んでませんけどッ!?」


 犬猿の仲!

 ダメだこの二人!

 二人だけで会話させてたら、いずれ第三次世界大戦が勃発してしまう!


「ま、まあまあ、一緒に人狼ゲームやるくらいいいじゃない、まーちゃん」

「ともくん!?」

「フッ、流石智哉、話がわかるじゃないか」


 青天の霹靂みたいな顔をするまーちゃんとは対照的に、渾身のドヤ顔をキメた梅先生であった。

 いや、何もそこまで驚かなくても……。


「うううう~、ともくーん!」

「えっ? って、んぷっ!?」


 まーちゃんは突如立ち上がると、座っている僕の顔を思いきり抱きかかえてきた。

 結果、僕の顔はまーちゃんのおっぷぁいに押し潰されることになった。

 ままままま、まーちゃーーーん!?!?


「えいえい! えいえいえい!」

「んぶぶ! んぶぶぶぶぶ!」


 苦しい苦しいッ!

 息ができないッ!!


「えいえい! ともくんなんてこーしてやる! こーしてやるー!」

「んんんんー!!」


 いやマジでこれはヤバいってまーちゃん!

 何がヤバいって、僕の酸欠云々以前に、また微居君の席の方からゴトッていう重い岩を準備する音が聞こえてることがヤバい!

 狙われてる狙われてる!

 君の彼氏は今、校内一のスナイパーに狙われてるよッ!!


「ま、茉央ちゃん、その辺にしてあげたら? 浅井君だって、別に茉央ちゃんが好きじゃないからああ言ったわけじゃないと思うよ」

「っ! 美穂~」


 篠崎さん!?


「それによく考えてみて? いちいち恋人のことで動揺したりせず、どっしりと構えてた方が、長年連れ添ったベテランの彼氏彼女っぽくない?」

「ベ、ベテランの彼氏彼女……!?」


 ナイス篠崎さん!

 ベテランの彼氏彼女というワードが琴線に触れたのか、まーちゃんの拘束が緩んだ。

 僕はその一瞬の隙を突いて、まーちゃんのおっぷぁい地獄(天国?)から抜け出した。

 ぶはあああ。

 し、死ぬかと思った(いろんな意味で)。

 まあ、実際のところ僕らはまだ付き合い始めて2ヶ月も経っていないので、ベテランのベの字もないと思うのだが、敢えて今は言うまい。


「そ、そうだね。私とともくんは、長年連れ添ったベテランの彼氏彼女だもんね! このくらいでカリカリしてるのはおかしいよね!」

「うんうん! そうだよそうだよ!」


 おお、流石まーちゃんと長年連れ添ったベテランの幼馴染。

 まーちゃんの手綱の握り方を心得てらっしゃる。

 ありがとう篠崎さん!

 僕はまーちゃんに見えないようにコッソリと篠崎さんにサムズアップを送ると、篠崎さんもコッソリとサムズアップを返してくれた。

 勇斗はそんな僕達の遣り取りを、やれやれとでも言いたげな顔で見ていた。


「フッ、どうやら話は纏まったようだな。では私も参加ということでいいな?」

「ふん、しょうがないですね、今回だけは特別に許可しましょう。何故なら私とともくんは、長年連れ添ったベテランの彼氏彼女ですからねッ!」

「フッ、そうか」


 今度はまーちゃんが渾身のドヤ顔をキメる番だった。

 まあ、まーちゃんの機嫌が直ったなら何でもいいんだけどさ。

 よし、今後も似たようなことがあった場合は、この『ベテランの彼氏彼女作戦』で対応しよう(安直)。


「じゃあ気を取り直して、ルール説明いくね~」

「「「はーい」」」

「本当はもっと大人数で数時間掛けてやった方が面白いんだけど、今日は人数も時間もないから、簡易版のルールでやることにします」

「「「はーい」」」


 何だか子供向け番組のおねえさんみたいだな。


「先ずこのゲームは、『村人陣営』と『人狼陣営』に分かれて戦うのね」


 ふむふむ。


「村人陣営の目的は人狼を探し出して処刑すること。人狼陣営の目的は逆に村人に紛れて村人達を喰い殺すことだよ」


 おおう……。

 子供向け番組みたいと言ったそばから随分殺伐とした世界観だな。


「プレイヤーにはそれぞれ役職が割り振られてるから、いかに自分の役割を全うするかが勝利の鍵だね」


 役職?


「ま、これは実際役職カードを見ながらの方がわかりやすいかな」


 そう言うとまーちゃんはノートを一ページ破いて、それで五枚のカードを作って文字を書き込んだ。


「先ずは村人陣営の役職の一つ、『村人』ね」


 その中からまーちゃんは、『村人』と書かれた二枚のカードを机の上に置いた。


「村人は特殊な能力を何も持たない一般人だよ。今回は村人は二人にするからカードも二枚ね」


 ふむ、つまり村人は僕みたいなモブキャラってことだな。


「そして次が村人陣営の要、『占い師』」


 まーちゃんは『占い師』と書かれたカードを一枚置いた。


「占い師はあらかじめ自分以外のプレイヤーの役職を二人まで知ることができるんだ。あ、言い忘れてたけど各役職は自分以外の人には開示されないから。でも占い師はそれを特別に知ることができるってわけ。占い師は一人だけだからカードも一枚ね」


 ほほお。

 それは確かに大きなアドバンテージだな。


「村人陣営の役職は以上。――次に人狼陣営ね。先ずは毎度お馴染みの『人狼』」


 毎度お馴染みではないだろう。

 人狼にそんな馴染みがあったら嫌だよ。

 まーちゃんは『人狼』と書かれたカードを一枚置いた。


「人狼も特に能力はなし。とにかく人間のフリをして人狼だとバレないようにするのが目的だね。普通は人狼は複数いるんだけど、今回は人数が少ないから人狼は一人だけね」


 ううむ。

 人狼役だけはやりたくないなあ。

 僕は嘘を吐くのが苦手だから、人狼だったらすぐにバレちゃいそうだ。


「そして最後に『狂人』」


 まーちゃんは『狂人』と書かれたカードを一枚置いた。


「狂人は人間なのに人狼に味方してる、文字通りの狂人なんだ。狂人の一番の特徴は、狂人が処刑されても人狼陣営の負けにはならないところ」


 何と!?

 そんなやつがいるのか!?


「だから狂人の主な役割は、自分が人狼のフリをして本物の人狼の身代わりに処刑されることだね。因みに人狼と狂人はお互いの役職をあらかじめ認識し合った状態で始まるから、誰がどの役職かわからない村人陣営と違って、チームワークはバッチリってわけ」


 むうう。

 これは人狼陣営の方が若干有利じゃないか?


「役割が決まったら五分間の議論タイム。この間は噓を吐いてもいいよ。村人陣営は挙動や発言から人狼を炙り出すために頑張る。そして人狼陣営は、何とか人狼以外の人を人狼に仕立て上げるために頑張るって感じ」


 ……これは大分人間不信になりそうなゲームだな。


「そして五分経ったら投票タイム。いっせーのせで人狼だと思う人を指差して、一番投票数が多かった人が処刑されます。処刑されたのが人狼なら村人陣営の勝ち。人狼以外なら人狼陣営の勝ち。ざっとだけどルールはそんなところかな」


 ふむ。

 やはりこれは、村人陣営が勝つためには占い師の立ち回りが重要になってくるな。


「因みに同票の人が複数いた場合は、同票の人全員が処刑されるから」

「えっ、そうなの!? それじゃ決着はどうつけるの?」


 人狼と村人が同時に処刑されちゃうこともあるってことだよね?


「その場合は、処刑された人の中に人狼がいれば村人陣営の勝ち、いなかったら人狼陣営の勝ちってことにするね」

「へー」


 つまりその辺で人狼陣営が若干有利なところのバランスを取ってるってことか。

 これは益々占い師の責任が重くなったな。

 多分人狼陣営も占い師を騙ってくるんだろうから、本物の占い師はいかに村人に自分が本物だと信じ込ませるかが腕の見せ所ってところだな。

 できれば占い師だけはやりたくないな……。

 人狼もヤだけど……。


「よっし、そんじゃ早速やってみよー。役職カードは私が適当に配るねー」


 まーちゃんはカードを裏返して、混ぜてから僕達に配った。


「みんな周りの人に見えないように役職を確認して」


 僕は逸る心臓を抑えながらカードを確認した。

 カードには――


 『村人』と書かれていた。


 ……ほっ。

 とりあえず一番無難なのがきてよかった。

 流石モブ

 やっぱモブはモブのカードを引くようにできてるんやな。


「確認したね? じゃあカードを裏返して、みんな目をつぶってー」


 僕達はまーちゃんの言う通りにした。


「では先ず、人狼と狂人の人だけは目を開けてお互いを確認してね」


 果たして人狼と狂人は誰なんだろう……。

 何となくだけど、梅先生は狂人っぽいけど……(偏見)。


「確認した? じゃあまた目をつぶってね。――次は占い師の番。占い師の人は目を開けて、二枚だけ役職カードをひっくり返して、確認したらまた元に戻してね」


 占い師……、誰なんだろう……。

 村人陣営僕達が勝つには君の働きに懸かってるんだからね!

 そこんとこよろしく頼むよ!(上司にしたくないタイプ)


「確認できたかな? よーし、みんな目を開けてー」


 僕は目を開けてみんなの顔をそれとなく観察したが、もちろん誰が人狼なのかは僕なんかには見当もつかなかった。

 ただ、勇斗が若干ソワソワしてる気がする……。

 もしかして勇斗が……?


「はい、今から五分間、議論タイムです。それじゃあ人狼ゲーム、スタートー!」


 まーちゃんがスマホで五分後にアラームをセットした。

 ――すると、


「ハイハイみんな聞いてくれ! 俺は占い師なんだ!」

「「「「!」」」」


 開口一番勇斗が名乗り出た。

 ……おお、いきなり場が動いたな。

 勇斗がソワソワしてたのは、占い師だったからなのか。

 でも本当にそうか?

 人狼だったからなんじゃないのか?


「そ、それで、勇斗くんは誰を占ったの?」


 篠崎さんがすかさず合いの手を入れた。

 ん?

 この二人随分連携が取れてるな?

 よもや人狼と狂人なのか?

 それとも単に彼氏彼女だから……?

 ……ダメだ。

 全てが嘘に見えてきた。

 これが人狼ゲームか……。

 こりゃマジで終わった後は人間不信になってそうだ……。


「ああ、一人目は美穂、お前だよ」

「えっ!? 私!?」


 っ!

 やっぱりこの二人……。


「そ、それで私の役職は……?」

「うん。美穂は…………『村人』だった」

「「「「!!」」」」


 ううむ。

 これは何とも言えないな。

 勇斗と篠崎さんが人狼と狂人だったらそう言うに決まってるし、本当に篠崎さんが村人の可能性もあるしな。


「うん、そう! 私は村人だよ勇斗くん! 勇斗くんは本物の占い師だったんだね!」


 え?

 いやいや、それは短絡的じゃないかい篠崎さん?

 勇斗が人狼で、仮にまーちゃんとかが狂人だったとしたら、梅先生と僕と篠崎さんの内の二人が村人なんだから、適当に指名しても村人に当たる確率は三分の二。

 だから村人を言い当てたからと言ってすぐに本物だと信じるのは根拠に乏し過ぎる。

 ……やはりこの二人。


「それで! もう一人は誰を占ったの勇斗くん?」

「ああ、それはな…………、足立、お前さ」

「「「「!」」」」


 勇斗はビシッとまーちゃんを指差した。


「……ふーん。で? 私の役職は何だったの田島君」


 ――ごくり。


「ふっ、そんな余裕ぶってられんのも今だけだぜ! さんよッ!」

「「「!!」」」


 なっ!?

 まーちゃんが人狼!?

 ……くっ。

 本当か?

 自分の彼女が人狼なんて、思いたくないが……。

 ……いやいや、何を言ってるんだ僕は。

 この手のゲームでそういう先入観は命取りだ。

 心を鬼にして挑まないとダメだぞ僕。


「おやおや、語るに落ちるとはこのことだね田島君。――いや、さん」

「「「「!!!」」」」

「何だと!?」


 えーーー!?!?!?

 どどどどどどういうこと!?!?


「何の根拠があって俺を人狼だなんて言うんだよ!」

「ふふん、それはね――本物の占い師は私だからだよ」

「「「「!!!!」」」」

「なっ」


 何だってーーーーー!!!!

 ……これは早くも分水嶺だな。

 これで勇斗かまーちゃん、どちらかが嘘を吐いていて、また同時に嘘を吐いている方が人狼陣営なのが確定だ。

 問題はどちらが嘘を吐いているかだが……。


「……まーちゃん、まーちゃんは誰を占ったの?」


 満を持して僕は口を開いた。

 そういえばゲームが始まってからまだ一言も梅先生が発言していないけど、却って不気味だな……。


「うん、私は先ずともくんを占ったよ」

「僕!?」


 それは光栄だけど……。


「……で? 結果は?」

「ふふん、ともくんは――『村人』だよね!」

「「「「!」」」」


 おお!

 これはやっぱり、まーちゃんが本物なのか!?

 ……いや、待て待て、浮かれるな。

 これじゃさっきの篠崎さんと一緒じゃないか。

 当てずっぽうでも村人は的中させ易いんだから、鵜吞みにするのは危険だ。


「……確かに僕は村人だけど、あと一人は誰を占ったんだい?」

「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました!――それはあなたですよ! 峰岸先生ッ!」

「「「!!」」」

「……フッ、私か」


 梅先生か……。

 まあ、まーちゃんなら真っ先に梅先生を人狼だと疑って役職カードをめくりそうだけど。


「で? 私の役職は何だったんだ?」

「はい。峰岸先生の役職は――『狂人』です!」

「「「!!!」」」

「フッ、なるほどな」


 狂人と断じられても、見る限りでは梅先生はまったく動じていない。

 この人は本当に内面が読めないな……。

 ある意味このゲームに一番向いてるのかもな。


「だから占い師を騙った田島君は、消去法で人狼以外あり得ないってわけ。さあ、観念するなら今のうちだよ」

「ま、待ってくれよ! 俺は本物の占い師だ! お前こそ嘘吐くなよ足立!」


 うおおお……。

 これは泥沼の戦争になってきたな……。

 正直どっちもイマイチ信憑性に欠けていて、どっちが本物とも言い難いな。

 しかもちらとアラームを確認すると、もう議論タイムは残すところ僅かとなっていた。

 嗚呼!

 マズいマズいマズい!

 マジでどっちが本物か僕にはわかんないッ!


「なあ智哉! お前は信じてくれるよな!?」

「えっ!?」


 急に水を向けられたので、僕はいたく動揺した。

 え、えーっと……。


「いいや、ともくんは私の味方だよね!? もう一度よく考えてみて! よく考えれば、どっちが人狼かわかるはずだよ」

「えっ」


 まーちゃんの眼は澄んでいて、とても嘘を吐いているようには見えない。

 ……よく考えれば、か。

 よし、冷静に状況を分析してみよう。

 先ず勇斗が本物の占い師だった場合はどうなる?

 その場合は篠崎さんが村人、まーちゃんが人狼だから、梅先生は消去法で狂人ってことになるな。


 で、次。

 まーちゃんが本物だった場合。

 梅先生は狂人だから、消去法で勇斗は人狼、篠崎さんは村人か。


 ん? 待てよ?

 つまり梅先生の狂人と、篠崎さんの村人は確定ってことじゃん!?

 僕が咄嗟に梅先生を見ると、梅先生は僕の思考を察したのか、不敵な笑みを浮かべた。


「フッ、その通りだ智哉。私は狂人だッ!!」

「「「「!!」」」」


 えーーーー!?!?

 何故そんなドヤ顔で!?

 狂人の仕事は人狼のフリをして自分が処刑されることなんだから、狂人だってバレたら何の役にも立たないじゃん!

 ホント何なのこの人!?

 やる気あるの!?


 ――いや、待てよ。

 梅先生が狂人ってことは。


 ――その時だった。

 まーちゃんのスマホから、無機質なアラーム音が鳴り響いてきた。


「はい議論タイム終了〜。じゃあ投票に移るよ。もうみんな誰に投票するか決めたね?」


 ああ、決めたよ。

 僕が投票するのは――。


「いっくよー。いっせーの、せっ!」


 僕は人狼だと思う人物に、右手の人差し指を向けた。


「なっ!? と、智哉!?」


 ――それは勇斗だった。




「な、何で……、智哉」


 勇斗は虚ろな眼で僕を見つめている。

 僕は名探偵の孫さながらに、ゆっくりと口を開いた。


「それはな、まーちゃんは人狼なら絶対に取らない行動を取ったからだよ」

「何っ!?」


 そう、それが決定打だった。


「だってまーちゃんが人狼だとしたら、まーちゃんは仲間である梅先生を狂人だとバラしたことになるんだぞ?」

「っ!!」


 狂人は狂人だとバレていないからこそ価値がある。

 だからこそ、仲間である狂人をバラしてしまうなど、百害あって一利なしだ。

 つまり、まーちゃんは人狼ではないという結論に至るのだ。

 現に僕と同じ考えの人が他にもいたのか、勇斗には僕のを含めて三人の人間が指を差していた。

 これで処刑されるのは勇斗で確定。

 村人陣営僕達の勝ちだ。


 ……ん?

 その時、強烈な違和感が僕を襲った。

 まーちゃんが勇斗を差しているのはいい。

 だが、何で勇斗を差してるんだ!?!?

 ま……まさか。


「テッテレー! ざーんねーんでしたー! 人狼は私でーっす」

「「「!!!」」」


 まーちゃんが高らかに宣言した。

 えーーー!?!?!?

 そんな……。

 そんなはずない……。

 だがまーちゃんが手元の役職カードをめくると、そこにはくっきりと『人狼』と書かれていた。

 えーーー!?!?!?


「ふっふーん。さっきのは『身内切り』って言って、ワザと味方を見捨てることによって、村人側だと信用させる初歩的なテクニックなんだよ」

「……えぇ」


 マジっすか……。

 つまり僕は、まーちゃんの手のひらの上でずっと躍らされてたってこと?

 まーちゃんも梅先生も、揃って今日一のドヤ顔をキメている。

 案外仲良いんじゃねえのこの二人!?

 ……おおふ。

 恐る恐る勇斗の顔色を伺うと、勇斗は「ブルータス、お前もか」と言った時のカエサルみたいな顔をしていた(カエサルに会ったことはないけど)。

 ああああああ勇斗ごめええええん!!!

 謝るからそんな眼で親友を見ないでええええ!!!

 てか僕、これでもかってくらいドヤ顔で、名探偵の孫を演じちゃったよッ!!!

 恥ずかし過ぎて穴がなくても入りたい!!

 もういっそ殺してくれッ!!


「ともくん!」

「えっ」


 突然まーちゃんに抱きつかれた。

 ぬえええ!?!?

 何何!?


「――ありがと、私のこと信じてくれて」

「!」


 まーちゃんは僕にだけ聞こえるように、耳元で囁いた。

 あ、うん……。

 信じた結果、村人陣営僕達は負けたんだけどね……。

 ……まあ、女の子に騙されるのも、男の甲斐性ってことで(負け惜しみ)。


「でも覚悟しといてね」

「え?」


 何を?


「言ったでしょ? 人狼は村人を喰べちゃうんだから」

「!」

「だから今夜は、私がともくんを喰べちゃうからね」

「……」


 えぇ……。

 ――その時、またしても微居君の席の方から、ゴトッという音が聞こえた。

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