――マジか。
ヨシナリもさっさと潰さないと不味いとは思っていたが、攻撃できる位置に付けないので、引き続き雑魚を削る作業に戻った。 タイマーを確認。
Gランクのプレイヤーが参戦したので、次のFが入るまで少しかかる。
輸送機は厄介だが、プレイヤーの数はかなり多い。
今の所は特に考えずに無心で敵の数を減らす事に専念すればいいだろう。
それに拾った狙撃銃は使ってて楽しいのでしばらくはここで大人しく状況が変わるのを待つべきだ。
レーダーを確認。 光点による表示でしか分からないが、動きで何かは理解できている。
味方に押し留められているのは陸上戦力。 高速で近寄って来るのは蜂、動きが遅いのは蛾。
前線の真上で止まっているのは巨大蛾だ。 他のプレイヤーも状況を理解しているようで巨大蛾らしき反応は早々に消えている。 恐らく狙撃銃ではなくミサイルを惜しみなく叩き込んで撃墜しているようだ。
敵に味方を守るといった概念はないのか、消え方とミサイルの動きから特に妨害されずに減らせているように見える。 取りあえずはこのまま膠着する事になりそうだ。
ヨシナリの居る位置は弾薬庫に比較的近く、弾が切れれば補給を行ってまた狙撃を再開する。
淡々と機械のように敵機を撃墜していたが、不意に発射した弾丸が狙った位置に飛ばずに外れた。
銃の不具合かとも思ったが、問題はない。 恐らく精神的な疲労による物だろう。
機体もそれなりにダメージを受けているのでそろそろ一度休憩も兼ねてメンテナンスに入るべきか。
弾薬はボタン一つで呼び出せるのに機体は消耗するので、無限には戦えない。
関節の疲労、燃料の消耗等、理由は様々だが、定期的に補給は必要だ。
加えてヨシナリ自身の集中力も無限ではないので、パフォーマンスを維持する為にも少し休む必要がある。
メンテナンス用のハンガーへ向かうと既に先客が修理と補給を行っていた。
取りあえず並んでいる様子はなかったのでヨシナリは空いているハンガーに機体を預けてアバター姿で地面に降り立つ。 周囲を見ると他のプレイヤーも休憩しているのか座り込んだり、ログアウトしている者もいた。
ヨシナリも一度ログアウトでもするかと考えていたら、近くのアバターが近寄って来る。
「どうも、おつかれっす」
「どうも、お疲れです」
プレイヤーネームは『マルメル』アバターは初期のままなのでヨシナリのものと全く同じだ。
「いやぁ、初のイベントって事で挑んだんですけどめっちゃキツいっすね。 外はどんな感じですか? 自分は良いのをもろに喰らったので修理中で動けないんですよ」
ちらりと彼の機体を一瞥。 機体はプレイヤーネームと紐づけられているので見れば分かる。
機体名は『アウグスト』手に小さな円盾、脇には突撃銃があるがカスタマイズされているのかあちこちのパーツが初期のものと違う。 恐らく買い替えずに強化する方向でやり繰りしているようだ。
武装面に集中しているのか機体には一切手を付けられていない。
「爆撃機だけじゃなくて雑魚を無限に吐き出す輸送機まで出てきましたが、Gランクの人達が入って来た事もあって今の所は大丈夫そうですね」
「うわ、マジっすか。 今の所は抑えられてる感じみたいですけど、まだ十時間以上残ってるんだよなぁ。 これ十二時間とか無理ゲー過ぎません?」
「それはちょっと分かります。 深夜帯とかになると露骨にログイン人数減るでしょうしね」
このイベントは正午に始まって日付が変わると同時に終わる。
恐らく家庭によっては就寝時間の関係や翌日仕事を控えている社会人は最後までは居ないだろう。
逆に業務を済ませてから参戦する者もいるので、減るだけではないだろうがトータルでは間違いなく減少する。
「えっとヨシナリさんでいいんですよね? ランクはどれぐらいですか? 俺はIです」
「俺もIですから最初からいましたよ」
「ほえー、見た感じダメージじゃなくて補給で来てますよね? って事は今まで無傷?」
「ビルの屋上でチクチク撃ってた事もあってまともに貰ってはいないです」
「そりゃ凄い」
「そっちはどうなんですか? 見た感じ前線行ってた感じですか?」
装備から見て基地内で狙撃するよりも防壁の上で弾幕を張るか、前線で殴り合うかのどちらかだろう。
「いやいや、流石にそんな度胸はありませんよ。 防壁の上で撃ちまくってただけです。 その時に機銃を喰らったので動ける内に逃げて来ました」
賢い選択だと思った。
大抵は欲張ってギリギリまで粘る者が多いが、早々に引き上げる割り切りの良さは彼の強みだろう。
「ならそろそろ戻る感じですか?」
「そのつもりなんですけど、一人だとさっきと同じようにあっさりやられてここに戻ってきそうだったのでカバーし合える仲間が欲しくてですね……」
あぁなるほどとヨシナリは納得した。
わざわざ声をかけた理由は手持ち無沙汰と言う事もあったが、使えそうな仲間探しも兼ねていた訳だ。
ヨシナリを選んだ理由も恐らく損傷が少なかったので腕利きだとでも思ったのかもしれない。
意識か無意識かは知らないが、単純な馴れ合いではなく多少なりとも利害が絡んだ方がお互い高いモチベーションを維持できるのでゲーム内で手を組む事を考えるなら健全な関係を築けるだろう。
「そういう事なら喜んで。 俺の機体がメンテ終わるまで少しかかるので、どう動くかの打ち合わせでもしますか?」
ヨシナリも一緒に戦ってくれて、いざと言う時にフォローしてくれるプレイヤーの存在はありがたい。
特に先はまだまだ長いこの状況では何が起こるか分からないので、いい方向に転がりそうな要素は可能な限り押さえておきたかった事もあったが、このマルメルというプレイヤーの打算を含んだ友好的な態度が好ましかったので二つ返事で頷いた。
ヨシナリがあっさりと頷くとは思わなかったのか、マルメルは少し驚いたようだったがすぐに嬉しそうにありがとうございます、よろしくお願いしますと手を差し出すのでしっかりと握る。
「では話が纏まった所で具体的な話をしましょうか。 具体的にどうし――歳も近いっぽいしタメでも良いですか?」
「どうぞどうぞ。 俺もそれで行かせて――行かせて貰うな」
「了解。 そっちは何かプランがあったりしたのか?」