マルメルの機体が両手に持った突撃銃と腰にマウントされた二挺の短機関銃が火を噴き、彼の対戦相手の機体が瞬時に穴だらけになった。
バラバラになった敵機を見てマルメルはうらぁ!と勝利の雄叫びを上げて腕を振り上げる。
ヨシナリと訓練して実戦での扱い方が形になった所で早速試そうとランク戦に挑んだのだが――
その様子を観戦していたヨシナリは小さく頷く。 思ったよりも相性が良かったようだ。
実際、連戦連勝で、あっという間に既定の勝利数を満たし、マルメルは目の前でIから一つ上のHランクへと位を上げた。
「どうよ!? 今のは中々じゃないか?」
「あぁ、かなり良くなってきた。 Iランク帯だと普通に楽勝だったな!」
元々、Iランクは始めたばかりの初心者が大半を占めるランクなので初めて早々――機体の操作に慣れない内に参加する者も多く、そこそこの割合で大した事のない相手と当たる。
それを差し引いててもマルメルの動きは格段に良くなっていた。 試合開始と同時にスラスターを全開にして射程内に肉薄、間合いに捉えたと同時に一斉射撃。 両手と腰の計四つの銃口からフルオートでばら撒かれる弾丸は瞬く間に敵を撃破する。
基本的には速攻かけての瞬殺を意識しており、機体もそれを活かせるように改良を施した。
対人戦だと一対一なのでやられる前にやれと余計な装甲などは全て捨てて、武器と速度を強化する為のスラスターをあちこちに取り付けて機動力を可能な限り向上させて成功率を上げる。
「いや、嵌まれば強いね! この『正面から奇襲作戦』!」
「冷静に考えると追加装甲でかなり固めているか重装甲のパンツァータイプでもない限り、至近距離からあれだけの弾を喰らったら上位機種でも撃墜できるんだから速攻かけるのは割と理に適っているんだよなぁ」
「今の装備だと躱されたら終わるって欠点があるけど、思ったよりも行けるもんだな!」
マルメルが何を言っているかと言うと、奇襲の成功率を上げる為に余計な装備は全て剥がしている。
捨てたものには予備の弾倉も含まれているので、最初の斉射を躱されると予備のダガーしか武器がなくなるのだ。 その為、躱されたり反応されて遮蔽物に身を隠されるとほぼ終わる諸刃の剣だ。
成功すれば勝ち、失敗すれば負けるというギャンブルは彼の性格とも相性が良かった。
「何より、やってて気持ちいんだよね! これ、一人じゃ思いつかなかっただろうからありがとな!」
「いや、多分どこかのタイミングで、この形に落ち着いたとは思うぞ」
「それでもだよ。 速攻が決まって相手を倒した時、すっげー気持ちよかったぜ!」
「はは、気に入ってくれるなら提案した甲斐があったよ」
「攻撃範囲を円形に見立ててその中心に敵機を捉え、停止はせずに射程に入ったと同時に全弾発射。 その間にもスラスターは噴かしたままで、撃破と同時にすれ違うのがベスト。 最高に分かり易いぜ」
一試合ごとに観戦したヨシナリが挙動に関しての指摘を行い、それを聞いてからマルメルは微調整をおこない形にして行く。 取りあえずはセンサー類に頼らず感覚で間合いを計れるようになったので、一先ずは形になったと言える。 後は武器や機体の強化を行って完成度を高めていけばいい。
「Hランクに上がった以上、敵の質も上がっているはずだから徐々に通用しなくなって来ると思う。 その辺は微調整していこう。 とは言っても今の装備で通用するのは精々、Gぐらいまでだろうな。 Fになると武器を厳選する必要があるのは覚えとけよ」
Gランクになると重装甲の機体も現れるだろうし、ソルジャーⅡ型が出てくるとⅠ型の機動力では勝負にならないのでまず通用しない。 そしてパンツァータイプにはまず通らない。
装甲もあるがエネルギーシールドがあるので並の攻撃では効果はないだろう。
「ま、将来の事はその時になったら考えるって事で、取りあえずはこの手で行ける所まで行くぜ!」
「うん。 今はそれでいいと思う。 取りあえず次は俺の番でいいよな?」
「あぁ、上手いアドバイスができるか自信はないけど、応援はしてるぜ!」
「はは、取りあえず頑張るよ」
そう言ってヨシナリはランク戦に参加。 さっさと勝って上に上がろうと気合を入れる。
上を目指したいと思っていたが、今はそれよりもマルメルに偉そうに色々言った手前、ここで自分が負けるのは非常に恥ずかしいと思っているからだ。
ここは意地でも勝ちに行きたい。 そう考え、油断せずに戦いに臨む。
――ちょっと緊張するな。
ヨシナリの機体――ホロスコープの装備は新しく購入したセミオートライフルだ。
色々考えたがマルメルと組む事を意識して遠距離特化で行こうとこの装備に落ち着いた。
今のヨシナリの腕ならそう外さないと思っており、当てられる自信もある。
さっさと胴体を撃ち抜いてケリをつけよう。 フィールドは荒野。
射線が通りやすく、比較的相性の良いフィールドだ。 行ける。
ヨシナリはライフルを構えて試合の開始を待つ。 位置関係も問題ない。
開始と同時に喰らわせてやる。 試合開始のカウントダウンが始まり――開始された。
同時に発射。 距離はあるが目視できる距離ではないので大抵の奴はこれで終わり――
「は?」
思わずヨシナリは声を上げる。
何故なら相手は瞬間的にスラスターを噴かして躱したのだ。
アレに反応するのか? マジかよと思ったが驚いたのも僅か、即座に狙いを付けて次弾を発射。
ボルトを操作する手間がないのでセミオートの狙撃銃は便利だ。
ソルジャータイプの推進力は把握しているので、噴かして躱すにしても限度がある。
敵の位置は掴んでいるので次で仕留め――また躱された。 躱した直後なら行けると思ったが、敵は機体を器用に半回転させて回避しながら真っ直ぐにヨシナリの方へと向かって来る。
「おいおい、嘘だろ」
呟きながら発射。 また躱される。
それなりに自信はあったのでここまで躱されると面白くない。
意識をもっと研ぎ澄ませ。 回避の傾向を読み取って撃ち抜け。 これは一対一のデュエルだ。
横槍が入る心配はないので、視線の先にいる敵に意識の全てを傾ける。
これまでの観察で武装と回避の傾向は読めた。
――次で仕留める。
ヨシナリは当てると念じ、深く息をすると狙撃銃の照準を合わせた。