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第87話:未央さん

「あっ、見付けた! 浅井君浅井君!」

「え?」


 今日はまーちゃんのご両親が用事があるらしく、まーちゃんが幼稚園に未央ちゃんのお迎えに行ってるので僕は一人で下校していたのだが、唐突に見知らぬ女性から声を掛けられた。

 ど、どちら様でしょうか?

 どこかでお会いしたことありましたっけ?

 でも何故か初対面なはずなのに、そこはかとない既視感がある……。

 歳は二十代中盤くらいだろうか。

 溜め息が出る程の美人だが、髪型がツインテールなのが歳と不相応で、それが逆にギャップ萌え的な要素を醸し出している。

 ……ん? 待てよ。

 僕の知り合いでツインテールといえば……。


「浅井君浅井君!」

「っ!?!?」


 にわかに謎の美女は僕に抱きつき、僕の顔に頬擦りをしてきたのだった。

 ニャッポリート!?!?

 しかも謎の美女は相当ご立派なおっぷぁいモノをお持ちらしく、僕の胸に特大ビーズクッションがむにゅんむにゅん当たっている……!(迫真)


「ちょ、ちょっと!!? 何ですか急に!!? 困ります!!」


 こんなところ誰かに見られたら、あらぬ誤解を受けてしまう!


「もー、つれないなー、私と浅井君の仲じゃない。、よくお姉ちゃんと三人で遊んだでしょ?」

「二十年前!?!?」


 僕はまだ十六歳ですけど!?

 も、もしかして……。


「あ、気付いたみたいだね。そう、私は未央だよ」

「っ!?!?!?!?」


 みっぽりーとおおおおおお!?!?!?!?!?




「この時代から二十年後にね、梅ちゃんがタイムマシンを発明したんだ」

「……マジかよ」


 あれから僕と未央ちゃん……いや、未央は、近くの公園のベンチに移動してきた。

 僕の右隣に座る未央さんは、確かに今の未央ちゃんの面影を残してはいるものの、酸いも甘いも噛み分けた大人の女オーラを全身から放っている。

 最初は何かのドッキリかとも思ったけれど、今確信した。

 この人は確かに未央ちゃん本人だ。

 義理の兄である僕がそう感じているんだから間違いない。


「じゃあ、未央さんはそのタイムマシンに乗って今の時代ここまで来たってことですか?」

「うん、そんなところ。あくまでまだ試作品だったらしいから、ある種の賭けだったけどね」

「……」


 やっぱ変公あいつとんでもねーな!?!?

 遂にタイムマシンまで作りやがった!!!

 しかもその実験体に未央さんを選ぶとは!?

 もしもタイムパラドックスで、今の未央ちゃんと未来の未央さんがアレでアレしちゃったらどうするつもりなんだよッ!!(フワッとしたSF知識しかないのでフワッとしたコメントしかできない)


「……でも、何でわざわざこの時代に? 何か大事な用事でもあるんですか?」

「んふふー、そんなの決まってるじゃない。浅井君浅井君!」

「え? ――!?」


 途端、未央さんは僕とゼロ距離まで詰め寄り、またしても僕に抱きついて頬擦りをしてきた。

 ほっぽりーと!?!?


「はぁ~、落ち着く~。やっぱ浅井君最高~」

「み、未央さんッ!?!?」


 いつもの幼女未央ちゃんならまだしも、大人未央さんが僕に頬擦りしてくるのは絵面がヤベェっすよッ!!!

 最近はそういうのマジで厳しいんですから!!

 万が一こんな現場をポリスメンに目撃されたら、未央さんの方がパトカーにニャッポリートされちゃいますよッ!!!

 僕は慌てて未央さんを引き剝がした。


「むう、せっかく二十年もの未来から遠路はるばる会いに来た私に、その態度はないんじゃない?」

「い、いや、でも……。え? 未央さんがこの時代に来たのって、僕に会うためだったんですか?」

「そうだよ! やっぱこの時代の浅井君にはこの時代でしか会えないからね! 梅ちゃんに懇願して、タイムマシンの被験者第一号にしてもらったんだ!」

「えぇ……」


 むしろ自分から立候補したのかよ……。

 二十年経っても怖いもの知らずの性格は変わってないんですね……。

 三つ子の魂百までとはよく言ったもんだ。

 それにしても、まさか二十年経っても僕のことをこんなに兄として慕ってくれているとは。

 多分二十年後は僕もまーちゃんと結婚してるだろうから、僕と未央さんは正式に兄妹になっているのかな?

 もしも違ってたら怖いから聞けないけど……。


「と、いうわけで、今日は浅井君成分をいっぱい吸収しちゃうぞ~。浅井君浅井君!」

「どういうわけですか!? み、未央さんッ!?」


 三度みたび僕は未央さんから熱烈な頬擦りをされた。

 そろそろ僕の頬が擦り切れちゃうそうです隊長!!(隊長?)


「――ともくん、その人、誰?」

「あさいくんあさいくーん」

「――!!!」


 こ の 声 は。

 恐る恐る声のしたほうに視線を向けると、そこにはこの時代の未央ちゃんと手を繋いだまーちゃんが、虚ろな眼で僕を見据えていた。

 あああああああああああああああああああああああああああああああああ。




「こ、これは違うんだまーちゃんッ!!!」

「何が違うの? ちゃんと説明してくれるかな?」


 依然まーちゃんは無色透明な瞳のまま、寒気がする程低いトーンで僕の心を抉ってくる。

 久しぶりのヤンデレまーちゃん出たッッ!!!!

 初めて変公に会った時もこれとまったく同じシチュエーションだったけど、何故まーちゃんは彼氏の浮気現場(いや、断じてこれは浮気ではないが)にことごとく居合わせるのだろうか……!

 これも女の勘というやつなのか……!?

 だとしたら女の勘チートすぎじゃない???

 神様ちゃんとテストプレイしてないでしょ!!?


「あ、お姉ちゃん若ーい。あはは、お姉ちゃんが年下って、何か変な感じー」

「え? お姉ちゃん? ……あなたまさか未央!?」

「うん、そうだよー。二十年後の未来から、梅ちゃんの作ったタイムマシンで来たんだ」

「……何だ、それならそうと早く言ってよ」


 いや理解するの早いなッ!?!?

 流石実の姉妹――。

 遺伝子的な部分で、血の繋がりを感じたんだろうか?(適当)

 てか、一応今は僕も年下なんですけど……。

 ひょっとして未央さん(未央ちゃん)って、僕のことは普段から年下と思ってる?(名推理)


「で、そっちがこの時代の私だね」

「そうだよー。あなたはにじゅうねんごのみおなんだね?」

「うん、そ。あはは、まさか自分自身とこうして会話する日が来るなんてねー」

「みおはにじゅうねんごももーれつかわいいね」

「んふふ、ありがと」


 お、おおう……。

 確かにこれは異様な光景だな。

 未央さんと未央ちゃんの奇跡の邂逅――。

 これマジでタイムパラドックスがニャッポリートしたりはしないのかな??

 それだけが心配なんだけど……。


「それはわかったけど、いつまでそうしてるつもりなのよ、未来の未央」


 そうなのだ。

 実はこうしている間、僕はずっと未央さんに頬擦りされっぱなしだったのだ(迫真)。


「え? そりゃいつまでもだけど?」

「何しれっと言ってるのよッ!! ともくんは私のなんだからねッ!! ともくんから離れなさいッ!!!」

「えー、いいじゃーん、減るもんじゃなしー」

「私のSAN値が減るのよッッ!!!!」


 わ、私のために喧嘩はやめて!(迫真)


「じゃあ半分ずつシェアしよ」

「「は?」」


 半分ずつシェア??


「はい、お姉ちゃんは左半分ね」

「「――!?」」


 そう言うなり、未央さんは頬擦りをやめて僕の右腕にしがみついてきた。

 ふおおおおおお!?!?!?

 当たってます!!

 当たってますよ未央さん、僕の二の腕にアルティメットビーズクッションがッ!!!


「ぐぬぬぬぬ~、きょ、今日だけだからねッ!!」

「まーちゃん!?」


 すると今度はまーちゃんが僕の左隣に腰を下ろし、左腕にしがみついてきた。

 むほおおおおおお!!!!

 今度は左の二の腕にエターナルビーズクッションがああああ!!!!

 これだけビーズクッションがあれば、災害時も安心!(錯乱)


「あー、ふたりだけずるいー。みおもみおもー」

「み、未央ちゃん!?」


 続いては未央ちゃんがいつもみたいに僕の脚に頬擦りをしてきた。

 ついに四肢を拘束されてしまった……!

 新手の拷問かな???


「んふふー、浅井君浅井君!」

「もう! ともくんは私だけを見ててよねッ!」

「あさいくんあさいくーん」

「……」


 言っとくけどこれ、ハーレムじゃないからねッ!!!(悪足掻き)




「あ、そろそろ時間みたい」

「「え?」」


 そうしてタップリ三十分程拷問に耐えた頃だろうか。

 未央さんがそう呟くと、途端に未央さんの身体が透け始めた。

 スッケリート!?!?


「元々一時間くらいしかこの時代ここにはいられないって梅ちゃんから言われてたんだー」

「そ、そうなんですか」


 どうやって未来に帰るんだろうとは思ってたけど、そんなVRMMOの強制ログアウトみたいな感じなんですね。


「まあこれで実験は成功だからさー。次はもっと長い時間浅井君とイチャイチャできるように梅ちゃんに掛け合ってみるね」

「えっ!?」


 ま、またいらっしゃるつもりなんですか!?


「もう! 来るのは構わないけど、二度とともくんに今日みたいなことはさせないからねッ!」

「あははー、そんなこと言って、お姉ちゃんは何だかんだ私には甘いんだから、最後はきっと許しちゃうよ?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ~」


 ひょっとして最強キャラは未央さんなのでは?(名推理)


「みらいのみおまたねー」

「うん、またね、過去の私!」


 未央さんと未央ちゃんはハイタッチを交わした。

 今更だけど凄い光景だなこれ……。


「それではみなさん、バーイセンキュー」


 未央さんは往年のとんね○ずのネタを披露しながら、僕達の前から煙のように消えた。

 ああいうところも二十年経っても変わってないなぁ……。


「さ・て・と、ともくん、行こっか」

「え? 行くってどこに?」

「私の家に決まってるでしょ」

「あ……はい」


 まーちゃんからただならぬ圧を感じ、僕は手を引かれるままに歩き出した(因みに僕の脚には未央ちゃんがしがみついたままだ)。


「まったく、未来の未央は本当にしょうがないんだから。未来の未央にともくんが触られたところも、シッカリ私が上書きしてあげるからね」

「……」


 何か変公と初めて会った時も、こんな展開だったような……?


「みおもあさいくんにうわがきするー」

「未央ちゃん!?」


 意味わかって言ってるそれ!?!?


「ダメだよ、上書きは私がするんだから。今日だけは私の部屋に入ってきちゃダメよ。――わかったわね、未央?」

「は……はい」


 ――!!

 今のまーちゃんからは、尋常じゃないオーラを感じたぞ……!!

 思わず未央ちゃんも素直になっちゃうくらいの……。


 ……やっぱり最強キャラはまーちゃんかな?

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